【1】若年性認知症とは何か?〜その種類と症状〜 |
認知症は老人だけの病気ではありません。本節では若年性の認知症の種類とその症状を取り上げ解説しました。
|
若年性認知症とは?〜発症後8割が失職、社会的支援不足が深刻〜 |
以前は痴呆と呼ばれた認知症ですが、認知症はお年寄りが罹るものだと思っている人が大半かも知れません。しかし、実は働き盛りの年代でも認知症に罹ることがあります。それが近年よく耳にするようになった若年性認知症です。また、若年性認知症は最近発見された病気ではなく、100年ほど前にドイツで報告された最初の患者は50代だったという記録が残っているそうです。
若年性認知症とは18歳から64歳の方が発症する認知症の総称です。細かく言えば若年期認知症(18〜39歳)と初老期認知症(40〜64歳)を合わせたものを若年性認知症と言い、様々な原因で脳の細胞が死んでしまったり働きが悪くなったために種々な障害が起こり、日常生活を送る上で色々と支障が出ている状態を指します。もっとも若年性認知症と言っても、特に高齢者の認知症と病気に関する違いはありませんが、よりにもよってその発症時期が、人生の上で社会的にも家庭的にも、はたまた経済的にも様々な役割を果たさねばならない世代であるため、生活上でも多くの問題が生じて来ます。ちなみに、原因となる疾患は70種以上もあると言われ、出来るだけ早く気づき、原因疾患に応じた適切な支援に繋げることが肝要です。
■ |
若年性アルツハイマーの患者数は全国で10万人!? |
|
働き盛りの男性に多いとされる若年性認知症も、最初は「あれ、何だっけ?」という程度のごく一時的な物忘れから始まります。しかし、やがてそれが進行してゆくと、会議の予定を忘れたり、同僚の名前や取引先の場所が分からなくなったりするといった事態にまで至り、こうなるともう仕事を続けることもできなくなります。また、一方で徘徊などの行動障害も出てきます。このように恐ろしい若年性認知症の患者数は、厚生労働省の補助事業による調査を根拠に全国で10万人前後とも言われていますが、正確な実態は分かっていないのが実情です。 |
|
■ |
発症後8割が失職、社会的支援不足が深刻 |
|
昨年行なわれた厚労省の委託調査によると、若年性認知症を発症した人で、働いていた人のうち8割が自主退職その他で定年前に仕事を辞めています。再雇用はとても難しく、働き盛りの40代〜50代の人にとっては経済的に行き詰まってしまうケースも多く深刻です。 |
|
■ |
若年性認知症を患う本人が困っていること |
|
若年性認知症に対する世の中全体の理解不足から、身近な人にも自分の問題を相談しづらい状況にあります。それに加えて、高齢者と比べて若年性認知症を診療できる施設や、リハビリを適切に行なう医療機関、若年性認知症を対象とする介護施設が圧倒的に少ないことなどが本人を追い詰める一因になっています。
- 頼れる人が近くにいない
- 利用できるサービスがない・少ない
- 車の運転ができず、生活しづらい
- 近所の人の認知症への理解不足や偏見
- 社会全体の認知症への無理解や偏見 など
|
|
|
若年性認知症とその特徴 |
■ |
男性に多い若年性認知症。平均発症年齢は51歳 |
|
65歳未満で発症する認知症は若年性認知症と呼ばれていますが、その実態は最近になって漸く明らかになってきました。2009年の厚労省の発表によると、患者数は全国で約3万7000人(認知症全体の約2%の割合)で、発症時の平均年齢は51歳、早い人だと20代から発症し、40代以降は5歳刻みで発症数がほぼ倍増するとされます。なお、高齢者の認知症はアルツハイマー型が一番多いのに対して、若年性認知症では脳血管性認知症が最多となっています。若年性認知症では女性よりも男性の方が多い理由も、男性がなりやすい脳血管性認知症のシェアの大きさが影響しているのではないかと言われています。 |
|
■ |
若年性認知症は気づくのが遅れがち |
|
若年性認知症の初期症状は、物忘れの他に頭痛や目眩、不安感、不眠などがあります。しかし、認知症と言うと高齢者の病気というイメージが強い上に、こういった症状は疲れやストレス、鬱、更年期障害などによっても起こるものなので、本人や家族、周囲の人も、まさか若年性認知症とは思わず、放置してしまうケースも少なくありません。 |
|
■ |
高齢者の認知症との特徴的な相違 |
|
若年性認知症と高齢で発症する認知症とで医学的な違いが特にあるわけではありませんが、若年性認知症には次のような傾向が見られます。若年性認知症は脳の神経細胞の病気とされていますが、その原因は様々で、高齢者の認知症ではアルツハイマー病が多く見られるのに対して、若年性認知症では脳梗塞や脳出血など脳卒中が原因となる脳血管性認知症が多く見られます。さらに若年性認知症は様々な点で高齢者の認知症と違いがあります。特に若年性認知症では介護を担う配偶者や子どもの負担が大きくなってきます。高齢者の認知症との違いを知り、適切な理解や対応を行なうことがとても大切となります。なお、認知症を引き起こす原因によって症状や治療方法も異なってきます。脳血管性認知症であれば、原因疾患となる病気の治療や生活習慣の改善なども重要になります。何れにせよ、若年性認知症が疑われた場合は専門機関で原因疾患を調べ、適切な治療を行ないましょう。
- 進行スピードが早い
若年性認知症は、患者が若いこともあって脳の萎縮のスピードも早く、高齢の場合よりも進行スピードが早いと言われています。本人が違和感を感じる頃には既に症状が進んでいるというケースも少なくありません。そのため、早期発見がとても大事です。
- 初期症状のサインを見逃しやすい
若年性の場合、異変を感じてから受診に至るまでの期間が平均1年以上もあります。おかしいなと本人は感じても、単なる疲れだと解釈して検査や治療に至らないケースも多く見られます。近くにいる人が早めに異変に気づいて診断してもらうことが必要です。
- 診断の難易度が高い
医療機関で受診した後も、鬱病や更年期障害と誤って診断されることも多くあると言われます。特に初期段階では表れる症状が似ているため、専門家でも正確な診断を下すのが難しいとされます。
|
|
|
認知症とその症状 |
認知症は脳の細胞が壊れてゆくことによって起こると考えられています。そして、その症状には大きく、(A)脳の障害が原因で起こる 「中核症状」と、(B)それに環境変化や身体の具合、介護者などの関わり方も関与する 「周辺症状」とに分類されます。また、(B)の周辺症状には、幻覚や妄想(物取られ妄想が典型的)、抑鬱、意欲低下などの (イ)精神・心理的症状と、徘徊や興奮などの (ロ)行動異常とがあり、最近ではBPSD(Behavior and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれるようになっています。中核症状では、物忘れなどの記憶障害や、今日の日付や自分が今いる場所が分からなくなる見当識障害が見られます。また、判断力・思考力の低下が起こり、一度に複数のことを考えられなくなるため、今まで可能だった仕事や料理、家事などの作業ができなくなります。一方、行動・心理症状では、徘徊・妄想・幻覚・イライラ・鬱状態など心理的に不安定な症状が見られます。
■認知症の症状 |
■ |
(A)中核症状 |
|
- 記憶障害
人間の脳には、眼や耳から得られた情報を取捨選択し、関心のあるものを一時的に保存しておく海馬と呼ばれる器官と、重要な情報を長期間保存するための菊の壺とも表わせる機能を持っています。記憶の壺に入れられた情報は長期間保存され、必要な時に必要な情報を取り出せるようになっています。しかしこの便利な機能も、加齢と共に海馬の機能が衰えてゆき、一度にたくさんの情報を掴まえておくことが難しくなってきます。また、掴まえたとしても記憶の壺に移すのに手間取ったりするようになります。逆に記憶の壺の中から必要な情報を取り出す作業もスムーズに行なわれにくくなります。これは、通常は加齢に伴うど忘れとして現われてきます。こうなっても一応は海馬が機能してはいるので、幾度かそれらの作業をしてゆくうちに、大事な情報は何とか記憶の壺に収まってくれます。ところが、これが認知症になると、海馬の機能が極端に衰えてしまうので、掴まえた情報を記憶の壺に収めることができなくなってしまうのです。こうして、新しく入ってきた情報を記憶できなくなり、さっき聞いたことが思い出せないといった状態になります。認知症がさらに進行すると、記憶の壺までが衰えてしまい、これまでに覚えていたはずの記憶まで消滅して行ってしまうのです。
- 見当識障害
見当識障害とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握することができなくなる状態を指しますが、これも認知症の初期から記憶障害と並行してよく現われる症状です。まず時間に関する感覚が薄らいでゆきます。時間の感覚が麻痺してくるので、予定に合わせた行動ができなくなるなどの現象が出現します。さらに認知症が進行すると、時間感覚だけでなく日付や年次まであやふやになり、今日は何日かと何度も聞くようになったり、服装に季節感がなくなったり、さらに自分の年齢が分からないなどといったことも起こってきます。こうして場所や方向に関する感覚が薄らいでくると、慣れているはずの場所に行くのにも迷子になるなどの症状が出てきます。初めは方向感覚が薄らいでも、周囲の景色等をヒントにして道を間違えないで歩くことができますが、夜間など暗くてヒントがなくなると迷子になってしまいます。これが進行すると、近所で迷子になったり、夜、自宅のお手洗いの場所が分からなくなったりします。或は距離感も鈍くなるのか、通常では到底歩いてゆけそうにない距離を歩いて出かけようとしたりします。一方、人に関する見当識は、認知症がかなり進んでから出てくる症状です。病状が進行し、記憶の壺まで衰えてしまうと、過去の記憶がなくなってしまうので、自分の年齢や周囲の人との関係が分からなくなります。80才の人が30才以降の記憶を失ったために、50才の娘に対して「姉さん」「叔母さん」などと呼んで家族を混乱させたり、過去に亡くなっている母親が心配しているからと遠く離れた故郷に歩いて帰ろうとしたりします。
- 理解&判断力の障害
認知症になることで、ものを考えることにも障害が起こってきます。考える速度が遅くなったり、幾つもの情報を並行して処理することができなくなったりします。一度に処理できる情報の量が減ってしまうので、情報が重なると混乱してしまいます。また、些細な事柄やちょっと違う状況に対処できず、混乱するようになります。たとえばお葬式での行動に不自然さが目立ったり、突発的な出来事、夫の入院などで混乱してしまったりで認知症が発覚することがあります。こういった状況では、本人が混乱した時に補助してくれる人がいれば日常生活は継続できることが多いものです。また、観念的な事柄と現実的・具体的な事柄が結びつかなくなるので、たとえば「糖尿病だから食べ過ぎはいけない」ということは分かっているのに、目の前のケーキを食べてよいのかどうか判断できないということが起こります。これは正常人でも日常起こりうることですが、普通の人の「分かっているけど止められない」というのとは違い、そもそもその是非善悪の判断がつかなくなっているところにに大きな差異があるのです。さらに目に見えないメカニズムが理解できなくなるので、自動販売機や交通機関の自動改札などが上手く使えなくなります。
- 実行機能障害
健康な人は頭の中で計画を立て、予想外の変化にも適切に按配してスムーズに進めることができますが、認知症になると、計画を立てたり按配をしたりすることができなくなり、日常生活が上手く進まなくなります。たとえばスーパーマーケットでニンジンを見て、健康な人ならば「自宅にはゴボウがあるので、きんぴらを作ろう」と考えますが、ところが認知症になると、自宅のゴボウのことはすっかり忘れて、ニンジンと一緒にゴボウも買ってしまいます。さらに夕食の準備ではそれらのこともすっかり忘れて、別の材料で全く別の総菜を作ったりします。後に残るのはニンジンと二つのゴボウです。こういうことが幾度となく起こり、冷蔵庫には同じ食材が並ぶことになります。認知症の人にとっては、ご飯を炊き、同時進行でおかずを作るのはこのように至難の業なのです。
- 感情表現の変化
認知症になると、その場の状況が読めなくなってきます。通常、自分の感情を表現した場合の周囲のリアクションは想像がつきます。私たちが育ってきた文化や環境、周囲の個性を学習して記憶しているからです。さらに、相手が知っている人なら、かなり確実に予測できます。しかし認知症の人は、記憶障害や見当識障害、理解・判断の障害のため、周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなっているので、時として周囲の人が予測しない思いがけない感情の反応を示すことがあります。
|
|
■ |
(B)周辺症状 |
|
- 抑鬱
鬱状態は一般に認知症が高度になる以前に見られるのが普通です。認知症がはっきりする以前に鬱状態が先行して見られることもしばしば見受けられます。
- 幻覚&妄想
認知症の初期に目立つことが多い症状です。妄想の主題は現実的なのが特徴で、妄想の対象は身の周りの人が多いという傾向があります。特に「物盗まれ妄想」は老年期に見られる典型的な妄想のタイプです。しかもこれは、認知症の老人が物の置き場所を忘れてしまったために被害妄想が生じるという単純な理由で、説明が可能というわけではありません。妄想対象に対する強い攻撃性が見られ、物が見つかっても自分の誤りを認めようとしません。「嫁が私の財布を隠した」などと言い張るのはそのよい例です。
- 譫妄
譫妄は急性の脳障害に伴って起こる軽い意識障害で、判断力や理解力が低下し、しばしば幻覚や妄想が現われて興奮状態になります。健康そうに見えても潜在的な脳疾患があるような高齢者に生じやすく、認知症患者ではしばしば認められます。意識障害のために見当識や認知能力の低下が起こり、同様の症状が見られる痴呆との鑑別がしばしば問題となります。譫妄の症状は認知症と違い、時間単位或は分単位での急速な変化、日内変動を伴いやすいのが特徴です。特に夕方から夜間にかけ起こりやすく、しばしば異常な興奮状態を伴います。徘徊したり奇声を上げたりするなどのために介護する人にとって大きな負担になります。
- 暴言&暴力
自分の中の感情をコントロールできないことによって起こる症状です。介助の時や行動を制限する時に現われる傾向があります。暴言や暴力、大きな声の威嚇などが具体的な症状になります。また、幻覚や妄想から起こる場合もあります。
- 徘徊&行方不明
一般的に認知症が進行すると、徘徊が顕著になって、帰る道筋が分からなくて行方不明になることが増えてきます。これには譫妄が関係している可能性も考えられます。自分の住んでいる場所が自分の家であることが分からなくなり、生まれた家や転居前の居宅など以前住んでいた家が本当の住まいだと思って探し歩いたり、物を置いた場所を忘れたり、トイレの場所が分からなくて探して歩き回ったりします。一見すると無目的に歩き回っているように見えますが、その実、何らかの理由が存在することが多いと考えられます。
- 異食
中度から高度の認知症に見られます。紙や土、さらには糞など食物ではないものを食べてしまうことがあります。脳の特定の部位の障害によって現われる手に触れる物は何でも口に入れてしまう傾向(口唇傾向)によると考えられます。異食の前段階においては、廊下や家の中を徘徊している途中で周辺に落ちているものを拾っては集める行為から、それを食べ物と誤認して口に入れる行為に繋がってゆくのではないかと考えられます。
|
|
|
若年性認知症の種類 |
若年性認知症とは、先にも説明したように、18歳以上、65歳未満で認知症の症状がある場合を総称した言い方で、原因が掴めているものと原因が分からないものとに分類されます。旧厚生省の時代に若年性痴呆研究班が設置され、支援策の協議が進められるようになりました。研究班は1996年度当時、患者数は2万5000人〜3万7000人と推計していましたが、実際にはその3倍以上に及ぶのではないかと考えられています。
■ |
若年性認知症の種類 |
|
- 原因が分かっていない若年性認知症
- アルツハイマー型認知症
- ピック病
- 前頭側頭型認知症
- パーキンソン病
- レビー小体病 など
- 原因が分かっている認知症
- 血管性認知症
- 頭部外傷性認知症
- アルコール性認知症 など
|
|
|
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の違い |
現在、脳の神経細胞が消失してしまう病気を総称して認知症と呼ぶことになっています。また、認知症はその原因や特徴からアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の2つに大別されます。また、この2つの要素を持ち合わせた認知症は複合型認知症と呼ばれます。そして、高齢者の認知症を老年性認知症、比較的若い世代の認知症を若年性認知症と言います。また、アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が急激に減ってしまい、脳が病的に萎縮して知能低下や人格崩壊が起こる病気であり、一方、脳血管性認知症は、脳血管の障害によって脳の働きが悪くなって起こる認知症です。
■ |
脳血管性認知症とは |
|
脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血、脳動脈硬化などが原因となって起こる認知症で、これらの脳内血管の病気によって神経細胞が死滅し、認知症状に影響を与えると考えられています。
- 原因と症状
これも通常の場合と同じで、脳梗塞により血管が詰まったり血流の量が減るなどして脳細胞の働きが低下するために起こります。男性に多く見られます。
- 危険信号
物忘れが多くなったとか計算が出来なくなったなどの症状は重要な判断ポイントになります。脳の一部の機能が低下してしまうため、あることは忘れても他のことはしっかりと覚えている斑ぼけボケもその特徴のひとつです。高血圧や脳卒中の経験がある人は注意が必要です。
|
|
■ |
若年性アルツハイマー型認知症とは |
|
若年性アルツハイマー型の認知症は、脳内に異常なタンパク質が蓄積してしまうことで神経細胞が破壊されて減少していってしまうことによって発症すると考えられています。
- 原因と症状
原因と症状は通常の場合と同じで、βアミロイドによる老人斑、脳の萎縮で、これは女性にも多く見られます。ただ、若年性の場合は遺伝によるケースもあるので、親族でアルツハイマー型認知症の方がいる場合は注意が必要です。
- 危険信号
初期では頭痛や目眩、不眠が見られます。また、不安感や自発性の低下、抑鬱状態にもなります。本人も気づかないことが多く、仕事でのストレスや鬱病と間違えやすいので注意が必要です。発症すると自己中心的になったり、前より頑固になったり、他人への配慮がなくなります。アルツハイマー型認知症は放っておくとどんどん進行してゆくので、早期発見と早期対策が重要です。
|
|
|
働き盛りを襲う若年性アルツハイマー病 |
アルツハイマー型認知症はお年寄りの病気ではありません |
アルツハイマー型認知症と言うとお年寄りの病気のように思われがちですが、元々は若年性の病気で、その年代には起こらない病変が脳に起きてしまう病気です。高齢化社会になって高齢者のアルツハイマー型認知症が増えたことで、老人性アルツハイマー型認知症と若年性アルツハイマー型認知症が区別されるようになりましたが、脳に異常が起きて認知症が進行してゆくことに変わりありません。
若い人に見られるアルツハイマーは、脳の萎縮スピードも若い分、高齢者に比べると速く、社会的にも家族的にも大きな影響を与えます。また、若い人の認知症はアルツハイマー型だけではありません。たとえば交通事故や転倒で脳障害を起こしたことが原因で認知症になる場合もあるし、脳梗塞などの血管性の障害から起こる認知症もあります。未だに原因がよく分かっていない若年性アルツハイマー型認知症ですが、ここ最近になって遺伝も考えられるのではないかと言われるようになってきました。若年性アルツハイマー型認知症にはプレセニリンという家族性の危険因子が関与しているということまで分かっていますが、しかし、それも一部のケースで、大半はまだ分かっていないのが現状です。
|
アルツハイマー病の初期には鬱病と似た症状が出て発見が遅れることも |
■ |
若年性でも症状は高齢者の場合と同様ながら進行が早いのが特徴 |
|
日本では65歳以上の高齢者の4人に1人が認知症もしくはその予備群と言われ、高齢者人口の増加に伴って認知症患者も増加しています。最近では、認知症高齢者の徘徊などによる行方不明者の多いこともよく知られるようになりました。認知症とは脳の機能が低下して記憶障害などを起こしている状態を言い、進行すると時間や場所、人物の判断ができなくなり(見当識障害)、一人で出かけて迷子になったり事故に巻き込まれたりすることが知られています。この認知症を起こす原因の大半を占めるのがアルツハイマー病で、アルツハイマー病では脳にβアミロイドなどの異常なタンパク質が溜まって脳細胞が破壊され、脳が萎縮してゆくことによって認知症が起こると考えられています。また、若年性アルツハイマー病は遺伝的な要因が大きいと考えられており、家族にアルツハイマー病の人が多い場合は小さな変化も見逃さないことが肝要です。なお、アルツハイマー病は加齢によるリスクが最も大きいとされますが、比較的若い働き盛りの年代でも発症することがあり、65歳未満の人に起こった場合、これを若年性アルツハイマー病と呼びます。もっとも若年性であっても、症状は記憶障害や見当識障害、性格の変化など高齢者の場合と何ら変わりがありませんが、高齢者と比較すると進行が早いのがその特徴であると言えます。働き盛りの年代で発症するため、経済的な問題や家庭への影響はより深刻と言えます。 |
|
■ |
予備群の段階で適切な治療をすることで発症や進行を抑えることも可能に |
|
若年性アルツハイマー病は進行が早く、治療が遅れると短期間のうちに重症になりやすいため、早期発見が大変重要です。認知症はいったん発症したら根治はできないと言われていますが、既にある程度進行を緩やかにする薬は登場しています。さらに、最近は研究が進み、認知症の発症や進行を抑え、根本的に治す薬の開発も進んでいます。ただし、効果が期待できるのは早い段階で治療を始めた場合で、進行してからでは余り期待はできません。そこで、認知症予防に繋がるとして注目されているのがMCI(軽度認知障害)です。これは、軽い記憶障害や判断力の低下などはあるものの、日常生活に支障を来すほどではない状態を言います。MCIを放っておくと、その半数以上が5年以内にアルツハイマー病をはじめとする認知症に進行すると言われ、認知症の前段階と考えられています。この認知症予備群とも言える段階で治療を始めれば、認知症の発症を防いだり進行を遅らせることが可能と考えられています。 |
|
|
若年性アルツハイマー病の原因〜遺伝によって発病〜 |
アルツハイマー病の原因は未だ完全には解明されていませんが、若年性アルツハイマーも高齢者アルツハイマーも共に脳の神経細胞が死滅し委縮してしまうことによって起こる知的能力の低下です。しかし、脳の委縮(人の脳は20〜30歳をピークに減少に転じます)は加齢と共に誰にでも起こりうる老化現象のひとつであって、何も特別なことではありません。それではアルツハイマー病患者の脳内では一体何が起こっているのかと言うと、先にも簡単に説明したように、脳内で分泌されているβアミロイドと呼ばれるタンパク質の一種がアルツハイマー病患者の脳では分解されず、脳内に蓄積(正常な脳内では直ぐに分解される)してしまっていることが深く関わっていると考えられています。少し専門的な話になりますが、このβアミロイドが脳内に蓄積されると、老人斑(βアミロイドが主成分と考えられており、神経細胞と神経細胞の間に出来るシミのようなもの)の沈着が起こり、脳内の神経細胞が死滅していくアポトーシスと呼ばれる状態を作り出しているのです。ただ、ここで注目すべきは、若年性アルツハイマー病は高齢者のアルツハイマーとは異なって、どちらかと言うと遺伝性の強い脳疾患であるという点です。従って、初期症状の兆候が見え隠れし、かつ親族間に若年性アルツハイマー病患者がいるといったような場合には、遺伝による脳疾患の恐れも考えられるので、早めに一度専門医に診てもらうことをオススメします。
若年性アルツハイマー病も老年性と同じように、最初は物忘れが増える、日付や自分のいる場所が分からなくなる、感情表現など精神活動が低下するなどといった症状が見られますが、老年性よりも病気の進行が早く、症状も重くなる傾向が見られます。また、働き盛りの40〜50代でアルツハイマー病を発症するわけですから、家計や介護など様々な面で問題が起こります。しかし若年性アルツハイマー病は、老年性のように誰もが罹る可能性がある病気ではありません。というのも、若年性アルツハイマー病の原因は遺伝によるものが殆どだとされており、そんな訳で、アルツハイマー病の原因となる遺伝子に異常がある人は40代でも発病する可能性があるのです。ただ、その原因となる遺伝子は次々と見つかっていますが、まだ研究は半ばで、しっかりした遺伝子診断ができる状況ではありません。また、万が一発症しても、発症初期より前の前駆期段階で発見し、適切なケアを受けることができれば、病気の進行を遅らせることも可能です。
|
アルツハイマー病の初期症状 |
■ |
アルツハイマー病「前駆期」チェック |
|
若年性アルツハイマー病は、早期発見・早期治療が大きな意味を持つ病気です。以下にアルツハイマー病「前駆期」段階の症状を挙げるので、チェックしてみましょう。
- 複雑な精神機能を必要とする作業の質と量が変化する
- 仕事の能率と量が低下する
- 全体状況を判断することが困難になり、細部に拘るようになる
- その人らしい個性が失われてくる
- 何となくだるいというような不定愁訴が増える
- 頭痛や目眩、鬱気分、不安感などで悩むことが多くなる
- 根気が続かない、疲れやすくなる
|
|
■ |
認知症予備軍 |
|
単なる記憶障害(軽度認知障害)では、認知症に移行する率は約10%であるのに対して、他の認知障害も併発している場合(加齢関連認知低下)ではその3倍ほどになるので、認知症予防には少しでも早い発見と対策が必要です。認知症を早めに発見・対処すれば、症状の進行を遅らせることができる場合もあります。心配を感じる人はもちろん、ちょっと変かなと思う人も、もしかして認知症かなと思う人は早めに受診して下さい。
- 軽度認知障害(MCI)
進行性のアルツハイマー型認知症では、認知機能が低下してゆく過程で、日常生活に支障が出るまでの間に5年から10年の期間があります。この間の、記憶に関する障害があり、一般的な認知機能や日常生活は保たれている状態を軽度認知障害(Mild
Cognitive Impairment:MCI)と言います。
- 加齢関連認知低下(AACD)
認知症や軽度認知障害まで重くはないものの、記憶や集中力、問題解決能力、言語などにおいて能力が低下していたり、年齢適応の認知評価より著しく低い状態のことを言います。
|
|
■ |
若年性アルツハイマーの初期症状 |
|
参考までに、米国アルツハイマー病協会が示している「アルツハイマー病かもしれない10の症状」を以下に紹介します。
- 日常生活に支障が出るほどの記憶力低下
アルツハイマー病の初期症状のひとつが極端な記憶力の低下です。ちなみにいわゆる健忘症では、名前や予定を忘れた場合でも後で思い出すことが可能です。行動パターンとしては、たとえば今日が何日か分からない、同じことを何度も聞く、ちょっとしたことでもメモに残したり、家族に聞いたりするようになるなどが挙げられます。
- 計画や問題解決が困難に
計画を立てて行動することや数字を処理するのが難しくなる人がいます。行動パターンとしては、たとえばレシピに従って料理ができない、月々の請求書が払えなくなる、集中力が落ちて今までしていた仕事に時間がかかるなどが挙げられます。
- やり慣れた作業をやり通すのが難しくなる
それまでは当然のように理解していたことやできていた作業が困難になる人も多く見受けられます。行動パターンとしては、たとえば必要もないのに(既に退職したのに)、通い慣れた場所(昔の勤務先など)へ運転してゆく、やり慣れたゲームのルールを忘れる、予算管理ができないなどが挙げられます。
- 日付や場所が分からなくなる
日付や季節、時の流れが把握できなくなり、その場で起こっていること以外を把握できなくなります。行動パターンとしては、たとえば日付や曜日、季節を忘れて思い出せない、その場所にどうやって来たのか、どこにいるのか思い出せないなどが挙げられます。
- 目で見たものや空間的な関係を中々理解できない
読書や距離感を判断すること、色やコントラストをなかなか理解できなくなります。通常の老化では、白内障に伴って視力が変化することはあります。行動パターンとしては、たとえば距離感が分からずにぶつかる、鏡の前を通ったのに部屋の中に誰かがいると勘違いするなどが挙げられます。
- 話したり書いたりする時に言葉につまる
他の人の会話へ参加することや付いていくことが困難になります。行動パターンとしては、たとえば会話の途中で止まってしまい、続けられなくなる、同じ話を繰り返す、言葉が見つからなくなる、間違えるなどが挙げられます。
- 物を置き忘れて探せない
物をいつもとは違うところに置いてしまうことや、どこかで置き忘れてしまったのに、自分の行動をたどれないために探せないことが頻繁に繰り返し起こります。行動パターンとしては、たとえばいつも何かを探している、無くなったものを誰かのせいにするなどが挙げられます。
- 判断力の低下
判断力が低下し、誤った決断をするようになります。行動パターンとしては、たとえばテレビショッピングで高額なものを買う、身なりに注意を払わなくなるなどが挙げられます。
- 仕事や人と関わることを辞めてしまう
感じることが変わることから、仕事や人との関わりや趣味を辞めてしまうことがあります。行動パターンとしては、たとえば好きだったスポーツチームなどに興味を失う、趣味でやっていたことを途中で辞めてしまう、人と会うのを避けるようになるなどが挙げられます。
- 気分や人格の変化
アルツハイマー病によって気分や人格が変わることがあります。行動パターンとしては、たとえば混乱する、不安になる、疑い深くなる、落ち込むなどの気分の変化、親しい人に対して直ぐにイライラする慣れ親しんだ場所以外に行ったり知らない人に会ったりすると動揺するなどが挙げられます。
|
|
|
|
[ ページトップ ] [アドバイス トップ]
|
|
【2】若年性認知症の発見と治療 |
認知症、特に若年性認知症は早期発見・早期治療が肝要です。本節では、若年性認知症のチェックリストの紹介と受診のコツを紹介・解説しました。
|
早期発見が大切 |
一般的に高齢者の病気として知られている認知症ですが、若い世代でも発症することが確認されています。18歳から65歳未満で発症する認知症を若年性認知症と言い、現在全国における若年性認知症者数は4万人はいるとされています。また若年性認知症は、多くの人が現役で仕事や家事を行なっているため、物忘れなどの記憶障害の症状が発症しても、仕事や家事の忙しさや体調不良から来るものと思われがちで、認知症だとは思い至らない場合が多くあります。また、本人も周りの方も働き盛りの世代のため、認知症と診断された場合、配偶者のみが介護に当たることも多く、身体的や心理的、経済的にも大きな負担を強いられることがあります。確かに若年性認知症は本人にも周りの方々にも大きな負担がかかる病気ではありますが、社会的に認知度が低く、病気に対する理解も十分な支援もされていないのが現状です。若年性認知症の症状を知ることで早期発見から早期治療に繋げることが極めて大切です。
若年性認知症は老年性のものに比べて進行スピードが早いので、できるだけ早く異変に気づき、適切な治療を受けることが大切です。若年性認知症は早期治療・早期治療を行なえばその進行を遅らせることが可能ですし、原因疾患によっては完全に治せるものもあります。しかし、老年性のものに比べて進行スピードが早いので、そのままにしていると治療の機会を逃し、どんどん悪化してしまいます。もっとも必要以上に病気の発症を恐れることはありませんが、私たちは認知症をを遠い先のことと考えがちであることも事実で、同じようなミスが続いても、「歳のせいだ」と軽く考えてしまいがちです。しかし、「自分だけは惚けるはずがない」と思うのは少し楽観的すぎます。特に家族にアルツハイマー病を発症した人がいる場合は、日頃から微かな兆候を見逃さないように心懸けましょう。
もしも若年において認知症と診断されたとしたら、きっと並大抵のショックではないと思いますが、治療法は様々なものがあります。早期発見により大分改善されますし、回復の可能性もあります。アルツハイマー型の場合はしっかりとリハビリに努めることが大切です。一方、脳血管性の場合は、規則正しい生活と栄養バランスの取れた食事に気をつけることが大事です。何れにせよ、認知症と判断されても、しっかりとそれを受け止めて改善に努めることで回復の可能性は十分にあるので、必ずしも悲観ばかりする必要はありません。少しでも不安に思ったら、直ぐにもの忘れ外来などの専門医を受診するようにしましょう。
■ |
若年性認知症のチェックポイント |
|
- 同じことを何度も聞く
- 伝言したことが上手く伝わらない
- 電車・バスで乗る駅や降りる駅が分からない
- よく知っている道なのに迷ってしまう
- 通帳や印鑑、財布などをよく失くし、家族が盗ったと言い張る
- いつも同じ服を着て着替えたがらない
- 家電製品の使い方が分からない
- テレビや新聞を見なくなる、関心がなくなる
- 風呂に入りたがらない
- 好きだった趣昧の活動をしなくなる
- 鍋を焦がす、ガスの火を消し忘れる、水道の水を出しっぱなしにする
- 外出したがらない
|
|
|
若年性認知症のチェックリスト |
若年性認知症は早期発見と早期治療がとても重要になってきます。物忘れが激しい、何度も同じミスをしてしまう、理由もなくイライラすることが多くなっている、など日常生活の中で現れる様々な変化から若年性認知症のサインが現われて来ます。若年性認知症では、早期発見から早期治療に繋げることが非常に重要となります。認知症の初期には、様々な変化が現われていても、他の病気と誤診されたり、受診が遅れる場合が多くあります。そのため、本人だけでなく周りの方々の日常の変化や違和感への気づきが大切です。ご自分のためにも周りの人々のためにも、認知症の症状が疑われたら、まずは専門の診療機関を早期に受診するように心懸けましょう。
■ |
若年性認知症のセルフチェックリスト |
|
- 仕事上のチェックリスト
- 今までやってきた仕事の手順が分からなくなり、時間がかかるようになった
- 上司の指示を忘れてしまう
- 取引先の人の名前が分からなくなった
- 電話を受けてメモをしようとしても直ぐにメモが取れない、メモを取ってもそのことを忘れてしまう
- ミスをして上司に「なぜこんなことをしたのか?」と聞かれても、どうしてなのか自分でも分からない
- 客先との約束を忘れ、相手から連絡があった
- 車の運転上のチェックリスト
- 運転中にどこを走っているのか分からなくなることがある
- 運転中にアクセルとブレーキを間違えそうになることがある
- 運転に関する判断能力が落ちたような気がする
- よく使っている道なのに目的地に辿り着くことができなくなった
- 家族が自分の運転に対して「危ない」と言い、自分自身も時に不安を感じることがある
- 性格上のチェックリスト
- おしゃれに関心がなくなり、服装に構わなくなった
- 1人になるのが嫌だと感じる
- 涙もろくなった気がする
- 以前は色々アイデアが浮んできたのに、今は何も浮かばない
- 行動上のチェックリスト
- 時間が決められているような大切な約束を忘れてしまう
- テレビドラマを見ていてもストーリーが理解できない
- 人の話が理解できない
- 自分の名前が書けない
- 親戚や知人、地域の人の顔を見ても名前が思い出せない
- 財布や鍵をどこに置いたか分からなくなる
|
|
|
受診のススメ |
早期発見〜「もしかして・・・」と思ったら〜 |
最近物忘れがひどいと感じていませんか? もしかするとアルツハイマー病の前段階であるMCI(軽度認知障害)かも知れません。軽度認知障害の段階で早期発見ができれば、たとえ若年性認知症が発症した場合でも、その治療効果も多少期待できる上に、その遅延効果が高いとされています。
アルツハイマー病だと早期に診断を受ければ利点になることがたくさんあります。たとえば症状を抑える治療を早い段階から受けられるとか、将来に向けて家族が話し合う時間が取れる、或は自治体や医療機関のサポートを早いうちから受けられるなどが挙げられます。アルツハイマー病だと診断されても、本人がその人らしく生き続けるために、また、家族の負担を和らげるためにも、変化に気づいたら直ぐに医療機関での受診が必要です。なお、アルツハイマー病なのかを判断するのに、医療機関を訪れてから平均で半年ほど時間がかかっているという結果が出ています。
|
若年性認知症は何科で診てもらえるの? |
若年性認知症は初期段階では鬱病などと間違えられやすいので、異変を感じたら認知症の専門医に診てもらうことが大切です。専門医は神経内科や精神科、心療内科、脳外科、老年科などにいます。しかし、こういった診療科でも、病院によっては専門医がいないこともあるので、事前に電話で確認してから受診した方が無難でしょう。また最近では、もの忘れ外来や認知症外来などといった認知症の専門外来を設けている医療機関も増えているので、こうした外来を受診することもオススメです。なお、この病気の初診に適した診療科目としては精神科や脳神経外科、神経内科が挙げられます。
|
かかりつけ医に相談するという手段も |
認知症の治療は長く続く上に、日常生活での困り事が起こってくる場合が多々あります。身近に日頃かかりつけの医療機関があれば安心です。幸い身近にかかりつけの医療機関がある場合は、日頃のその人のことをよく知るかかりつけ医を受診し、まずそこで相談してみるというのも1つの有効な手段となります。認知症は脳の神経細胞が障害されて起こる病気なので、認知症を引き起こしている病気を調べるためには脳の精密な検査が必要ですが、そういった検査のために専門の病院を受診する場合も、紹介状があった方がスムーズに診断してもらえることも多いのです。
|
医療機関の紹介 |
■ |
かかりつけ医 |
|
認知症の治療は長く続く上に日常生活での困り事が起こってくる場合もあるため、身近に日頃かかりつけの医療機関があれば安心です。確定診断や症状の変化などで専門医を受診する場合も、紹介状を書いてもらうとスムースに受診できます。 |
|
■ |
専門医療機関 |
|
- 認知症疾患医療センター
認知症を専門とする医師がおり、診断や治療方針の選定、また入院も可能な医療機関で、全国に250か所設置されており(平成25年現在)、お住まいの都道府県に最低1か所はあります。認知症についての医療福祉相談も行なっており、地域の保健
医療・福祉関係者の支援も行ないます。各都道府県庁に問い合わせて下さい。
- 認知症専門医
認知症を専門とする医師でそれぞれの学会が認定した専門医です。
- 認知症サポート医
国が進めるサポート医研修を受け、認知症に関する専門的知識・技術を持って、かかりつけ医への助言や地域の認知症医療の中心的役割を担う医師です。
|
|
|
受診の心構え |
病院を受診する時は、当人の普段の様子をよく知っている人に付き添ってもらうようにしましょう。というのも、周りの人から見た以前と違う様子や行動は、医師が診断を下す上で非常に役に立ちます。それらは医師が診断する上でも重要な参考となります。なお、受診をする際には、今までに罹った病気や怪我、いつ頃から・どのような変化があったかなどを医師に対して分かりやすく伝えるための以下のようなメモを持参するとよいでしょう。
■ |
受診時の効果的なメモ |
|
- 生年月日
- 略歴(出生地、最終学歴、職歴、家族構成など)
- 病歴(過去の病歴、手術や事故の経験、現在治療中の病気、飲んでいる薬)
- 生活習慣(酒やタバコ、食事や運動習慣)
- 受診までの経過(いつ頃から・どんな症状があったのか、どんな時に起こるのか、進行しているかなどを具体的に)
|
|
|
|
参考:認知症の予防のために為すべきこと |
■ |
脳の働きを活発にしてもの忘れを減らす |
|
認知症は進行してゆく病気ですが、若年性認知症の場合、その進行のスピードが老年性に比べて格段に早いと言われています。それでも、認知症に対する治療法の研究は日々進歩しており、少しでも早く発見して早期に治療を始めればその進行を遅らせることも可能です。若年性アルツハイマー病は進行が速いため、特に早期発見が重要です。そのためには、病的な物忘れを見逃さないように注意し、何かおかしいと思うことがあったら早めに物忘れの診療をしている外来を受診することがオススメです。地域の保健センターに問い合わせるか、日本老年精神医学会や日本認知症学会のホームページでも情報を得ることができます。
脳血管性認知症は、脳血管の動脈硬化や不整脈から生じる血栓によって脳の血管が閉塞し、脳梗塞ができることが主な原因です。従って、脳の血液循環をよくし、脳梗塞を予防することが脳血管性認知症の予防に繋がります。また、動脈硬化を防ぐことはアルツハイマー病の予防にも繋がることが最近の研究で分かってきました。動脈硬化に対してはいま関心の高いメタボリックシンドロームが危険因子なので、メタボの予防は動脈硬化を防ぐと同時にもの忘れ予防にも繋がるのです。このメタボの予防法で一番に挙げられていることは定期的に運動をすることで、たとえばウオーキングやジョギング、水泳などと言った有酸素運動を日常的に続けていると、内臓脂肪型肥満や高血圧、脂質異常、高血糖などメタボを判定する項目の改善に繋がります。何れにせよ、よく運動する人はそうでない人よりも認知症になりにくいという報告もあるのです。
もちろん食事の改善も重要です。まず動物性脂肪の多い食事は控えめにしましょう。ビタミンA・C・Eやポリフェノールなどの抗酸化物質の多い緑黄色野菜をたくさん摂ることは、体内にできる活性酸素を減らして脳機能への悪影響を抑えるとされています。魚を毎日食べるとアルツハイマー病になりにくいという報告もあります。また、脳そのものへの刺激として、脳の前頭前野という部分を活性化すると認知症の発病や進行を抑えることができると考えられています。1ケタの簡単な足し算や漢字の書き取り、文章の音読などが効果的とされていますが、ゲームや趣味などを人との交流を通して楽しみながら続けることも、前頭前野だけでなく脳全体を活性化することが分かっています。「最近もの忘れが進んだみたい」などとしょげるより、気持ちを明るくもって前向きに毎日を過ごそうとする方が物忘れの抑止には役立つと思います。 |
|
■ |
若年性認知症の予防のために絶対心がけたいルール |
|
若年性認知症の発症の原因は多くの場合生活習慣にあると考えられており、実際に初期症状の人の生活習慣を変えることで症状に改善が見られるケースも認められています。認知症予防には、生活習慣、特に規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動が重要です。以下にその予防法について具体的に示しましたが、それを見て、「なんだ、そんなことか」と感じる人も多いと思います。けれども、長年染み付いた習慣を変えるというのは非常に難しいことであることも事実なので、今後は、少しずつでもこれらを意識して認知症リスクを遠ざける生活習慣を実現するよう日頃から心懸けてゆきましょう。
- 塩分を摂り過ぎない
塩分の摂り過ぎは高血圧を招きますが、高血圧は脳血管性認知症の危険因子の一つです。塩分控えめの食事を心懸けることで高血圧にならないよう心懸けましょう。
- 糖質を摂り過ぎない
糖尿病になると脳動脈硬化が起こりやすくなります。認知症の発症可能性が高まってしまうので、糖尿病の原因となる糖質を摂り過ぎないよう心懸けましょう。
- 肥満にならないようにする
肥満30代で肥満の人は、肥満でない人と比較すると認知症の発症リスクが3.5倍(40代では1.7倍、50代では1.5倍)という調査結果が出ています。肥満は高血糖や高血圧、脂質異常など認知症の危険因子となりうる要素が重なっているため、食生活や運動習慣を見直し、肥満にならないよう心懸けましょう。
- 動物性脂肪を摂り過ぎない
動物性脂肪(主に牛肉・豚肉やバターなど)の摂り過ぎは高血圧や動脈硬化に繋がりやすく、認知症発症のリスクを高めます。なお、血管疾患が増えやすくなるとしてコレステロールが多い食材(主に鶏卵や魚卵など)も避けるべきだとする説も一部にはありますが、しかし、近年血管疾患とコレステロールの関連性が疑われる調査結果も発表されています。
- よく噛んで食べる
咀嚼が多い(よく噛んで食べる)人は、脳がよく刺激され、認知症が起きにくいとの調査結果が出ています。歯の数が少ない高齢者の方が海馬と呼ばれる脳の記憶中枢の容積が小さいということもあり、口腔機能と脳の関連性が推測されています。目安としてひと口につき、飲み込むまでに最低でも30回程度は噛むようにするとよいでしょう。また、歯磨きなどの歯のケアも忘れないよう心懸けましょう。
- 青魚を食べる
青魚魚にはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)という脂が含まれており、特にイワシなどの青魚に多く含まれています。このDHAとEPAは血流を改善する効果があるとされており、動脈硬化や高血圧、脳梗塞など予防できると考えられています。積極的に青魚を食べる習慣をつけるよう心懸けましょう。
- 野菜や果物を食べる
緑黄色野菜脳の活性化にミネラルやビタミンは不可欠とされていますが、これらを摂取できる緑黄色野菜や果物も意識的に食べるよう心懸けたい食材です。
- 少しキツメの有酸素運動をする
週3回程度の運動、それもちょっと汗ばむくらいのややキツメの運動を行なうよう心懸けましょう。運動が認知機能の向上に役立つことは多くの研究によって明らかになっていますが、これを少々キツメに行なうことで体内のミトコンドリアの活性化に好影響を与えると考えられています。また、適度な運動や、運動をしながら簡単な計算問題などを行なうと脳に負荷がかかり活性化されるため、こちらも認知症予防に一役を買います。たとえば見かけた車のナンバーを上手く計算して答えを10にするといったことなどをしながらウォーキングやジョギングを行なうのは非常に効果的だと思われます。
- 喫煙を控える
喫煙者の認知症リスクの高さはデータが示していて、1日11〜40本の喫煙者と非喫煙者を比較すると約1.4倍、1日40本以上の喫煙の場合は2.1倍リスクが高まるという結果が出ています。喫煙者は本数を少なく、出来ることなら禁煙することで認知症予防を心懸けましょう。
- お酒を飲み過ぎない
大量飲酒アルコールの大量摂取は脳の萎縮を招きやすく、認知症の原因になってしまうと考えられています。ただし、少量の飲酒(週に350mlのビールを1〜6本程度)の場合は、全く飲まない層に比べて認知症の可能性が低いという調査結果もあり、必ずしも「飲酒はしない方がよい」とは言い切れません。
- 睡眠時間をしっかり摂る
睡眠時間が短いと認知症リスクが高まることが知られています。睡眠時間が1時間短いと認知機能が0.67%低下するとしている調査結果も出ています。認知症予防のためには、7〜8時間程度の睡眠がよいとされています。また、30分程度の昼寝も認知症予防に効果的と考えられているので、睡眠は積極的に摂るようにしましょう。
- 他者とのコミュニケーションを取る
人との交流脳を活性化させることは認知症予防に非常に重要な要素ですが、人とのコミュニケーションは脳に刺激を与え、活性化させる効果があります。何も難しい話をする必要はありません。世間話や噂話といった程度の会話でもよいので、積極的に外に出て会話などのコミュニケーションを他者と取るよう心懸けましょう。
|
|
|
[ ページトップ ] [アドバイス トップ]
|
|