【1】今年大流行のマイコプラズマ肺炎 |
今年は子どもを中心にマイコプラズマ肺炎が流行しています。マイコプラズマ肺炎は若い人たちが罹りやすい肺炎で、一般の肺炎と違って、比較的症状は軽いのですが、決して侮れない病気です。
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今年は子どものマイコプラズマ肺炎の当たり年 |
今年は子どものマイコプラズマ肺炎の流行期と言われています。10年強にわたって行なわれたある調査によると、マクロライド系の抗生物質に高い耐性を示すマイコプラズマの分離率は2002年までゼロだったものが、今年に入って89.5%まで増加していることが明らかになったと言います。そのため専門家によると、現在ではまだ充分な治療効果を期待できる抗生物質がなく、従って、最も効果が期待できるテトラサイクリン系の抗生物質ミノサイクリンの使用も必要最小限にとどめる必要があるそうです。
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大流行中のマイコプラズマ肺炎、抗生物質耐性化が9割 |
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瞬く間に周囲へ拡散 |
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マイコプラズマ肺炎は細菌のマイコプラズマによって引き起こされる感染症で、幼児から青年期に多く見られ、通常の細菌性肺炎とは違って比較的重症に感じることが少なく、X線所見も異なることから、過去には「異型肺炎」とも言われていました。通常は秋から冬が日本における流行期とされまするが、今年は春から流行が始まり、最近再び勢いを増していると言います。その証拠として、ある調査では患者から分離されたマクロライド系抗生物質に対する耐性菌の割合は約90%と過去最高を記録しているとのことです。しかも、この耐性化は全国規模で見られており、ひとたびあるクラスで発症者が出ると、潜伏期間や咳の強さも加わって、瞬く間に周囲へ拡散してゆきます。しかも、学校保健法上マイコプラズマ肺炎の流行を防ぐ積極的な措置の規定はないのだとのことです。 |
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マイコプラズマそのものには無効か |
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菌の耐性獲得状況を調べたところ、現在マイコプラズマ感染症に使われている主なマクロライド系抗生物質の全てに高度な耐性化が認められたと言います。要するに、以前はマクロライド系抗生物質が優れた効果が見られていたにも拘らず、症状が長期化している症例や重症化例が増えているのはこのためで、最早同薬はマイコプラズマそのものに無効になっているのだそうです。さらに、マイコプラズマ感染症に使用できるもう1つの抗菌薬ミノサイクリンについても、耐性菌は認められていないものの、抗菌力が非常に優れているというわけではないそうです。なお、ミノサイクリンは歯が着色する副作用があるため、8歳未満の子供に対しては慎重な投与が求められており、ミノサイクリンを投与する場合の使用期間は通常3日、長くても5日以内が望ましいとされています。 |
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若い人が罹りやすいマイコプラズマ肺炎 |
比較的症状が軽く、子どもや若者が罹りやすいマイコプラズマ肺炎 |
肺炎というとお年寄りが罹ると命取りにもなりかねない病気ですが、マイコプラズマ肺炎は10〜30代の若い人たちが罹ることが多く、しかも割と軽症なために普通の風邪と見分けがつきにくく、診断が遅れることがあります。一般的によく処方される抗菌薬では効かず、稀に心筋炎や髄膜炎などを併発することもありますので、油断はしない方が無難でしょう。なお、マイコプラズマ肺炎の症状は多くの場合、咳や発熱、頭痛、倦怠感などが起こります。痰の出ない乾いた咳が激しく、しかも長く続くため、胸や背中の筋肉が痛くなることも珍しくありません。38度以上の高熱も伴いますが、重症化することは余りなく、普通とは違う肺炎という意味で「非定型肺炎」とも呼ばれます。
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一般的に用いられる抗菌薬では効かない |
マイコプラズマ肺炎の原因になるマイコプラズマとは、ウイルスと細菌の中間ほどの大きさの微生物です。生物学的には細菌に分類されますが、他の細菌と異なるところは細胞壁がない点です。一般的な細菌感染に対してよく処方されるペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は細菌の細胞壁に作用するものですから、細胞壁をもたないマイコプラズマ肺炎には効きません。マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗菌薬がよく効き、殆どの場合、外来の内服治療で治ります。ただし、高熱で脱水症状があるとか、激しい咳で眠れなかったり食欲が大きく妨げられているような場合は入院が必要になることもあります。
マイコプラズマ肺炎は、咳で飛び散った飛沫を吸い込んで学校や家庭内に感染が広がりますが、インフルエンザのような広い地域での流行ではなく、比較的狭い地域及び集団での流行が散発的に発生するのが一つの特徴です。以前はオリンピックが開かれる年にオリンピック同様4年ごとの周期で流行が見られたため、「オリンピック病」とか「オリンピック肺炎」などと呼ばれた時期がありましたが、1990年代に入るとこの傾向は崩れ、今ではほぼ1年中流行が見られ、特に早春にかけて流行のピークが多く見られます。
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専門医での早期診断&早期治療が決め手 |
子どもが学校などからマイコプラズマを持ち帰ると、1〜3週間の潜伏期間を経て家族に感染することがよくあります。予防接種はなく、決定的な予防法はありませんが、家庭では、マスクやうがい、手洗い、また、患者の使うタオルやコップを使わないなど普通の風邪と同じような予防法を心懸けるようにしましょう。何れにせよ、幼稚園や保育所、学校などで流行することが多いので、流行している時期に子どもに咳や発熱などの症状が見られたら、早めに呼吸器科や小児科に受診することが肝要です。
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【2】マイコプラズマ肺炎の特徴 |
本節ではマイコプラズマ肺炎の病理について、いささか専門的な観点から解説し、合わせてその治療法等について取り上げました。
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マイコプラズマ肺炎とその特徴 |
■マイコプラズマ肺炎の特徴 |
マイコプラズマ肺炎には次のような特徴があり、これらの所見から医師はマイコプラズマ肺炎を疑います。血清のマイコプラズマ抗体価を検査することによって確定診断が為されますが、結果が出るまで1〜2週間かかるため、これを待っていては治療が間に合いません。医師が上記のような特徴的所見からマイコプラズマ肺炎を疑い、早期診断&早期治療を行なうことが重症化を防ぐ決め手となります。 |
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マイコプラズマ肺炎の症状 |
最も特徴的な症状は咳で、殆ど全ての症例に認められ、夜間に頑固で激しい咳が現われます。発熱も必発で、殆どが39℃以上の高熱が出ます。要するに、本疾患の主症状は咳漱と発熱ですが、最初は全身倦怠感、発熱と頭痛で始まることが多いと言われます。咳は初発症状後3〜5日くらいから始まることが多く、当初は乾性の咳ですが、経過に従い咳は徐々に強くなり、解熱後も長く続きます(3〜4週間)。特に年長児や青年では後期には湿性の咳となることが多く認められます。また、小児では喘鳴を認めることが多いという報告もあります(約40%)。通常の鼻風邪症状はマイコプラズマ肺炎では多くないとされていますが、症状については罹患年齢によってかなり差があり、幼児では鼻風邪症状が見られることは稀ではないとされています。小児ではその他に嗄声や耳痛、咽頭痛、胃腸症状、胸痛が約25%で見られます。しかし、肺炎にしては元気で、一般状態も悪くないということがこの疾患の特徴であるとされ、合併症としては、中耳炎や発疹、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎などがあります。また、理学的所見では75%の症例で聴診上異常を認め、乾性ラ音が多い。また、約半数に咽頭炎を認め、25%に頚部リンパ節腫脹が見られます。稀に胸部レ線上異常陰影があるのに、聴診上異常を認めない症例がある。胸部レ線所見は多様なパターンを取りますが、び漫性の網状浸潤影が一般的です。ただ近年の研究では、び漫性の間質性パターンはマイコプラズマでは稀で、ウイルスやクラミジアによるものの方が多いと言われています。検査所見では白血球数は通常正常範囲内とされますが、報告により違いがあり、少なくとも左方変位を伴うような白血球増多は余り見られないとされます。回復期には好酸球増多を認めることが多いとされます。なお、寒冷凝集反応は非特異反応ですが、マイコプラズマを疑う場合有用な検査方法です。AST及びALTの上昇を認めることがあります。
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マイコプラズマ肺炎とその病理 |
マイコプラズマ肺炎とはどんな疾病か |
マイコプラズマ肺炎は異型肺炎すなわち胸部レ線上肺炎像を呈しますが、細菌性の定型的な肺炎と違って重症感の少ない一群の疾患のひとつで、近年は非細菌性肺炎という概念に包括されることが多くなりました。マイコプラズマ肺炎は通常異型肺炎の30〜40%、流行年には60%程度を占めると言われており、異型肺炎の原因にはこれ以外にアデノウイルスやクラミジア等も含まれます。旧感染症発生動向調査では異型肺炎の発生動向調査が行なわれていましたが、これにはマイコプラズマ肺炎以外にもクラミジア肺炎やその他のウイルス性肺炎など違った疫学パターンを示す疾患が含まれる可能性がありました。新法施行により医学の進歩に合わせてより疾患特異的な発生動向調査を行なうという目的から、病原体診断を含んだマイコプラズマ肺炎として発生動向調査を行なうこととなりました。
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マイコプラズマ肺炎の疫学 |
マイコプラズマ肺炎は小集団内で流行を起こすことが特徴のひとつで、かつては4年周期でオリンピック開催年に大きな流行を繰り返してきたため、「オリンピック病」などと呼ばれていました。しかし、近年この傾向は崩れつつあり、1984年と1988年に大きな流行があって以降は、全国規模の大きな流行ははなく、地域流行を反映した晩秋から早春にかけての報告数の増加が認められています。この数年は散発的な流行が多くみられ、2000年以降その発生数は毎年増加傾向にあります。
近年の細菌性肺炎の減少に伴い、マイコプラズマ肺炎の肺炎全体に占める割合が高まりつつあり、小児科では頻度の高い感染症のひとつとなっています。また、マイコプラズマは市中肺炎の原因菌としては肺炎球菌に次いで多い微生物で、本菌による肺炎は比較的軽症であることが多く、10〜30代の若年成人に好発するのが特徴です。乳幼児では感染は見られるものの不顕性或は軽症に経過することが多く、罹患年齢は幼児期、学童期、青年期に多く、病原体分離例で見ると7〜8歳にピークがあります。
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マイコプラズマ肺炎の病原体 |
マイコプラズマ肺炎は、自己増殖可能な最小の微生物で、生物学的には細菌に分類される肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)によって発症します。他の細菌と異なり細胞壁を持たないため多形態性を示し、ペニシリンやセフェムなどの細胞壁合成阻害の抗生物質には感受性がありません。PPLO培地上にて増殖可能ですが、日数がかかり(2〜4週間)、操作もやや煩雑で、雑菌増殖による検査不能例が5〜10%発生します。肺炎マイコプラズマは熱に弱く、界面活性剤によっても失活します。また、感染様式は感染患者からの飛沫感染によるものですが、それには濃厚な接触を必要とします。病原体は侵入後、粘膜表面の細胞外で増殖を開始し、上気道或は気管、気管支、細気管支、肺胞などの下気道の粘膜上皮を破壊します。特に気管支、細気管支の繊毛上皮の破壊がよく知られており、粘膜の剥離や潰瘍を形成します。気道粘液への病原体の排出は初発症状発現後、2〜8日で見られるとされています。潜伏期は4日〜3週間で、最初の吸入菌量に依存するとされます。
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マイコプラズマ肺炎の検査と診断 |
どのように診断するか |
培養検査には特殊な培地(PPLO培地)を使用しますが、細菌培養に比べて長時間を必要とするため、診断は主に血液を用いた血清抗体価測定に依存しています。しかし、血清抗体価測定法は早期に診断ができないといった欠点があり、このためIgM抗体を迅速に検出するイムノカード(IC)法が開発されました。しかし、この方法は偽陽性例が多く、陽性持続期間も長いため、急性感染を確定する方法ではないとされています。
マイコプラズマ・ニューモニエは小児から30代の成人における呼吸器感染症の一般的な病原体で、年間に人口の5〜10%が罹患しています。季節を問わず流行し、乳幼児や高齢者にも感染がみられます。このマイコプラズマの分離培養には長い時間と特殊な培地が必要なため、診断には一般的に血清抗体検査が行なわれます。マイコプラズマ抗体にはPA法とCF法とがあり、共にIgMとIgGを測定しますが、PA法は主にIgM、CF法はIgGを測定するため、急性期を捉えやすいPA法の方がよく検査されています。また、PA法で単一血清では320倍以上、ペア血清では4倍以上の抗体価の上昇を認めたらマイコプラズマ感染症と診断できます。ただし、小児では320倍以上の抗体価の上昇が数ヵ月間認められる場合があり、単一血清での解釈には注意が必要です。また、寒冷凝集反応は血清中の冷式の赤血球自己抗体である寒冷凝集素を検出する検査で、本来は寒冷凝集素による貧血(寒冷型自己免疫性溶血性貧血)の診断に用いますが、マイコプラズマ感染症を疑う時に検査されています。マイコプラズマ感染症に特異性はなく、陽性率は25〜50%で、これは伝染性単核球症やサイトメガロウイルス感染症などでも上昇します。その他、試薬販売の簡易EIA法キットのIgM抗体検査があります。また、抗原系検査としてはマイコプラズマ・ニューモニエDNA同定(PCR)検査がありますが、保険未収載です。
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病原体診断 |
確定診断には、患者の咽頭拭い液や喀痰よりマイコプラズマを分離することですが、手技が煩雑なことより限られた施設でしかできないという欠点があります。臨床では血清学的診断がよく用いられ、補体結合反応(CF)や間接的赤血球凝集反応(IHA)にてペア血清で4倍以上の上昇を確認するか、シングル血清ではそれぞれ64倍以上、320倍以上をもって診断されます。近年迅速診断としてPCRによる肺炎マイコプラズマのDNA検出法が開発されており、臨床的に有用性が高いものの、実施可能な施設は限られているのが現状です。
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マイコプラズマ肺炎の診断と治療の方法 |
マイコプラズマは細菌の一種ですが、一般の細菌とは異なって細胞壁を持っていません。そのため、β-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系やセフェム系など)は無効で、蛋白合成阻害を主作用とするマクロライド系やテトラサイクリン系、ケトライド系抗菌薬が第一選択薬となります。また、一部のニューキノロン系薬も有効性が確認されています。一方、マイコプラズマのマクロライド耐性株が2000年以降に日本各地で分離されるようになりましたが、その頻度は小児科領域で40〜60%にも及んでいるので注意が必要です。なお、大部分のマイコプラズマ肺炎は比較的良好な経過を取りますが、時に急性呼吸不全を起こす重篤な症例も認められます。このような重症の場合では、抗菌薬と共に副腎皮質ステロイド薬の併用が有効であるとされています。
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マイコプラズマ肺炎の治療と予防〜マイコプラズマ肺炎に気づいたらどうするか?〜 |
家族内や小集団内で発生することから、周囲の人たちがマイコプラズマ肺炎と診断されていて頑固な咳が続く場合には病院を受診しましょう。また、世間一般に広く使用されているβ‐ラクタム系抗菌薬が効かない場合は、医師に相談して下さい。
マイコプラズマ肺炎の治療は抗生剤による化学療法が基本ですが、ペニシリン系やセフェム系などβ-ラクタム剤には感受性はなく、マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系に感受性を示します。一般的にはマクロライド系のエリスロマイシン、クラリスロマイシンなどを第一選択としますが、学童期以降ではテトラサイクリン系のミノサイクリンも使用され、投与期間は通常10〜14日間とされています。なお、特異的な予防方法はなく、流行期には手洗いやうがいなどの一般的な予防方法の励行と患者との濃厚な接触を避けることが必要です。
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参考1:マイコプラズマ肺炎についての参考書 |
◆参考図書1:マイコプラズマ肺炎についての参考図書 |
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