【3】TPPと医療〜TPPで変わる医療制度とその問題点〜 |
TPPが全面的に導入されると、日本の医療制度はどのように変わるのか。本節ではその点で懸念される事態について取り上げ解説しました。
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TPPがもたらす医療・医薬品のメリットとデメリット |
TPPで医療が自由化した場合に起こりえること |
TPP参加で心配されていることのひとつが、公的医療制度についての自由化です。たとえばTPPに加入すると、医療保険会社が今の日本の公的医療保険に進出することが可能となりますが、これによって国民皆保険制度が崩れることが懸念されているのです。今の日本の国民医療費には税金が投入されており、国民医療費を賄う財源では、保険料が約50%、税金が約40%、患者負担が約10%です。さらに国民医療費は国民所得の10%を越えていて、さらに増加傾向にあります。この状態のままTPPに参入すれば利益が出るのは難しいと考えられており、そのため、公的医療制度にTPPで介入される可能性は低いと考えられます。公的医療制度は社会制度の根幹なので、これを企業が変えることは難しいと言えるからです。また、政府も公的医療制度はTPPの対象としないという方針です。その一方で、TPPに参入するならば利益の出る形になりますので、高所得者用の高額な保険料で手厚い保険、低所得者用の保険料を抑えて、その分、給付制限や上限を行なうなどの問題が生じる可能性があります。つまり、公的医療保険での格差が生じる可能性が懸念されているのです。それでは、政府は独自システムを盾に、的医療制度をTPP対象にすることを拒否できるかと言うと、その場合はISD条項を盾に、独自システムは関税と同じで、他国の企業から進出機会を逸したとして損害賠償を請求される可能性もないわけではありません。ちなみにISD条項(Investor
State Dispute Settlement)とは、企業への干渉を防ぐために主に自由貿易協定(FTA)を結んだ国同士において多国間における企業と政府との賠償を求める紛争の方法を定めた条項で、要するに、企業に損害が発生した時、企業が政府に対して損害賠償を請求することができるとする条項です。
さらに混合診療についても問題になります。現在日本では混合診療を原則禁止しています。混合診療とは、ある病気の診療に対して公的医療保険の適用診療と適用外の診療が混在することで、一方、混合診療禁止とは、混在自体を禁止し、もしも両方が混在した場合は公的医療保険の適用診療分も適用とせず、全体を適用外として自費診療にしています。これに対して混合診療を認めると、1人の医療に格差が生じる懸念が指摘されます。分かりやすく言えば、混合診療を認めた場合、「お金を払うほどよりよい医療が受けられる」という可能性が指摘されているのです。既に病院の個室利用などで実感することがあると思いますが、お金があって高額な個室料を払えばホテル並みの病室に入院できるわけです。TPPでは混合診療が解禁になると予想されており、そうなると、現在あるような差額ベッド代金による差別が診療内でも行なわれるようになる危険性が高いと心配する人が多くいるのです。
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TPPで起こりえる医薬品及び医療機械の自由化 |
それでは、医薬品や医療機械の自由化によって起こりえることは何でしょうか? メリットは海外承認されている医薬品や医療器具が安く輸入されることであり、デメリットは医薬品及び医療器具の安全性が確保できるかどうかが不明なことです。たとえば医療器具は多くは開発コストがかかるため、海外の医療器具を承認しているのが現状で、海外で一定の安全性があると判断されている医療器具を承認していることが多いです。TTPに参加すれば、医療器具の価格が下がったり、医薬品の値段も下がったりして、国民医療費の上昇を抑制できる可能性はあります。その一方で問題になるのは安全性の問題です。世界で承認されている医療器具について日本独自の判断で承認をしなかった場合、関税と同じということで、ISD条項を盾に、やはり企業から国が訴えられる可能性があります。海外で安全だからと言っても、日本人にとって安全であるかどうかを判断することは大切ですから、当然独自の安全基準は必要になります。
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国民皆保険はどうなる?〜TPPは医療保険制度にも関係する〜 |
TPPに加盟すれば、関税は原則ゼロになり、海外でも自由に企業が活動できるようになります。医療分野で言えば、医薬品や医療機器の輸入・輸出の自由化です。現時点では、日本は医薬品と医療器具は輸入の方が多くなっています。サービスの点で言えば医療保険が問題になります。TPPに加盟した場合、加盟諸国の医療制度の影響を少なからず受けることが考えられます。まずは他の環太平洋の国々の医療制度を見てみましょう。
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参考:TPPに関連する国々の医療制度 |
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- アメリカ:
医療保障は民間保険が中心で、国民の約6割は雇用主が任意で提供する民間医療保険、約1割は個人で医療保険に加入しています。障害者や高齢者は公的医療保険メディケアに加入し、メディケアは連邦政府が社会保障税で運営しています。2007年の時点で無保険者が約15%も存在します。また、低所得者の公的医療保険はメディケイドと言い、これも連邦政府で運営されています。さらに民間医療保険になると、年間保険料は自己支払いがあり、診療時にも自己負担があります。高額の場合は越えた部分で全て自己負担になります。さらに既往歴によっては医療保険に入れないこともあります。つまり、日本の民間医療保険みたいなものです。
- カナダ:
国民医療保険制度をメディケアと言い、州などが保険者で医療保険税など州税財源で運営しています。メディケアは急性期の入院費用と医師の診察費をほぼ全額補償しますが、歯科や薬剤費などは対象外のため、実際は自己負担は約3割です。また、専門医や病院の診療を受けるためにはかかりつけ医の紹介が必要です。
- オーストラリア:
国営医療制度であるメディケアは医療目的税を主財源とし、民間保険の併用を推奨しており、開業医を主治医に登録する義務があります。一般診療所の外来患者と主治医の紹介で専門医や公立病院を受診する場合は、その医療費はメディケアが支払いますが、公立病院の医師を指名できません。公立病院を直接受診すると医師の指名ができますが、民間病院に受診するのと同じで、いったん全額を支払い、事後請求で、診療費の入院なら75%、外来なら85%が返ってきます。
- 韓国:
国民皆保険制で、保険者は国民健康保険公団です。国民健康保険公団の補償は、入院8割、外来は5〜7割で、自己負担の比率が高いです。保険対象外の高度診療も多いため、補完的な民間医療保険が普及しています。混合診療もOKです。患者紹介制度で、高度医療機関への紹介なしの受診は保険適用外で自費になります。
- シンガポール:
国からの医療制度はなく、外来は殆どが実費です。国民は給料の何割かを国の管理下にある個人の口座に積み立てることが義務づけられるCPF(中央積立基金)という強制積立貯金制度です。そこから医療費を出したり、余り使わなければ将来の年金になります。完全に個人主義です。
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■TPP締結後、日本の保険制度で起こりえること |
TPP締結後、日本の保険制度で起こりえることをパターン別にまとめてみました。 |
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現状維持 |
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各国の事情があるため、制度は除外項目になるという考え方。その場合、制度は現状維持となりますが、現制度は医療費の上昇に耐えうるものではなくなっています。TPP締結による影響を受けなかったとしても、今後の医療制度改革を自ら行なってゆく必要があります。 |
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完全自由化 |
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TPP締結によって民間医療保険が参入してくると予想されます。その場合、民間医療保険会社は利益を出さないと経営を維持できないので、参入する世代・職種などを限定してくる可能性があります。確実に保険料を支払って給付が少ない世代・職種です。そして、低所得層や高齢者については公的医療保険で補うことになります。今の民間の医療保険と同じですから、既往歴で医療保険への加入を拒否されたり、給付を限定してくる可能性があり、医療格差が起こる懸念があります。医療保険に加入できない人へのセーフティネットを国が作る必要がありますが、何れにせよ保険加入できない人が生じる点では国民皆保険は維持できなくなります。 |
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一部自由化 |
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これはもっともありうるシナリオで、TPP締結によって公的医療保険と民間医療保険の併存が起きるというケースです。公的医療保険ではある一定の割合または病気によって給付が決まっており、それ以上は民間医療保険で補う形になると考えられます。公的医療保険と民間医療保険との割合によっては医療格差が生じる可能性があり、たとえば薬の費用は民間医療保険にすれば、民間医療保険料の支払いができない人は薬なしか自費になる可能性があります。同じ病気でも経済的理由で受けられる治療に格差が生じることになります。また、公的医療保険はそのままで、さらに先進医療に対して民間医療保険を使う場合は混合診療の解禁になります。ただし、先進医療には高額医療費がかかりますから、支払いが多くなると予想されます。たとえば癌治療で粒子線治療を受ける場合、自費では約300万円かかります。混合診療原則禁止の現状では、粒子線治療を行なう場合、今の公的医療保険で適用される癌の検査や化学療法、外科療法は自費になってしまいます。それを例外的に粒子線治療が先進医療として認められると、公的医療保険で適用される癌の検査や化学療法、外科療法は公的医療保険の適用になります。混合診療が可能なのは先進医療と認められた場合のみで、先進医療と認められない場合、全て公的医療保険適用外になってしまいます。混合診療可能になれば民間医療保険が公的医療保険適応以外をカバーすることになるのですが、当然そこには格差が生じます。300万円の治療が可能なら保険料は高いでしょうし、数万円の治療までなら保険料は安いでしょう。当然年齢によって保険料も変わってくるでしょう。今の生命保険、癌保険などをイメージするとよいと思います。 |
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混合診療解禁で医療費はどうなる? |
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混合診療解禁で医療費はどうなる? |
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TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加表明している12カ国は年内にも協定案に大筋合意すると言われており、その交渉分野は工業、農業、医療、金融、知的財産など多岐に渡りますが、交渉は秘密裡に行なわれ、様々な憶測を呼んでいます。医療分野で取り沙汰されていることの一つが、アメリカの要望で「混合診療が全面解禁」になるというものです。もしもこれを契機に混合診療が全面解禁されると医療費はどうなるか。現在病院や診療所で受ける治療や医薬品の殆どに健康保険が適用されており、これらは保険診療と呼ばれ、国が有効性と安全性を確認しています。この精度のお陰で、国民は医療費の一部負担だけで必要な医療を受けられるのです。これに対して健康保険の適用を受けていないものは自由診療と言われます。自由診療の中には、将来的に健康保険の適用を受けられる可能性の高いものもあれば、医療として怪しげなものまで玉石混交で、当然健康保険は使えないので、かかった医療費は全額自己負担になります。日本ではこの保険診療と自由診療を同時に使う混合診療を原則的に禁止しており、これを破ると、通常なら保険が使える治療も全額自己負担しなければならなくなります。そうは言っても、他に有効な治療法が見つからない癌の患者などには、健康保険が適用されていなくても新しい治療を試したい人もいるわけで、そうした患者の選択肢を増やす目的で先進医療が導入されています。先進医療とは、保険適用前の自由診療でも厚生労働大臣が認めた医薬品や技術については、特定の医療機関において保険診療との併用を特別に認めるというものです。先進医療の技術料部分は健康保険が適用されないので全額自己負担ですが、同時に受けた保険診療は通常の一部負担金で利用できます。このように、既に混合診療は部分的に利用できるようになっているのです。ただし、現行の先進医療とTPPで導入の可能性のある混合診療の全面解禁は、保険診療と保険外診療を併用できる点は似ているのですが、両者は全く異質のものです。 |
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保険外診療は永久に全額自己負担!? |
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先進医療は、将来的に健康保険を適用するかどうかを評価している段階の治療や医薬品で、安全性と有効性が確認されると保険診療になるものです。保険外の治療費を全額自己負担するのは健康保険が適用されるまでの経過措置的なもので、効果が認められれば誰もが少ない負担で新しい治療や薬を利用できるようになります。しかしながら、混合診療が全面解禁されると「健康保険が利く治療はここまで」と予め線引きされ、新しく効果的な薬が開発されても健康保険は適用されない可能性が高くなるのです。子の場合、保険外診療は永久に全額自己負担しなければならないので、お金のある人しか医療の進歩を享受できなくなってしまうのです。たとえば保険診療と保険外診療がそれぞれ100万円ずつかかる場合で、将来的な患者の自己負担額の推移を比較してみましょう(保険診療は高額療養費の対象になるので、手続きすれば自己負担額は9万円程度。70歳未満で一般的な収入の人の場合)。現行の制度では、保険外診療が先進医療と認められるまでは全て自費で合計200万円かかりますだが、その治療法がが先進医療と認められると、保険診療部分は健康保険が使えるようになるので、合計109万円になります。そして最終的にその治療法に健康保険が適用されれば合計9万円の負担になるわけです。その一方で混合診療が全面解禁されると、保険診療と保険外診療はいつでも併用できるので、最初から患者の負担は109万円でよいのですが、しかし、保険外診療の治療法には永久的に健康保険は適用されず、負担が下がることはないということになります。このように、混合診療の全面解禁は一時的には自己負担を下げるものの、長期的には患者の不利益になる可能性があるわけです。 |
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【4】TPPと農〜TPPで食の安全は果たして守られるか?〜 |
TPPの導入で農や食の安全は果たして確保されるのか。本節では食の安全を中心にその問題点を取り上げ解説しました。
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TPPと食の安全〜日本がTPPに加入すれば一体どのような事態が生じるのか?〜 |
懸念されるTPPと食の安全性 |
昨年10月のインドネシアのバリ島におけるTPP首脳会合と同年12月のシンガポールにおける閣僚会合に引き続いて、今年の2月に開催されたシンガポールにおけるTPPの閣僚会合が、結局大筋合意をすることなく終了、共同声明では次回会合の見通しさえ言及されませんでした。翌日の各紙の1面見出しは、「TPP暗礁」(東京新聞)、「TPP長期化必至」(読売新聞)、「日米、TPP平行線」(朝日新聞)、「TPP針路見えず」(毎日新聞)と、一様にTPP交渉が行き詰まっていることを表現しました。
TPPは農林水産業だけではなく食の安全にも脅威を与えるものであり、多くの国民の議論が必要なものであるのですが、その秘密主義のため、その内容の殆どが国民に知らされておりません。その脅威とは、輸入関税がゼロになることによる輸入食料の急増と非関税障壁の撤廃がもたらすものです。
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輸入食品の急増がもたらす食品検疫体制の機能低下 |
TPPでゼロ関税となると、米をはじめとして多くの農産物が輸入農産物に置き換わり、国内生産が減少します。農林水産省の試算で明らかになった生産減少率は、米が90%、小麦99%、大麦79%、インゲン23%、小豆71%、落花生40%、甘味資源作物100%、澱粉原料作物100%、蒟蒻芋90%、茶25%、加工用トマト100%、柑橘類9%、林檎9%、パイナップル80%、牛乳乳製品56%、牛肉75%、豚肉70%、鶏肉20%、鶏卵17.5%となっています。需要が変わらなければ、この生産減少分は輸入に置き換わることになります。この試算に基づいて生産減少で置き換わる農産物の輸入量を計算すると、1628万2000トンになります。2011年の食品輸入量が3340万7000トンですから、TPP加入で食品の輸入量は4968万9000トンに急増し、現在の輸入量の1.48倍になるのです。これによって輸入食品の検査体制はどうなるでしょうか。
現在、輸入食品の検査は399人の食品衛生監視員によって担われています。この食品衛生監視員による検査は行政検査と言われていますが、検査率は、2011年は僅か2.8%でした。また、行政検査はモニタリング検査で、検査結果が出るまで輸入を認めない検疫検査ではなく、検査結果が出るのは私たちの食卓に輸入食品が届いてしまった後になります。11年は民間の検査機関(登録検査機関)による検査が8.6%を占めているため、全体の検査率は11.1%になりました。それでも検査率は1割強で、約9割弱の輸入食品は無検査で輸入されていることになります。このような現在の検査体制下で、TPP加入による食品の輸入量が1.48倍になれば、全体の検査率は7.5%に落ち込み、行政検査率は1.89%と過去最低の検査率に落ち込むことになります。とても国民の食の安全を守れるような検査率ではありません。日本のような世界一の食料輸入大国では本来、食の安全の確保のためには水際の輸入食品の検査体制の強化が不可欠です。少なくとも輸入食品の検査率を5割に上げると共に、食品衛生監視員による行政検査を、「輸入食品の検査結果が出た時点で既に食卓の上」というモニタリング検査ではなく、「検査結果が出るまでは輸入を認めない」という本来の検疫検査にする必要があります。このためには、食品衛生監視員を現在の399人から約3000人体制に抜本強化しなければ対応できません。しかし、政府はこのような強化の方向性は持っていません。
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危機に直面する残留農薬問題-ポストハーベスト農薬が増加 |
11年2月に外務省は「TPP交渉の24作業部会において議論されている個別分野」を公表しましたが、その冒頭に《今後の交渉次第で複数の作業部会の成果が一つの章に統合され、または、「分野横断的事項」作業部会のように作業部会の成果が複数の章に盛り込まれる可能性もある》といった記述があります。ここでは「分野横断的事項」がクローズアップされていますが、同事項で検討されているのは食の安全基準であり、外務省発表文には、《同一物品に対して適用される基準(例えば食品安全基準)が国によって異なったり、重複する規制が国内規制当局によって適用されたりすることから生じる企業負担を減らすために、今後新たな規制を導入する前に当事国の規制当局同士の対話や協力を確保するメカニズムの構築を目指す》と書かれています。これは、「TPPで企業負担を減らすために食品安全基準の規制緩和を進めよう」というもので、「特に輸出国の残留農薬基準を輸入国に適用させよう」という狙いが明らかです。ここで注目されるのが米国通商代表部の「2010年外国貿易障壁報告書」です。この報告書は、《米国の貿易に対する重大な障壁となるこれら特定の種類の措置及び慣行を確認し、撤廃しようとする本政権の努力を明示している》文書ですが、米国政府として、自国にとって「重大な障壁となる措置」を貿易相手国に撤廃させようとしているものであるのです。この報告書では、《日本は、ポストハーベスト(収穫後)に使用される防カビ剤を食品添加物として分類し、これに対して完全に独立したリスク評価を受けるよう要求している。(略)さらに、日本の食品表示法は、ポストハーベスト防カビ剤を含むすべての食品添加物の販売の小売時点における告知を要求している。(略)このような要求事項は、日本の消費者が米国産品を購入することを不必要に妨げている》として、ポストハーベスト防カビ剤の食品添加物扱いをやめるよう要求しています。さらに農薬の最大残留基準値についても、《日本がコーデックスの国際基準に合致した基準値の実施措置を導入するよう、米国は日本に対して強く求め続ける》としています(コーデックスとはFAO(国際連合食糧農業機関)・WHO(世界保健機関)の世界食品規格を策定する国際機関で、WTO協定で国際基準と位置付けられています)。なお、ポストハーベスト防カビ剤は柑橘類に使われているOPPとTBZ、OPPナトリウム、ジフェニール、さらに柑橘類とバナナに使われているイマザリルの5品目で、これらが食品添加物から外され残留農薬扱いになれば食品添加物表示から外れることになり、輸入柑橘類やバナナにおけるポストハーベスト防カビ剤の存在が分からなくなります。また、残留農薬として使用量が増える可能性があるのに加えて、農薬の最大残留基準値についてコーデックスの国際基準に合致した基準値を導入したらどうなるでしょうか。ちなみにコーデックスの残留農薬基準は、ポストハーベスト農薬の使用を前提としたもので、収穫後の農薬使用ですから、農薬残留水準は高いです。このコーデックス残留農薬基準が全ての農産物に導入されれば、ポストハーベスト農薬を幾ら使っても何の問題もなくなるわけです。TPPに加入すれば、このような米国政府が要求している食品安全基準の緩和やポストハーベスト農薬の使用規制緩和が、TPPによる企業負担を減らすメカニズムによって否応なく迫られることになるのです。
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非関税障壁の撤廃で食品添加物の急増が不可避となる |
TTPは食品安全基準のような非関税障壁による企業負担を減らす規制緩和メカニズムを導入しようとしていますが、実はTPPを主導している米国政府は食品添加物問題でも日本に対して身勝手な要求をしているのです。
米国通商代表部の「2010年外国貿易障壁報告書」によると、《日本の食品添加物の規制は、いくつもの米国食品、特に加工食品の輸入を制限している。米国及び世界中で広く使用されている数多くの添加物が、古い代替品よりは安全と考えられている新しい添加物を含め、日本では認可されていない。(略)2002年、日本は迅速な審査に関する46品目の食品添加物のリストを作成したが、25品目の添加物は、安全に関する広範囲にわたるデータが利用可能であるにもかかわらず、未だ審査及び認可がなされていない。米国政府は、食品添加物のリストの審査を完了して、食品添加物に関する審査のプロセスを迅速にするよう、日米規制改革イニシアティブを通じて日本に強く要請している》とあります。米国で認められている食品添加物で日本で認められていない食品添加物を使った加工食品は、食品衛生法違反として現在日本への輸入は認められていません。そのため、米国政府は日本政府に対して米国で使われていて日本で使用が認められていない食品添加物の審査・認可を一刻も早くするように躍起になっているのです。それでは米国で使われている食品添加物はどれくらいあるのでしょうか。米国では約3000品目の食品添加物が使用を認められているとされています。それに対して日本は指定添加物で413品目、既存添加物で419品目と米国と比べても2000品目以上も少ない状況です。この差を一気に縮めたいのが米国政府の立場なのです。
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TPA法案〜遺伝子組み換え表示の撤廃が交渉目的〜 |
遺伝子組み換え表示が守られるかどうかは消費者の関心事項です。昨年も米国オレゴン州で安全性の確認されていない未承認の遺伝子組み換えの小麦が作付け地帯で自生していたということで大問題になり、これを受けて日本もアメリカ産小麦の入札売り渡しをストップしました。安全性の確認されていない遺伝子組み換え小麦が日本でも流通しかねない事態でした。それだけに日本の消費者は遺伝子組み換え表示がTPP交渉で非関税障壁として撤廃されるのではないかと不安に思っていました。これに対し日本政府は、TPP交渉でも日米二国間でも、遺伝子組み換え表示の撤廃問題は議題になっていないと説明してきました。しかしながら、これは事実と異なります。米国のTPA大統領貿易促進権限法案は、大統領にTPP貿易交渉権を与える代わりにTPP貿易交渉の目的を詳細に記載し、それを大統領に実行させることを求めていますが、この法案を見れば米国政府がTPPで何を実現させようとしているかが明らかになります。内容は広範囲に渡りって物品の貿易やサービス貿易、農産物貿易、外国投資、知的財産、国有企業及び国家管理企業、労働及び環境、通貨などです。そして、この中に《合衆国を不利にするような諸手法を撤廃させる》として、《バイオテクノロジーを含む新科学技術に影響を与えるような、表示といった不当な貿易諸制限ないし商業上の諸義務》を撤廃することが明記されているのでう。要するに米国政府のTPP交渉目的に遺伝子組み換え表示の撤廃が明記されているで、それが米国政府の交渉目的であり、日本政府にそれを求めないということはあり得ないわけです。
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48時間通関の義務化で検疫の規制緩和 |
従来TPPはニュージーランドとシンガポール、チリ、ブルネイの4カ国で開始された協定で、この4カ国のTPP協定(P4協定)が、米国政府が現在進めている12カ国によるTPPの有力な叩き台の一つになっています。そこに盛り込まれている協定内容がほぼTPP協定に盛り込まれると見られています。そして、このP4協定では通関手続きが独立の章として取り扱われ、ペーパーレス貿易、至急貨物通関などと共に、加盟国は貨物が到着後48時間以内に通関させることを義務づけているのです。このような規定を定めているFTA(自由貿易協定)は、日本が現在締結しているFTAにはありません。従って日本がTPPに加入すれば、48時間以内通関が義務付けられることになるわけですが、これで一体どのような事態が生じるのでしょうのか。
09年の財務省調査によると、日本における一般貨物(海上貨物)の輸入手続き平均所要時間は62.4時間となっています。これだけでも48時間には大分隔たりがありますが、中でも他法令該当貨物すなわち動植物検疫や食品検疫の対象となる貨物についてみると、48時間の倍近い同92.5時間となっています。なぜこのような時間になるかと言うと、畜産物では動物検疫の検査対象になり、農産物では植物検疫の対象になり、食品では食品検疫の対象になるため、その届け出や検査に時間がかかるからです。それが48時間以内通関になると、輸入手続きはどうなるでしょうか。
それに対して財務省は、予備審査制と特例輸入申告制度(AEO制度)で時間短縮をするとしています。予備審査制とは、貨物が日本に到着する前に予め税関に予備的な申告を行ない、税関の審査を受けておくことができる制度で、AEO制度とは、貨物のセキュリティ管理と法令遵守の体制が整備された貿易関連業者を税関が認定し、迅速で簡素な通関手続きを提供する制度です。要するこれは、AEO認定業者が輸入申告した場合は税関による現物確認検査等はなしで書類審査だけで通関されるということです。AEO貨物の通関所要時間は僅か0.1時間とされており、現物確認なしで通関するため時間が短縮されるのは当然です。しかし、これは極めて危険な規制緩和と言わざるをえません。米国は輸入されるコンテナ貨物は100%検査をしていますが、それはテロの脅威を防ぐためです。日本がテロの脅威の例外となる根拠はありません。さらに麻薬等の薬物の密輸も横行している中で、このような規制緩和は日本のリスクを高めるものでしかありません。さらに問題なのは、税関の手続き時間を短縮しても、他法令該当貨物すなわち動植物検疫や食品検疫の時間がどうしてもかかるため、その短縮がなければ48時間をクリアできないことです。ここで出てくるのが動植物検疫や食品検疫の規制緩和です。ちなみに、09年7月に日本政府は「日米間の『規制改革および競争政策イニシアティブ』に関する日米両首脳への第8回報告書」で、米国政府に対して《厚生労働省は、関係業界の意見も踏まえ、検疫所における輸入手続きがより効率的に行えるよう引き続きつとめる》ことを約束しています。現に厚生労働省は、米国政府に対して残留農薬検査で残留農薬基準違反があっても、米国の残留農薬基準が日本と同等の基準の場合は業界全体の輸入を差し止めないと約束をしているのです。以上見てきたように、TPP加入は日本の農林水産業と食の安全を大きく脅かす可能性を孕んでいると言わざるをえないのです。
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TPPで農業強化は夢物語 |
TPPに参加して農業製品を輸出すればよいという人もかなり存在するのは事実ですが、たとえば米国の米に対する関税は籾付きの場合で1kg当たりたった約1.7円です。もしも日本の米が売れるならとっくに売れています。従ってTPP参加で農業強化というのは夢物語で、高関税率で守られてきた分野は開放されると大打撃を受けること必至です。
これは木材の貿易自由化で日本が既に経験していることで、木材の関税がどんどん下げられた影響で安い輸入木材に押されて国産材の価格も引き下げざるをえなくなり、切り出すコストも出なくなった人工林は放置され、山が荒れる結果になっているのはよく知られている通りです。農業も競争力の弱い製品は同じ道をたどること必至です。生き残るのは効率化と大規模化に成功したごく一部でしかなく、多くの農家は廃業を選ぶことになりかねせん。森林の荒廃によりCO2吸収量が減少したり、保水力が落ちて洪水が起きやすくなったりといった環境面及び防災面での悪影響が出ていますが、田畑もCO2の固定や保水の高い機能を持っていますから、農家が減少すればこれと同様の悪影響が懸念されます。農業を活性化する方法はもちろんあるに違いありませんが、それは少なくともTPPではありません。
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参考:TPPに関する参考書 |
◆参考図書 |
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中野剛志・著 |
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『TPP亡国論』 |
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集英社新書0584、集英社・2011年03月刊、760円 |
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平成の開国と喧伝されるTPPの実態は日本の市場を米国に差し出すだけのもの。デフレの深刻化を招き日本経済の根幹を揺るがしかねないのだ。冷静に経済的国益を考え、安易な賛成論を論破する。 |
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二木立・著 |
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『TPPと医療の産業化』 |
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勁草書房・2012年05月刊、2,500円 |
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混合診療は解禁される?医薬品・医療機器の価格規制は廃止される?公的保険外医療サービスに経済成長効果はあるのか?TPP参加が日本の公的医療保険制度、医薬品産業、患者・保険財政に与える影響を詳細に検討。医療政策の動向を最新の資料を用いて複眼的に分析・予測する。
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本間正義・著 |
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『農業問題―TPP後、農政はこう変わる―』 |
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ちくま新書1054、筑摩書房・2014年01月刊、780円 |
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TPP参加後、日本の農業はどうなるのか。改革の機運が高まり、戦後長らく続いた農業の仕組みが、いま大きく変わろうとしている。だが、減反廃止、補助金の削減、法人の農地取得、農協の機能不全、農地の転用と集積の問題など、改革に立ちはだかる問題は山積している。本書では、農業政策の第一人者がTPP後を見据え、コメ、農地、農協にまつわる問題を丁寧に解きほぐす。日本農業が生き残るためには何をすればいいのか、進むべき針路を明快に描く。
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浅川芳裕・著 |
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『TPPで日本は世界一の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』 |
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KKベストセラーズ・2012年03月刊、1,500円 |
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TPPで日本の農業は果たして壊滅するのか?農業生産額世界5位、食産業3位の「農業大国」ニッポンはTPPを機に、「大躍進の時代」を迎える。中国・アメリカという世界二大農業大国を越えるための「最強のシナリオ」。
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