【3】大人のりんご病 |
りんご病は子どもだけの病気ではありません。
本節では、大人のりんご病に加え、妊婦とりんご病について解説しました。
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大人のりんご病の症状とその特徴 |
りんご病は子どもが感染することが多いのですが、大人が感染することもあります。りんご病の発症は、その大半が幼児を含む子どもに発症するウイルス感染症で、これは乳幼児や園児がまだりんご病のウイルスの免疫を持っていない子どもが多いことが原因なのですが、しかしながら、大人になってもりんご病に感染するケースも多く確認されており、大人の感染症状は子どもの場合とやや異なっています。健康な子どもがりんご病に罹って何も症状が出ないということもありますが、大人がりんご病に感染すれば、症状は必ず現われ、その症状は子どもに比べると重いです。特に子どもの症状と大人の症状の最大の違いは関節炎を伴うケースが多く確認されていることで、関節炎の発症により関節リウマチなどの関節の疾患との診断の見極めが難しいケースもあります。
■大人のりんご病の特徴的な症状 |
大人のりんご病は症状的に風疹と間違われやすいため、大人がりんご病になるとどのような症状が出るのか予め知っておくことも必要でしょう。 |
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高熱 |
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最初に出るのが高熱で、38℃以上の高熱が3日ほど続きます。また、高熱と同時に目眩や吐き気も感じます。 |
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倦怠感 |
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これも子どもには起きない症状で、今まで感じたことがないぐらいの倦怠感を感じます。高熱が出たと同時に倦怠感を感じ、倦怠感だけは熱が下がった後でも暫く続くというのが特徴です。 |
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発疹 |
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子どもがりんご病に罹っても発疹は出ますが、大人がりんご病に罹ると広い範囲で赤い発疹が見られます。高熱が下がった後に手足だけではなく手首や指にも出て来て、ひどい場合には指が曲がりにくくなるという症状も出ます。 |
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関節痛 |
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腰の痛みだけではなく膝などの関節にも痛みを感じるのが大人のりんご病の症状です。高熱が下がって発疹が出て来た後に膝の痛みは階段の上り下りが辛くなるほどになることもあります。 |
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むくみ |
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手足がむくむのも大人のりんご病の特徴です。熱が下がった後、関節痛が出て来る頃に手足のむくみを感じることが多くあります。 |
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大人がりんご病に罹ると腰痛になる!? |
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大人のりんご病の症状のうち、特に生活にも支障が出るくらい辛いものが腰痛です。熱が下がった後に発疹が出てきた頃から関節痛を伴うのが大人のりんご病の特徴ですが、この関節痛が起きると同時に腰痛を感じる人が多く、関節痛の痛みよりも腰痛の方が強く感じるということも多くおり、中には生活に支障を来すくらいの腰痛になる人もいます。 |
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大人のりんご病に気をつけたい人 |
大人でりんご病に罹ると重症化する可能性の高い人は注意が必要です。
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妊婦 |
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妊婦がりんご病に罹ると、ウイルスが胎児にも感染してしまいます。胎児が重度の貧血になり、胎児水腫(身体に水分が溜まる)になったり、流産・早産になる場合があります。 |
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溶血性貧血の人 |
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溶血性貧血というのは赤血球が壊れやすいために起こる貧血です。りんご病に罹ると貧血の症状が進むことがあります。 |
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子どもの頃にりんご病に罹らなかった人 |
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りんご病は一度罹ると抗体が出来ることが多いので、基本的には一生に一度しか罹らない病気とされています。従って、子どもの時にりんご病に罹ったことのない人は、大人になってからかりんご病に罹る危険性ががあります。 |
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妊娠とりんご病 |
りんご病が原因で感染者が死亡することは殆どないのですが、妊娠期間中に感染すると胎児死亡などを発症します。このウイルスが感染するのは赤血球の元の細胞である赤芽球という細胞ですが、この細胞をウイルスが破壊するので、一時的に赤血球産成が停止してしまいます。母体が感染すると、胎盤を通して胎児に感染し胎児の赤血球がどんどん減少し、重傷の胎児貧血となってしまいますが、貧血が進むと胎児はむくみがひどくなり(胎児水腫)、最終的には死亡することも多いのです。
妊娠20週未満の母体感染の30%ほどに胎児も感染し、その3分の1が胎児水腫や子宮内胎児死亡となりますが、これは母体感染の10%程度胎児が死亡する可能性があるということでもあります。また、原因不明の胎児水腫や子宮内胎児死亡の20%にパルボウイルス感染があるとも言われています。胎児の胸部や腹部の水分含有量が多くなってくるのを早期発見できれば、出生させて新生児輸血を行なったりすることも可能ですが、胎児水腫が急激に悪化して死亡に至る例も多くあります。その一方で、妊娠20週以降の感染では胎児水腫は殆ど発生しないとされています。
母体感染から2週間〜17週間(平均10週間)後に胎児に影響が出て来るので、長期に渡る管理が必要となります。以前りんご病に感染したのか、それとも最近感染したのかは血液検査で分かります。そこで、感染して3ヶ月はIg-M抗体が陽性となるので妊娠初期にIg-M抗体陽性であれば、妊娠期間中は毎週チェックを行ない、胎児異常の早期発見に努めることになります。なお、Ig-G抗体が陽性であれば、免疫を持っているということになります。なお、正常な免疫力を持つ妊婦さんであれば、紅斑や関節痛が出現した後ではウイルスを排出していないので周囲への感染源となる可能性は低くなりますが、念のためマスクや手洗いは推奨されます。とにかく心配のある人は血液検査を希望しましょう。抗体があれば安心ですが、抗体を持っていないことが分かっても、ワクチン接種があるわけではないので、どうしようもないと言われればその通りなのですが、このような病気が存在しており、しかも高率に胎児感染を起こしうるといったことや、或は風邪のような症状で感染していることもあるという知識は持っておくと、疑わしい症状があった時に担当医に相談することができて対応が早くなるという利点はあります。
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りんご病が妊娠に与える影響 |
りんご病は重症化しなければ軽い症状で済みますが、妊婦が感染すると事態は深刻です。特に妊娠中は体内の栄養も不足しがちで、免疫力が低下しやすい時期でもあるので、母体や胎児への悪影響を更に助長してしまうことになりかねません。
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母子感染の可能性が高い時期 |
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妊娠3週から臨月まで妊娠全期間において感染の可能性があります。特に妊娠前半期は、感染すると胎児を無事に出産できないケースもあります。国内では妊娠20週過ぎにりんご病により胎児水腫になるケースが多いとされていますが、妊娠後期でも感染による胎児水腫が起こったケースもあるので、無事出産するまでは予防を心懸けて下さい。 |
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胎児への影響 |
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妊婦さんがりんご病に感染すると、ヒトパルボウイルスB19というウィルスが血液中の赤血球の元になる赤芽球前駆細胞に感染して増殖し、細胞を壊してしまいます。そうなると急激な貧血になることがありますが、その貧血が特にひどい場合は危険です。お腹の赤ちゃんにウィルスが感染すると胎児貧血になり、更に長期間ウィルスに感染し続けることで貧血が続くと、発育が遅れて低出生体重児として生まれてしまう可能性が高まってしまいます。また、胎児がヒトパルボウイルスB19へ感染すると、身体がむくんだり、胸やお腹に水が溜まったりしてしまう胎児水腫という症状が起こり、心不全などの命の危機に晒されることもあります。 |
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治療が与える影響 |
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妊娠の有無に関わらず、治療法は症状を和らげるだけの対症療法になります。流行時期だったり、家族が感染したりと、少しでも感染の可能性があるならば、早めに産婦人科で相談し、予防対策を実践するよう心懸けましょう。 |
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【4】子どものりんご病 |
りんご病と言えば、やはり何と言っても、その感染は子どもが中心です。
本節では、乳幼児を始め子どものりんご病について取り上げ、その対処法について解説しました。
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子どものりんご病とその感染 |
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潜伏期間 |
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感染から発症までにかかる期間で、10日〜20日と非常に長いです。この間にも感染力があり、他の人に移る危険性はあります。 |
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発症 |
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ここで風邪のような症状が出て、1週間続きます。この症状が出た頃が最も感染力が強いです。また、それに続いて赤い発疹が1週間程度出て来ます。りんご病の最大の特徴である赤いほっぺたですが、この症状が出て来た時には実は既にウィルスの勢いは弱くなっており、感染症からの回復期に入っています。 |
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回復期 |
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顔に発疹が出たり消えたりで、ほぼ感染力もなくなった時期です。 |
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子どもと大人の症状の特徴 |
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子どものりんご病の症状 |
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子どものりんご病は比較的症状が軽い上、発疹などもしつこく残らないのが特徴です。そのため、症状が軽すぎて、りんご病に罹ったことも知らないまま完治しているケースなども多く見られます。
- 初期症状(感染後1〜3週間後)
軽い発熱やクシャミ、鼻づまりなど風邪のような症状が現われます。
- 中期症状(初期症状後1週間〜10日後)
りんご病の特徴とされる両頬の赤い発疹が現れます。お腹や手足にレース柄のような網目状の紅班が出る場合もあり、微熱と痒みを伴います。
- 後期症状(中期症状後1〜2週間)
いつのまにか顔の発疹は消え、身体の痒みなども全て引いてゆきます。
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子どものりんご病の症状 |
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大人の約50%の人がりんご病ウイルスに抗体を持っているため、大人になってからの感染は比較的少ないですが、大人は子どもに比べて症状が重く、完治までに時間がかかることが特徴です。また、しつこい紅班と痒み、全身の関節痛は精神的にもかなりのストレスとなりますが、特効薬がないために自然治癒を待つのみなので厄介です。
- 初期症状(感染後1〜3週間後)
疲労感や微熱など風邪の引き始めのような症状が現われますが、大人の場合は比較的軽いことが多いです。
- 中期症状(初期症状後1週間〜10日後)
りんご病特有の両頬の赤い発疹は少なく、腕や太もも、お腹など全身にレース柄のような紅班が現われ、ひどい痒みとむくみの症状に襲われます。他にも高熱や目眩、関節痛、強い倦怠感といった症状が特徴で、仕事や家事などの労働が困難なほど重症化するケースも多くあります。
- 後期症状(中期症状後3日〜1ヶ月)
高熱は3日程度で治まりますが、中期症状が長くて1ヶ月ほど続きます。
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子どもがりんご病に罹らないための予防策 |
りんご病は自覚症状のない潜伏期間に感染力が最大となる厄介な感染症で、集団生活が基本となる5歳〜9歳の園児や小学生の感染が一番多いとされています。また、クシャミやウイルスのついたものに触れることで知らず知らずのうちにりんご病に感染するのですが、健康な児童は感染しても症状が出ないケースも多くあります。残念ながらワクチンや予防接種などもないため、りんご病を完全に防ぐことは不可能ですが、普段から免疫力を上げるような規則正しい生活を心懸けることが大切です。
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子どもがりんご病に罹ってしまった時は |
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初期の症状が現われたら |
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この発熱の段階が一番感染力の強い時期なので、他の子ども達に感染を広げないためにも、出来るだけ園や学校をお休みし、安静に過ごしましょう。ここで無理をさせないことは、この後に現われる中期の症状に備える意味でも効果的です。 |
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中期の症状が現われたら |
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顔が赤くなって発疹などの中期の症状が現われたら、既に感染力は低下しているので、家族や他人に移す心配はありません。入浴もして大丈夫ですが、温めると発疹の痒みが増し、それを掻いてしまうことで紅班の治りが遅くなるので、なるべく短めの入浴にしましょう。また、激しい運動による汗や日焼けなども同じく痒みを増しますし、発疹が悪化する場合もあるので、この時期は極力安静に過ごすことがオススメです。 |
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高熱が出た場合 |
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ごく稀ですが、子どものりんご病は脳炎などの合併症を起こすことがあります。ひどい高熱などの場合は直ぐに病院を受診するようにしましょう。 |
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赤ちゃんのりんご病とその症状 |
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熱が出て風邪のような症状が出る |
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まず第一段階として37℃程度の低い発熱があり、一見風邪のような状態が出ます。 |
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ほっぺたが赤くなる |
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頬部分に斑ではなくきれいな部分的赤みが現われます。 |
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腕や足への発疹 |
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腕や足などに網目状やレース状のような発疹が出ます。これは通常1週間程度で消えます。 |
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胸や背中への発疹 |
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赤ちゃんにによっては胸や背中に突如として発疹が現われます。これも通常1週間程度で消えます。 |
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皮膚の痒み |
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火照りや、太陽を浴びて温まると痒みも出て来ます。赤ちゃんがむずがゆがっている時はりんご病の疑いがあります。 |
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赤ちゃんのりんご病の治し方 |
赤ちゃんがりんご病を発病した場合は、どう対処したらよいでしょう?
微熱がある、頬が赤く、発疹がある、むずがゆい動きをするなどの症状があれば、まずはかかりつけのお医者さんを受診しましょう。しかしながら、現在ワクチンなどりんご病への直接的な効果のある特効薬はありません。ウイルス対策のためのγ-グロブリン製剤などの薬を処方されるか、自然治癒を待つだけだと言われることが多いと思われます。何れにせよ、風邪と同じように安静にしていれば治る病気なので、慌てずに経過を見守りましょう。
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乳幼児のりんご病で気をつけるべきこと |
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保育中に気をつけること |
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食べ物なども普段通りで構いません。ただし、日光に長時間当たると赤みが長びくことがあるので、外遊びの時には配慮が必要です。保育所や幼稚園など集団保育の場でりんご病が流行している時は、送迎等をなるべく避けてもらうとかマスク着用などといった妊娠中の職員や保護者への注意喚起が大切となります。 |
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治癒・登校の目安 |
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発疹が出てからは感染力はありませんので、全身の状態がよければ特に休園の必要はありません。また学校保健法においてでも、りんご病は学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされていないため、特に出席停止の規程はありません。 |
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参考:小児の感染症に関する参考情報 |
◆参考図書 |
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尾崎隆男+吉川哲史+伊藤嘉規・監修 |
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『小児感染症のイロハ 感染看護に必要な知識と対策』 |
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日総研出版・2013年08月刊、3,600円 |
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