【1】今年は花粉症の当たり年〜花粉症の時期と原因植物〜 |
今年は花粉の飛散量が例年の10倍と言われていますが、花粉症の時期は春先に限られません。本節では、花粉症の対策等に触れる前に、まず花粉の飛散時期によってどの植物の花粉が・どの時期に飛散するかを特に解説しました。
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もはや国民病!?〜国民の3割が花粉症〜 |
花粉症は花粉によって引き起こされるアレルギー疾患で、クシャミや鼻水、鼻づまりなどのアレルギー性鼻炎や、目の痒みや流涙などのアレルギー性結膜炎などを典型的な症状とします。日本で最も多いのは春先のスギ花粉による花粉症で、国民の約3割に花粉症の症状があると言われます。花粉症の患者数は年々増加傾向にあると考えられ、今まで症状が出ていなかった人でも、今年懸念されているように大量の花粉に曝されていると、何らかのキッカケで突然花粉症を発症することがあります。また、軽症だった人も、たくさんの花粉が鼻や目から体内に入ると症状が強くなります。そんな訳で、花粉症の症状がある人もない人も、花粉の飛ぶ時期はなるべく花粉に接しないよう、特に今年は花粉症対策を行なうことが大切です。そのポイントとしては、たとえば花粉の飛散開始時期や飛散量等の飛散予測や飛散状況などの花粉情報を把握すること、そして、体内への花粉の侵入を防いで症状の悪化を予防することなどが挙げられます。
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今年の花粉症〜今春は飛散量が10倍の地域も、早期の診断・治療で対策を〜 |
環境省は今春の杉と檜の花粉飛散量が昨年と比べて全国的に多くなるとの予測を昨年12月に発表しました。それによると、東北から近畿の広い範囲で例年よりも飛散量が多く、東海や近畿の一部では10倍以上になる地域もあると言うのです。関東から北の地方や西日本でも昨年比で少なくとも2倍、場合によっては6倍にもなると見込んでいるそうです。従って、今年は全国的に多くの人が花粉症を発症し、しかも重症化する期間が長くなる見込みです。スギ花粉の飛散が始まる時期は、例年と同じか、5日前後遅くなる可能性が高いそうで、九州南部が2月上旬頃、関東や四国、九州の北中部は2月中旬頃と予想されています。もっとも本格的な花粉の飛散はもう少し先ですが、敏感な人には既に花粉症の時期が訪れているとも言います。その証拠に、昨年12月から花粉症を持つ人の15%に症状が出ており、5人に1人が対策を始めているとも言います。
花粉症対策の最重要ポイントは、花粉症と疑わしい症状が出た場合、専門の耳鼻科ないしは眼科を受診することですが、それは正確な診断をすることで治療が可能になるからです。そして、その時期だけやり過ごせばよいというのであれば、症状を軽減する対症療法が、また、長期的に考えて根本的に治したいのであれば根治療法を行なうことになります。なお、早い段階であればレーザー治療も有効ですが、これは同治療法は炭酸ガスレーザーを鼻の粘膜に照射して炎症を治療するもので、主に鼻づまりを改善する効果が期待出来る他、クシャミも緩和されると言います。なお、レーザー治療を受ける場合な、花粉の飛散が始まる2月初めぐらいまでには治療を受けておきたいものですが、それは、シーズンが始まり鼻粘膜が水分を多く含むとしっかり焼くことができなくなるからです。何れにしても、毎年花粉症で悩んでいる人なら、症状がひどくなる前に、医者に行ってアレルギー症状を抑える薬を処方してもらうのが何よりも一番です。最初に処方されることが多いのはアレルギー症状を抑える第2世代の抗ヒスタミン薬です。症状を抑える力はややマイルドですが、眠気などの副作用が出にくいと言われます。
とはいえ予防の第一はマスクの着用で、その大切なポイントはマスクを一日中外さないことです。マスクにより花粉の吸飲を抑えることで、潜伏期間から発症までの前段階(感作=後述)を延ばすことも出来ると言います。なお、子どもがいる家庭などでは、当事者だけでなく、家族全員でマスクを着用することを習慣づけたいものです。この他、マスク代わりに鼻の穴や鼻周辺にクリームを塗り、花粉を吸着させたり弾いたりして体内に取り込むのを防ぐ製品もあります。マスクをしづらいビジネスの場や化粧が落ちるのを気にする女性などが利用しやすいと言われます。
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花粉症の時期 |
花粉症の時期について |
花粉症の時期と聞いて多くの方が春先の時期をイメージすると思いますが、花粉が飛ぶ時期は1年中であるため、花粉症の時期というのはほぼ1年中であることになります。意外かも知れませんが、夏に飛ぶ花粉や冬に飛ぶ花粉などもあるので、夏の花粉症や冬の花粉症というものの存在します。しかし、春先は花粉がよく飛び散る時期でもあり、確かに春先が1番のピークで、その次に多い季節は秋の時期とであるいうことになります。自分が罹りやすい花粉症の時期を知ることによって、自分がどの花粉に弱いのか大体の目安をつけることが出来ます。2〜5月の花粉症が最も多い時期に花粉症になってしまう人はやはりスギ花粉やヒノキ花粉が一般的な原因になっています。その一方で秋の時期に花粉症になりやすいという人はヨモギやイネなどが花粉症の原因であると考えることが出来ます。花粉症の症状は鼻水やクシャミが止まらないというものが多いので、風邪と間違う場合がありますが、毎年同じ時期にクシャミや鼻水が止まらず、風邪だと思っていた人は花粉症を一度疑ってみるのもよいかも知れません。花粉症の時期で特に気をつけたいのが、当然花粉が飛び散る時や花粉が多く発生しやすい時です。晴れた日で風が強い日はもちろんのことなのですが、湿度が低く乾燥した日や雨が上がった後の晴天の日などは花粉が発生しやすかったり、飛び散りやすい時期でもあるので、こういう日に外出する場合は充分な花粉症対策をしてから外出するようにするとよいでしょう。
そうは言っても、もちろん花粉症の時期と言えば春です。冬が過ぎ、暖かくなると嬉しいのですが、同時に花粉症のシーズとなります。春から初夏にかけて、花粉症の人はクシャミや鼻水、鼻づまり、目の痒みなどの症状に悩まされます。春の花粉症の主な原因はスギ花粉やヒノキの花粉です。また、ブタクサやヨモギなどの花粉も影響します。この時期の花粉症は予防ではなく対策になります。まず花粉を部屋に入れないことから始まり、花粉に接する機会を出来るだけ少なくします。室内に入り込んだ花粉を掃除などで取り除きます。また、洗濯物にも花粉が付着するので、よく落としてから取り込むようにします。それと同時に花粉対策のサプリメントやお茶などを利用するのがよいでしょう。特にお茶の中でも甜茶の評判がよいようですが、ウーロン茶もメチル化カテキンという成分が花粉症対策に利用されます。特に凍頂烏龍茶が有名です。さらに、べにふうきに含まれているカテキンの一種のメチルカテキンが抗アレルギー成分として注目されています。このように春の時期の花粉症は、対策を行なうことが主流になります。既に花粉のピークの時期に入っているため、予防をしても間に合いません。花粉症の時期が過ぎたら、予防をシッカリ行なって次の年の春先に備えましょう。
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花粉症の原因植物 |
最も有名なスギ花粉の他にも花粉症の原因になる花植物は多くあります。飛ぶ季節が異なりますので要注意です。
■樹木による花粉症の原因物質 |
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スギ: |
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花粉症の最大の原因物質。日本の林業に欠かせない樹木で、戦後に大量に植林された。秋田杉や吉野杉も植物学上は同品種。2〜4月にかけて猛威を振るう。 |
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ヒノキ: |
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日本特有の常緑針葉樹。3〜5月が花粉のシーズンで、植林面積がスギを上回わるところもある。 |
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ネズ: |
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花粉の季節はヒノキと同じ3〜5月。ヒノキの一種で、飛散時期が微妙に異なる。 |
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ケヤキ: |
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都市の街路樹などによく見られる食物だが、4〜5月に花粉の量が多く、症例も多い。 |
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テウチグルミ: |
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4〜5月頃に動物のシッポのような長い花房から大量の花粉を出す。クルミ科の植物。 |
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シラカバ: |
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近年、北海道では花粉症の原因物質として注目を浴びている。シーズンは4月頃。 |
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ハンノキ: |
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飛散期間が1〜3月とかなり早いのが特徴。全国の広範囲に分布し、花粉の飛散量も多い。本数自体は少ないものの、ワサビ田などを日陰にするために植林されていることが多い。 |
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■草による花粉症の原因物質 |
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イネ: |
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真夏に花粉を飛ばすが、花粉の粒子が大きいため、遠くまで飛んでゆかず、被害が少ない。 |
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カモガヤ: |
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イネ科の花粉症の主要犯。明治初期、牧草として日本に入ってきた帰化植物のひとつ。 |
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オオアワガエリ: |
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カモガヤと同じく明治初期に入ってきた。寒冷地に雑草として全国に広く分布している。 |
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ブタクサ: |
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日本の3大花粉症のひとつ。8〜10月に花粉を飛散させる。大群落を形成することもある。 |
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ヨモギ: |
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秋口の原因はブタクサとヨモギで、この2種は飛散時期も重なる。全国に分布している。 |
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サイタカアキノキンリンソウ: |
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日本に帰化した食物の中でも特に繁殖力が高く、10〜11月がシーズンの原因物質。 |
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カナムグラ: |
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ツル科の植物で他の植物に強く巻き付く。雌株と雄株があるが、花粉は秋の雄株から発生。 |
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ヘメスイバ: |
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タデ科ギシギシ属。5〜7月に花粉を飛ばす多年草で、日当たりのよいところに育つ。 |
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ヒメガマ: |
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飛散シーズンは7〜8月の夏。円柱状の花穂から、大量の花粉を飛散させる植物。 |
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花粉の飛散カレンダー |
花粉症の原因は当然ながら花粉です。花粉症の原因をしっかり知る上でも、花粉の飛散時期を知ることは重要になります。場所によって飛散時期は違いますが、参考までに以下に代表的な時期を示します。なお、花粉症で最も多いスギ花粉はそろそろ飛散が始まっています。下の表を見ていただければ分かるように、要するに花粉はほぼ1年中飛んでいるわけで、そのため、冬しか花粉症から解放されないと悩む人がいるのはこのためなのです。 |
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■春の花粉 |
主に樹木の花粉の飛散時期です。花粉症を発症する人が最も多いのもこの季節で、一番代表的な花粉症の季節です。 |
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花粉 |
時期 |
地域 |
スギ |
2月から4月 |
北海道を除く全国 |
ヒノキ |
3月から5月 |
関東以南 |
ネズ |
4月から5月 |
北海道を除く全国 |
シラカンバ |
4月から5月 |
関東以北 |
ハンノキ |
1月から6月 |
全国 |
オオバヤシャブシ |
3月から4月 |
関東 |
コナラ |
4月から5月 |
全国 |
リンゴ |
4月から5月 |
主に東北 |
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■夏の花粉 |
主にイネ科の花粉の飛散時期です。ちょっと他の人より遅く花粉症になる人はこれらの花粉が原因かも知れません。 |
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花粉 |
時期 |
地域 |
カモガヤ |
4月から7月 |
全国 |
オオアサガエリ |
4月から7月 |
全国 |
ハルガヤ |
4月から7月 |
全国 |
ホソムギ |
4月から7月 |
全国 |
スズメノカタビラ |
3月から5月 |
全国 |
スズメノテッポウ |
3月から5月 |
全国 |
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■秋の花粉 |
主にキク科の花粉の飛散時期です。少し肌寒くなってくる時期ですが、風邪と勘違いせず予防する必要があります。 |
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花粉 |
時期 |
地域 |
ヨモギ |
8月から9月 |
全国 |
ブタクサ |
8月から10月 |
全国 |
オオブタクサ |
8月から10月 |
北海道を除く全国 |
カナムグラ |
8月から10月 |
全国 |
ヒメスイバ |
5月から6月 |
全国 |
ギシギシ |
5月から8月 |
全国 |
カラムシ |
9月から10月 |
北海道を除く全国 |
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参考:秋の花粉症 |
誰しも季節の変わり目には風邪を引きやすいものですが、クシャミや鼻水が止まらないので風邪だと思っていたら、実は秋の花粉症だった、という可能性もあります。花粉症の季節というと誰しもどうしても春先のイメージを抱くものですが、最近は花粉症は春だけのものではなく秋の花粉症というのもあり、また、夏の花粉症というのもあります。このことから分かるように、花粉症は季節に限らず発生するものであると考えた方がよいでしょう。
秋の花粉症とは、文字通り秋に症状が出る花粉症のことです。花粉症と言えば春先に罹るスギ花粉症のイメージが強いのですが、秋にも花粉症はあります。しかし、秋の花粉症患者の中には、秋の花粉症と気づかずに過ごしてしまう人も多くいます。それは秋は季節の変わり目なので、「風邪を引いたことによるクシャミや鼻水などが止まらないのかな」ぐらいに思ってほったらかしにしていたら実は花粉症だった、ということがたくさんあるのです。このため、秋口にクシャミや鼻水が止まらないと思ったら、一度耳鼻咽喉科に行って、花粉症かどうか検査してもらうのがよいでしょう。秋の花粉症に罹るのは大人だけとは限りません。実は子どもの方が秋の花粉症に罹る割合が多いとも言われています。秋の花粉症の症状としてはクシャミや鼻水が止まらなかったりと普通の花粉症の症状と一緒ですが、これが毎年のように繰り返されるとなると、やはり秋の花粉症の症状の可能性が高いので、医者に診てもらのことをオススメします。また、毎年のように夏風邪を引くという人も、実はこれも秋の花粉症の症状のひとつなので、この症状に心当たりのある方も病院での診察をオススメします。
当然ながら秋の花粉症の症状の原因となっているものもやはり花粉です。夏から秋に飛散すると言われているオオブタクサと呼ばれる草やセイタカアワダチソウ、ヨモギなどが秋の花粉症の原因であると言われます。また、この花粉以外にもたとえばイネやキクなどの花粉も原因になっているとも言われています。そして、この秋の花粉症も、春の花粉症と同じくクシャミや鼻水、鼻づまり、目の痒みが4大症状となります。また、症状が一定せず、悪化したり軽快したりを繰り返すことも特徴です。ただ、スギやヒノキなどの樹木の花粉によって起こる春の花粉症と違うのは、秋花粉症は、ブタクサやヨモギ、カナムグラなど空き地や河川敷に群生している草のの花粉が原因となることです。これらの植物の花粉の飛散時期は、ブタクサが8〜10月(※東北以北では8〜9月、九州では9〜10月)、ヨモギが8〜10月(※東北以北では8〜9月、九州では9〜10月)、カナムグラが9〜10月で、生育場所は、ブタクサが道端や荒れ地、畑の周辺など、ヨモギが市街地や堤防、空き地、道端など、カナムグラが道端や荒れ地、畑の周辺などだと言われています。たとえばこれらの草が生い茂っている場所の近くを通った後で症状が悪化し、自宅に帰れば軽快するなどの変化が見られれば、秋の花粉症の可能性が高いと考えてよいでしょう。
もっとも秋花粉症の原因となる植物は背の低い雑草なので、春の杉や檜などの樹木の花粉に比べて飛散数は少なく、飛ぶ距離や飛ぶ期間も短いのが特徴です。そのため、これらの草が生い茂っているような場所には極力近づかないようにすれば、対策にそれほど神経質になる必要はないと思います。また、たとえ花粉症が発症しても、秋の花粉症の場合、春に比べれば幸い症状は軽いことが多いようです。治療法はスギ花粉症と基本的に変わらず、症状を緩和する治療薬としては、内服の抗アレルギー薬や鼻の粘膜の炎症を抑えるステロイドの点鼻薬などがあります。また、ハイキングなどで郊外に出かける時にマスクやメガネなどで花粉との接触を防ぐことも効果的だと考えられます。
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【2】花粉症の原因とそのメカニズム |
花粉症はもはや国民病と言ってよいほどのものになっています。本節では、花粉症の本当の原因とそのメカニズムについて詳しく解説しました。
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花粉症の代表的な症状 |
花粉症には幾つかの典型的な症状があります。特に代表的なのはクシャミ、鼻水、鼻づまりでしょう。この3つに症状は花粉症の典型的なものとして既に多くの人が知っています。そして、この3つの症状はスギ花粉患者への症状調査の際にほぼ100パーセントの人が同様の症状で悩んでいると答えているのです。
■1) |
クシャミ: |
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花粉症によるクシャミは回数が多く、特に連続して起こるのが特徴です。多ければ10回以上連続でクシャミが続くことも少なくありません。風邪で起こるよう数回程度のクシャミと違い、まさに鼻の中に入ってしまった花粉を鼻の外に出すために、クシャミが止まらなくなってしうのです。 |
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■2) |
鼻水: |
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花粉症による鼻水は無色透明の水性でサラサラしています。顔が地面に対して垂直だと、鼻の穴から口まで簡単に鼻水が流れてしまうことも少なくありません。逆に粘度が高いものや色が濁った鼻水が出ることは余りありません。 |
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■3) |
鼻づまり: |
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花粉症患者の多くが最も苦労するのが鼻づまりだと言われています。花粉症の鼻づまりは両穴詰まることも多く、鼻で息することが出来なくなることも少なくありません。鼻をんでも直ぐにまた鼻がつまるという繰り返しになります。風邪の症状でも鼻が詰まることがありますが、さらにひどい詰まり方であるとと言ってよいでしょう。 |
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■4) |
目の痒み: |
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風邪の症状には余り見られないのが目の痒みです。これはまさに目に花粉が付着するために起こる症状で、付着した花粉を落とすために涙が出たり、ひどい痒みが出ます。痒み自体もひどいものですが、むしろ目を擦ることで結膜や角膜を傷つけてしまうことによって症状が悪化するケースもあります。
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花粉症発症のメカニズム〜免疫系の暴走〜 |
免疫系とは何か? |
花粉症を始めとしたアレルギーの発症には人間の免疫系が大きく関わっています。免疫系とは、循環器系・呼吸器系・消化器系・神経系などと並んで人間が生きてゆく上で欠かすことの出来ないシステムのひとつです。たとえば風邪のウィルスなどが体内に入ってくると、免疫系はその持てる力を総動員してそのウィルスを撃退します。ウィルスや細菌は日々侵入の機会を窺っているので、それらに対して免疫系は常に戦っていると言ってもよいかも知れません。そして、外からの侵入だけではなく、内側からの反乱、たとえばガン細胞の増殖を防いでいるのも免疫系なのです。こうした外敵や内側からの反乱を鎮圧するのが免疫系の仕事で、身体にとって異物ではあっても無害なものは白血球にただ食べられるだけで、特別な反応は起きないのが普通です。それは花粉も同じで、本来なら花粉が多少体内に入っても特別な反応は起きないはずなのです。それがどうしてさまざまな症状が起きてしまうのかと言うと、それは免疫系がある意味で暴走するからです。
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免疫系の役割 |
免疫系では、様々な細胞がそれぞれの役割を果たしながら体内の異物を排除しているのですが、中でも最も重要な役割を持っているのがT細胞と呼ばれるリンパ球です。このリンパ球は胸腺と呼ばれる臓器で作られているのですが、胸腺がラテン語でThymusと表記されることからT細胞と呼ばれています。そして、このT細胞には、譬えて言えば体内に入ってきた異物を見つける触覚のようなものが付いているのですが、このT細胞そのものには異物を発見する能力はありません。T細胞はウィルスや他の生物のタンパク質がそばに存在しても何も行動を起こさないのです。その意味でウィルスにとってT細胞は敵ではありません。こうして体内に侵入したウィルスは細胞内に入り込んで増殖を始めますが、そうするとウィルスに冒された細胞の表面にはある変化が生まれます。また、異物であるタンパク質はマクロファージという白血球に食べられるのですが、その白血球の表面にもある変化が現われます。
人間の体内では、驚くべきことに殆どすべての細胞に名札のようなものが付いています。それがHLA抗原と呼ばれるもので、上で触れたウィルスに侵された細胞やタンパク質を食べたマクロファージにもこのHLA抗原という名の一種のIDカードが付いているのですが、ウィルスやタンパク質由来のこのHLA抗原が表面に浮かび上がるのです。こうして、その細胞は他の全ての細胞と同じHLA抗原ではなくなってしまうのです。T細胞が関心を示すのはこの毛色の違うHLA抗原で、T細胞はこの毛色の違うHLA抗原を持つ細胞を発見すると俄然活発に増殖し始めます。なお、T細胞というのは実は総称で、実際にはキラーT細胞とかヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞の3つがあります。キラーT細胞はこうした異物に直接攻撃を加えてゆき、ヘルパーT細胞はいわゆる抗体を作るための指示を出します。そして、もうひとつのサプレッサーT細胞は不思議なことに抗体を作ることを抑制するのです。このあたりが免疫系の精妙かつ微妙なところなのですが、このサプレッサーT細胞の働きが弱まっていることが花粉症などのアレルギー症状の原因になっているのです。
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鼻がムズムズする時に身体の中では何が起きているのか? |
花粉症に関して言うと、もちろん花粉そのものが体内に入るわけではありません。花粉は吸い込んだ空気と一緒に鼻の中に入り、鼻の中の粘膜に付着します。水分を吸ってふくらんだ花粉は膨らみ、内部に含まれている微量のタンパク質が溶け出してきます。これが抗原になるのわけです。鼻の粘膜にもマクロファージと呼ばれる白血球の一種は巡回していて、こうした異物を捉えて食べてしまいます。これも一種の生体防御反応なのですが、マクロファージの表面には、ウィルスに侵された細胞と同様にスギ花粉などのHLA抗原が表示されるようになります。すると、ヘルパーT細胞が抗体を作れという指示を出します。しかし、花粉由来のタンパク質などは、たとえ体内にあっても増殖するわけでもなければ、細胞の中にまで入り込むものでもありません。つまり、大量でなければ身体には無害なのです。抗体を作って免疫系の総力を注ぎ込んで殲滅すべき相手では決してないのです。そのため、こういった時には当然サプレッサーT細胞が働いて抗体の生産を抑制します(※なお、サプレッサーT細胞が一体どのような方法で有害か無害かを判断しているのか、或は何がサプレッサーT細胞を活性化させるのかはまだよく分かっていないそうです)。しかし、サプレッサーT細胞がうまくこれを抑制できない場合に身体の中に抗体が出来てしまいます。抗体というのはいわゆる免疫の主役とも言うべき存在で、たとえば一度はしかに罹るともう罹らなくなるとか、インフルエンザの予防注射を打っておけばそのシーズンはインフルエンザに罹らないなどという本来は人間の助け手的な存在で、この抗体のお陰で殆どの伝染病がなくなりました。ところが、花粉症などのアレルギー疾患では、肝腎のその抗体が人間の足を引っ張っているのです。
抗体がどのようにして出来るのか、ここでちょっと専門的な話をしましょう。
ここで新顔のB細胞というものが出てきます。このB細胞はヘルパーT細胞からの指令によって抗体を生産するプラズマ細胞に変身します。すなわち、アレルギーを起こす抗体、すなわちIgE抗体を作り出すのです。このIgEの血清中の濃度は1cc中100万分の1g程度しかないと言われるほど非常に微量なのですが、このIgE抗体が、体内にある肥満細胞と呼ばれる細胞と血液中の好塩基球と呼ばれる白血球の表面に結合します。そして、肥満細胞や好塩基球はヒスタミンやセロトニンといった化学物質を大量に詰め込んでいます。こうしてアレルギー発症の準備が全て整いました。そし、このタイミングで花粉が体内に入ると、肥満細胞や好塩基球からヒスタミンなどの化学物質が飛び出す仕組みになっています。こうして、クシャミや鼻水が止めどなく出るとか目が痒くなる、喉が腫れる、頭が痛くなるといった諸症状が出てくるのわけです。
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なぜ現代人に花粉症が増えたのか? |
本来IgE抗体は寄生虫の感染などを腸から排出させるために役立つ抗体と言われていて、鼻粘膜などへの細菌にはIgG抗体がその任に当たっていたと考えられています。つまり、鼻粘膜についた異物の処理にIgE抗体が作られること自体が既に異常事態であったのです。
それでは、何故IgGではなくIgEが作られるのか、確たる見解はまだ出ておりませんが、日常生活の無菌化によってIgG抗体の出番がなくなってしまったのも一因ではないかと言われています。IgG抗体が活性化しているとIgE抗体の活性は抑えられるというわけです。たとえば現在40代以上の人なら記憶があると思ういますが、昔の子どもは時に青洟や緑洟を垂らしていたものです。あれはIgG抗体が鼻粘膜などに侵入してくる雑菌と戦った後の残骸なのです。砂場で遊んでいる途中で鼻をほじったりしていれば日々雑菌が侵入していたはずで、そんな生活がIgG抗体を鍛えていたのかも知れないのです。そのため、現代人には昔の人と違って花粉症などのアレルギー疾患が多いのだと考えられているわけです。
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参考:花粉症とアトピーとの関係 |
アトピーと花粉は関係があると言われます。もちろんアトピーの湿疹は、夏は汗で、冬は乾燥でひどくなることが多いのですが、決してそれだけではありません。アトピーの人は自分のアトピーがいつひどくなるかを少し考えてみて下さい。頻度は多くありませんが、花粉がアトピーの原因になっていることがあるのです。試しにアトピーがひどくなった時期に血液検査(アトピーの検査)を受けて花粉に陽性反応が出ないかどうか調べてみるとよいでしょう。なお、その検査でもしもシラカンバ花粉で陽性反応が出た人は要注意です。そのような反応が出た人は、リンゴや桃、サクランボ、ナシなどのバラ科の果物でアレルギーを起こしますが、この病気を口腔アレルギー症候群と言い、症状としては、唇や喉の腫れ、喉の不快感、喘鳴(ぜいめい)、蕁麻疹などが起こります。
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花粉症の本当の原因〜花粉症は環境問題!?〜 |
花粉症は人災!? |
現在日本の人口の5人に1人、いや今や3割が花粉症だと言われています。ということは、人口を1億2000万人として計算すると、少なくとも約2400万人が花粉症を患っていることになります。最近は花粉症の症状を訴える子どもも増加傾向であると言いますが、患者の大半は20代〜60代の働き盛りの人ですが、彼らにとって、朝から晩まで、そして寝ている時でさえ安眠を妨げる花粉症はまさに不倶戴天の敵であると言ってよいでしょう。花粉症の時期を2か月と想定しても、その間の仕事への集中力はかなり下がらざるをえないはずです。極端なことを言えばGDPにも大きな影響が出ているに違いありません。さらに国民の経済的負担も決して馬鹿にはなりません。花粉症治療にかかる治療代だって決して莫迦にならないのです。仮に花粉症患者の半数が医者に通っているとして、花粉症の時期の2か月間に少なく見積もって1万円程度の治療代を医療機関に払うとした場合、3割負担で換算して、約3万円強の金額が健康保険からの出費で賄われることになるわけですが、その額は何と3600億円となります。何とこれだけの金額が花粉症の時期の2ヶ月程度で健康保険から支払われている計算になるのです。もっとも医療費以外の市販薬やマスク、甜茶などいわゆる花粉症市場は1000億とも言われますが、こちらは市場を潤わせているわけなのでまだしもとしても、花粉症の人にとっては腹立たしい限りです。
さて、花粉症の原因は様々な要因が絡み合ったものですが、決定的なことは、花粉がなければこれほどまでに花粉症の患者が増えることはなかったということです。そのため、一部の花粉症サイトでは「杉の植林を禁止しろ」といった過激な意見まで飛び出している有様です。杉の植林を止めるというのは確かに行き過ぎとは思います、実際に花粉症は人災である可能性も高いのです。戦後に拡大造林を奨励しながら、片方では外国産材の輸入を野放しにして、結果的に国内の林業を瀕死の状態に追い込んでいる国の政策にも疑問を懐かざるを得ません。日本の林業が抱えている問題と花粉症の関係について、ここで一度きちんと考えてみるのも大切なのではないでしょうか。
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戦後の拡大造林 |
そもそもの始まりは昭和30年代の拡大造林です。戦後の復興ムードの中、過剰な木材の需要に広葉樹を主体とした里山は皆伐され、そこに新たに早生樹種の代表格である杉や檜が大量に植えられました。日本の国土面積に対する森林面積は約7割と言われていますが、その中の人工林の比率は約4割で、そのうち広葉樹も若干は含まれているはずですが、その殆どが杉や檜、松などの針葉樹だと見られます。つまり、国土の3割以上が杉や檜なのです。これでは日本国土全体に花粉が舞うのは仕方ありません。しかし、拡大造林された杉や檜の森林が丁寧に手入れされてさえいればこれほどの花粉が舞うことはなかったはずです。1960年に丸太材の輸入自由化、そして、1962年の木材製品輸入自由化を契機として、外国から安い木材が日本国内にどっと入り込んで来ました。それ以来、国内の木材の価格は下がり続け、今やピーク時の価格の3分の1以下になってしまっていると言います。これが30年〜40年育てた木の価格なのです。木材の価格が、それも立派に成長した木材の価格が下落したというのでは、間伐材などは誰にも見向きされなくなります。間伐というのはいわゆる間引きです。杉や檜などの針葉樹は、木を真っ直ぐに育てるために1ヘクタールに3千本という非常に多くの苗木を植えます。しかし、ずっとこの本数を維持するわけではなく、木の成長に合わせて、育ちの悪い木を伐採したり、さらに成長した場合は間隔を空けるために伐採するのですが、これを間伐と言うのです。かつてはこの間伐材も、木の直径に応じて様々な分野に使用されていました。たとえば建築現場の足場や養殖漁業の筏、さらに細いものは薪や炭に加工されて商品になっていたのです。ところが、間伐材の用途が減少してくるにつれて、間伐材そのものの価格が下落し続け、間伐という作業自体が赤字を生み出す労働になってきました。もちろん成長した木材がある程度の価格で取引されるのであれば、そのための間伐にもお金を使う林業経営者もいるでしょうが、生長した木材でさえ下手をすると赤字なのです。間伐に回わせるお金などどこからも出てきません。こうして日本の人工林は人工林にとって皆伐と同じくらい手ひどい扱いを受けているわけです。要するに放置されているのです。そして、このような理由で間伐が行なわれないために、一定面積内に必要以上の木が植えられているわけですが、これが花粉の数に影響しないわけがありません。
さらに、ここでもうひとつ問題なのは、枝打ちが行なわれていないことです。杉は放っておけば枝をどんどん出して葉を茂らせてゆきます。しかし、枝が成長すると、幹の成長が遅れたり、真っ直ぐ育たなかったり、さらには幹部に節が出来るなどの理由で不要な枝を切るのですが、これもやはり放置されているために、当然ながら枝打ちもなされていないわけです。通常、杉の枝は木の成長に合わせて約半分が枝打ちされます。余り枝を取り去ってしまっては光合成が出来なくなるので、上半分の枝は残し、それ以下の枝を落としてゆくのですが、単純計算すると、枝打ちされていない杉や檜は、枝打ちされている杉や檜よりも倍の花粉を出すということになります。ちなみに、3ヘクタール以上の森林経営者の作業状況では間伐を実施したのは僅か2割弱だそうですが、そうすると8割以上の間伐しなくてはならないところで間伐が行なわれていないことになります。そして、間伐が行なわれていないということは、さらにお金にならない枝打ちが行なわれているわけがないわけで、要するに日本の人工林の8割は付ける必要のない倍の枝を持ち、倍の花粉を撒き散らしていることになるわけです。
動物と同様、どんな杉も檜も子孫繁栄のために花を咲かせ、花粉を放出します。
しかし、それが丁寧に手入れさえしていたならば、花粉の飛散も現状の半分以下くらいに減らすことができたのではないでしょうか? 花粉の飛散量が半分になれば花粉症で苦しい思いをする患者も半分になるかは分かりませんが、しかし、少なくとも花粉の飛散量が半分になれば花粉症の患者数もかなり少なくなるだろうことは間違いのない事実です。
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ディーゼル排ガスと花粉症との関係 |
皆さんは環七雲という言葉をご存じでしょう? 環状7号線や環状8号線といった交通量の多い地域では排気ガスが上空に昇って雲になると言われているのです。
花粉症の表の原因が花粉そのものであるとすると、裏の原因に挙げられているのがディーゼルエンジンの排気ガス(DEP)に含まれる微粒子です。DEPは、Diesel
Exhaust Particlesの略で、これはディーゼルエンジンの不完全燃焼によって出てくるのですが、これが体内に入ると通常の3〜4倍もの抗体が生み出され、花粉に敏感に反応するようになってしまうという報告があるそうです。
自動車を運転する人だけでなく、あのディーゼル車の黒煙には閉口する人も多いはずですが、ディーゼル排ガスは、花粉症だけでなく、気管支炎や喘息、肺癌等の増加に関わっているとされています。また、DEP粒子の大きさは2マイクロメーターと言われていますが、それよりもさらに小さな粒子、SPM(=浮遊粒子状物質=Suspended
Particulate Matter)と呼ばれるものの中には0.01マイクロメーターという極小のものまであり、これは肺の細胞まで擦り抜けて血管の中にまで入り込んでしまうものもあるのです。ちなみに、東京都ではディーゼル排ガスと花粉症との関係について住民700人の直接参加による大規模な調査を行なっているそうです。また国立環境研究所が行なった動物実験では、排ガスを吸わせたモルモットに杉花粉を注入しているとも言いますが、きれいな空気を吸わせたモルモットに対してクシャミの回数が9倍も多かったという結果が出ているとも言います。このように、ディーゼル排ガスはもちろん花粉症だけではなく肺ガンなどの重篤な病気の原因にもなっている可能性が高いのです。
◆参考1: |
ディーゼル排ガス |
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ディーゼル自動車からの排出ガスのことで、窒素酸化物(NOx)や浮遊粒子状物質(SPM)を多く含有します。特にSPMはガソリン車やLPG車からは殆ど排出されないため、大部分がディーゼル車由来と見なされています。ちなみに東京都環境保全局の調査においても、都内など大都市圏におけるSPM全体の発生源別寄与率は、自動車排ガスが約48%と最も大きく、中でも呼吸器官に影響の大きい微小粒子については、自動車排ガスの寄与が約56%と高いため、ディーゼル車排出ガス対策は緊急を要するとされます。 |
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◆参考2: |
杉や檜を活かす方法を考えよう |
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森林は治水能力を始めとしてお金では代えられないほどの恵みをもたらしてくれています。幾ら杉や檜が花粉を出すからといって、これ以上人工林・原生林を問わず森林面積を減らしてゆくのは決して得策とは言えません。京都議定書の実施に伴う日本の二酸化炭素削減目標6%のうち、3.8%は森林の吸収分が盛り込まれているのです。それも適切な手入れをすることが前提になっています。森林分の3.8%を除いた削減だけでも日本の産業界は多大な努力を強いられているのです。如何に森林の力が大きなものであるか、これで分かるでしょう。また、21世紀の中頃には石油が枯渇すると言われていますが、そうすると石油を原料にしたプラスチック製品も作りにくくなります。電力を大量に消費するアルミニウムも今ほど作れなくなるはずです。そして、加工に大量のエネルギーを消費する鉄も高価になってゆくはずです。木材、特に杉など比較的早く育つ早成樹は21世紀の資源として重要なはずなのです。鉄とプラスチックに囲まれた未来予想図は大幅に変わり、木の製品だらけの未来社会が訪れるかも知れません。また、木質バイオマスは化石燃料なき後の重要なエネルギー源としても期待されています。そのためにも、人工林をよい状態で維持し、次世代に引き継いでゆくことが必要とされています。杉や檜を毛嫌いするのではなく、それを活かす方法を考えるべきでしょう。そのために、私たちが出来ることは幾つもあります。たとえば家を建てる場合には国産の木で建てる、机や椅子なども国産材を使ったものを選ぶ、さらに余裕のある人はペレットストーブなどを使うといった具合です。とにかく徹底的に日本の森を活用するのです。 |
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■参考文献 |
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奥野修司 著(フリー・ジャーナリスト) |
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『花粉症は環境問題である』 |
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文春新書619、文藝春秋・08年02月刊、¥746 |
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かつて日本を覆っていた広葉樹林。それを戦後、国策によってその大部分を杉に代えたのは環境破壊である。「死の森」の出現と花粉症の蔓延といった新しい角度から花粉症の解決を試みる。 |
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