【1】ついに実施!裁判員制度〜裁判員制度の実施とその背景〜 |
今年の5月よりついに裁判員制度が実施される運びとなりました。
本項は、裁判員制度とその意義について、また、裁判員制度が導入されるに到った背景などについて取り上げ解説しました。
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ついに始る裁判員制度〜裁判員は67人に1人は体験する確率!?〜 |
裁判員制度の実施日がついに5月21日と迫って来ました。そして、7月下旬から市民である裁判員を交えた裁判員制度に基づく最初の公判が始る見通しになっています。
裁判員候補者には既に昨年の年末辺りから裁判所からの通知及び調査票が送付され始めましたが、後述する通り、これで今年裁判員になるべき候補者は既に選ばれたことになります。皆さんもいつ裁判員を拝命するか気になるところだと思いますが、聞くところによると、選挙権を有する国民のうち67人に1人は裁判員を体験する確率だろうと言われています。
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裁判員制度とは? |
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裁判員制度が導入されると: |
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裁判官3人+裁判員6人 |
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裁判員制度とは、一定の刑事裁判において国民から事件毎に選ばれた裁判員が専門家である裁判官と共に審理に参加する日本における司法・裁判制度を言います。すなわち裁判員制度とは、重大な犯罪で起訴された刑事事件を、国民(=選挙権を持つ市民)の中から選ばれた裁判員と専門の裁判官が対等に議論し、被告人が有罪か無罪か、また、有罪の場合はどのような刑罰を課するのか(量刑)を決めていくものです。そして有罪・無罪の判断については、被告人が犯罪を行なったことについて「合理的な疑問を残さない程度の証明」が為されたかどうかが基準となります。なお、ここで「合理的な疑問」とは、裁判員一人ひとりの良識において少しでも疑問が残る場合は「無罪」、疑問の余地はないと確信した場合は「有罪」と判断することとなります。なお、国民が裁判に参加する制度は、アメリカやイギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど世界の国々で広く行なわれています。
◆参考1:裁判員制度の対象となる事件 |
裁判員裁判の対象となる事件は一定の重大な犯罪であり(※交通違反や万引きなどといった一般に軽微な事件は含まれません)、その代表的な例を挙げると次のようなものがあります。 |
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- 人を殺した場合(=殺人)
- 強盗が人に怪我をさせ、或は死亡させた場合(=強盗致死傷)
- 人に怪我をさせ、その結果死亡させた場合(=傷害致死)
- ひどく酒に酔った状態で自動車を運転して人を轢き、死亡させた場合(=危険運転致死)
- 人が住んでいる家に放火した場合(=現住建造物等放火)
- 身の代金を取る目的で人を誘拐した場合(=身の代金目的誘拐)
- 子どもに食事を与えずに放置して死亡させた場合(=保護責任者遺棄致死)
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◆参考2:裁判員制度のシンボルマークとその意味 |
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●かたち:
2つの円は裁判官と裁判員を表わしています。2つの円が交わることで、両者が協力し合う姿勢を表わしています。そして、さらにその形は∞(無限大)を表現しています。すなわち、法律を熟知した専門家である裁判官と一般市民の代表である裁判員とが協力し合うことで生じる効果が無限大であることを表わしています。
●いろ:
親しみやすいパステル調の色合いをベースに、赤みがかかった部分は「活発さと情熱」を表現し、青みがかった部分は「冷静な判断」を表現しています。どちらの色が裁判官か裁判員かという区別は特にしていません。
●イメージ:
裁判員のローマ字表記の頭文字Sも表現しています。 |
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陪審員制との違い〜いわゆるアメリカの「陪審制」とはちょっと違う〜 |
海外では多くの国が国民の参加する裁判制度を取り入れています。たとえば「陪審員制」とか「参審員制」といったものがそれです。
現在米国を始めとする国々で行なわれている「陪審員制度」は、選挙人名簿などから無作為に選ばれた18歳以上(※年齢の制限が違う国もあります)の12人で構成され、裁判官から独立して原則全員一致(※一部では多数決)で有罪か無罪を決め、それを受けて裁判官が量刑を決めるシステムです。一方の「参審員制」は、国によって選ばれ方や年齢制限、人数に違いはありますが、基本的には裁判官と同等の権利を持ち、合議によって罪責と量刑を決めてゆくシステムです。
これから日本で導入される「裁判員制度」はいわゆる「参審制」で、有罪か無罪だけでなく、刑罰(量刑)まで裁判員がプロの裁判官と協議して決めてゆくシステムです。また、この日本の裁判員制度でも原則として裁判員と裁判官は対等な権限を持っています。
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参考:陪審員制度はかつて日本でも行なわれていた!? |
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実は日本でもかつて陪審員制度が行なわれていたことがあって、それは、大正デモクラシーを背景に、これまで行なわれていた一部の特権階級の人たちだけが政治を行なうことから、市民が参政して自由主義や民主主義が叫ばれていた時代のことです。当時の陪審員は納税額が一定以上の男子の中から選ばれ、裁判官は陪審員の出した結論には拘束されずに審理を行なっていました。導入から15年余で制度が定着しなかった、戦争が激化する中で制度を維持することが難しくなったなどの理由で残念ながら停止の状態となってしまいました。当時の陪審員制度は被告人が陪審員による裁判か裁判官のみに夜裁判かのどらかを選ぶことができ、陪審員制度が定着しなかったということは、結果的に裁判官による裁判を被告人が選ぶ数が多くなって廃れたという側面もあると言われています。なお、陪審員による裁判での有罪率は裁判官による裁判に比べて遙かに低かったそうです。 |
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裁判員制度導入の理由 |
裁判と聞くと、今まで一般の人には無関係なことのように感じがちでした。しかし、現在では犯罪も欧米並みに凶悪化、低年齢化し、件数にも右肩上がりに増えています。こういった現状の中、これまで行なわれてきた裁判は、裁判官・検察官・弁護人といった法律の専門家のみによって丁寧かつ慎重に検討が行なわれてきましたが、しかしその結果、法律に照らし合わせ、専門性を重視するの余り、審理に長期間を要し、判決の内容などが理解しにくいものであったことで、国民にとっては近寄りがたい印象を与えてきたのも事実です。
裁判員制度とは、このように市民感覚から遊離してしまった裁判制度に私やあなたといった市民の感覚を反映させることで、その中で国民一人ひとりが司法への信頼や理解を深め、分かり安い裁判を実現してゆくために提案された制度です。要するに市民が裁判に参加することで、それぞれの市民の視点や感覚が裁判の内容に反映されることになるわけで、その結果、裁判が身近になり、市民の司法に対する理解と信頼が深まることが期待されています。そして、市民が自分を取り巻く社会について考えることにつながり、よりよい社会への第一歩となることが期待されています。
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参考1:裁判員制度に関する世論調査 |
1年ほど前のニュース記事になりますが、裁判員に選ばれた場合に参加の意思のある人は、それでも60%強はいるとのことです。また、そのうちで「義務だから裁判への参加は仕方がない」とする人は45%弱だったそうです。これら世論調査の結果によると、裁判員制度に対して批判や、また、人を裁くことに対する嫌悪感などを表明する人は多く見られるものの、裁判員に選ばれた場合は忌避せずに裁判に参加する意思を持った人たちがそれなりに多くいることを示していると言ってよいでしょう。
これまた1年前のデータですが、YAHOO!ニュースがWEB上で行なった「裁判員の参加で量刑の傾向がどうなるか」の予想を尋ねた意識調査によると、「裁判員参加で量刑は却って重くなる」と答えた人が63%になったと言います。当アンケートページの「ひと言メモ」には、《「報道と感情で判断すれば刑は重くなり、冤罪(えんざい)は増える」といったコメントが寄せられ、裁判員の参加で量刑が現在より重くなるとみる人が63%となっています。一方で、「人の人生がかかっていることを考えると、厳罰を求めるのは難しそう」「被告の恨みを買うのを避けるため、軽くなる」と考える人がいました。》と書かれています
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【2】裁判員制度とはどのような制度か?〜裁判員裁判の実際とその運用〜 |
裁判員制度で一般の人が一番気になるところは当然ながら裁判員のことでしょう。
本項では裁判員に視点を集めて、裁判員の選ばれ方やその仕事内容、また、裁判員裁判の実際などについて以下で取り上げ解説しました。
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裁判員の選び方 |
裁判員はこうして選ばれる |
最初に選挙人名簿を下に「裁判員候補者名簿」を作成します。次に、この候補者名簿の中から1つの事件毎に裁判所における選任手続によって裁判員が選ばれます。
裁判員の選任までの流れは以下の通りです。
◆(A)前年12月頃 |
(イ) |
裁判員候補者名簿を作成 |
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選挙権のある人の中から翌年の裁判官候補者となる人を毎年籤で選び、裁判所毎に裁判員候補者名簿を作ります。 |
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なお、調査票を活用し、明らかに裁判員になることの出来ない人や、1年を通じた辞退理由が認められた人は、裁判所にゆかなくてもよい場合があります。 |
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◆(B)6週間前 |
(イ) |
事件毎に籤で裁判員候補者が選ばれる |
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事件毎に(A)-(イ)の名簿の中からその事件の裁判員候補者を選びます。 |
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※ |
なお、質問票を活用し、辞退が認められ、呼び出しを取り消された人は裁判所にゆく必要はありません。 |
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◆(C)裁判員選任手続き期日 |
(イ) |
裁判所で候補者の中から裁判員を選ぶための手続きが行なわれる |
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辞退希望がある場合の理由などについて、裁判長から質問されます。 |
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※ |
なお、(A)(B)の段階以外でも、裁判員になれない理由のある人や辞退が認められた人は裁判員の候補者から除外されます。また、検察官や弁護人の請求により候補者から除外されることもあります。 |
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調査票や質問票で尋ねられること |
■調査票で尋ねられること |
- 就職禁止事由への該当の有無(例:自衛官や警察職員など)
- 客観的な辞退事由に該当する場合、1年を通じての辞退希望の有無・理由(例:70歳以上、学生または生徒、過去5年以内における裁判員経験者など)
- 重い疾病または傷害があるために裁判員としての参加が困難な場合、1年を通じての辞退希望の有無・理由
- 月の大半に渡って裁判員となることが特に困難な特定の月がある場合、その特定の月における辞退希望の有無・理由(例:株主総会の開催月など)
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※ |
なお、調査票の記載から特定の月の大半に渡って裁判員になることが出来ない事情(=辞退事由)があると認められた場合、当該特定の月に行なわれる事件については裁判員候補者として裁判所に呼ばれることはありません。 |
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■質問票で尋ねられること |
以下の何れかに当てはまる人について、辞退を希望するかどうかが確認されます。 |
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- 重い疾病または傷害により裁判所に出頭することが困難
- 介護または養育が行なわれなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族がいる
- 仕事における重要な用務があって、自らがこれを処理しなければ著しい損害が生じる恐れがある
- 他の期日に行なうことが出来ない社会生活上の重要な用務がある
- 妊娠中または出産の日から8週間を経過していない
- 同居していない親族または親族以外の同居人を介護・養育する必要がある
- 親族または同居人が重い病気や怪我の治療を受けるための入院や通院等に付き添う必要がある
- 妻や娘が出産する場合の入退院への付添い、また出産への立会いの必要がある
- 住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり,裁判所にゆくことが困難である
- その他、裁判員の職務を行なうことなどによって本人または第3者に身体上及び精神上、また経済上の重大な不利益が生ずる
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◆ |
参考:仕事を理由とする裁判員の辞退について |
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裁判員制度は広く国民に参加してもらうことで初めて成り立つ制度であって、当然ながら、法律や政令が定める辞退理由に該当すると認められない限り裁判員になるのを辞退することは出来ません。仕事を理由として辞退が認められるのは、まずはそれが、「その従事する事業における重要な用務であって、自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じる恐れがある」場合です。具体的ケースにおいて仕事を理由とする辞退が認められるか否かは、裁判員候補者の具体的な事情を質問票や質問手続において確認した上で、たとえば以下に挙げるような観点から総合的に判断されることとなります。
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- 裁判員として職務に従事する期間(※期間が長いほど仕事への影響が大きい)
- 事業所の規模(※事業所の規模が小さいほど仕事への影響が大きい)
- 担当職務の代替性(※代替性が低いほど仕事への影響が大きい)
- 予定される仕事の日時を変更できる可能性(※裁判員として職務に従事する予定期間に日時変更の困難な業務がある場合には仕事への影響が大きい)
- その他、仕事の関係で「自己または第3者に経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当な理由があるような場合に該当する時にも辞退が認められます。
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裁判員の仕事と役割 |
■1: |
公判に立ち会う(公開) |
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裁判員に選ばれたら、裁判官と一緒に刑事事件の審理(=公判)に立ち会い、判決まで関与することになります。
公判は出来る限り連続して開かれます。公判では証拠として提出された書類などを取り調べる他、証人や被告人に対する質問が行なわれます。また、裁判員から証人等に質問することも出来ます。 |
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■2: |
評議・評決をする(非公開) |
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証拠を全て調べたら、今度は、それらの証拠に基づいて事実を認定し、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどんな刑にすべきかを量刑まで含めて裁判官と一緒に議論し(=評議)決定する(=評決)ことになります。
評議を尽くしても意見の全員一致の結論が得られなかった場合は、評決は多数決によって行なわれます。ただし、裁判員だけによる意見では、被告人に不利な判断(すなわち、被告人が有罪か無罪かの評決の場面では有罪の判断)をすることは出来ず、有罪であると判断するためには、裁判官・裁判員のそれぞれ1名以上を含む過半数の賛成が必要になります(これによって有罪とならない場合は全て無罪になります)。また、どんな刑にするべきかを決めるに当たっては、評議に参加した裁判官・裁判員のそれぞれ1名以上の意見を含む過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加えてゆきます。
なお、有罪か無罪か、有罪の場合どのような刑にするかについての裁判員の意見は裁判官と同じ扱いになります。すなわち、裁判員の意見は裁判官と同じ重みを持っています。 |
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■3: |
判決宣告(公開) |
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評決内容が決まると、法廷で裁判長が判決の宣告をします。裁判員としての仕事は判決の宣告により終了することになります。 |
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裁判員の権限と義務 |
裁判員の権限 |
有罪判決または無罪判決、もしくは少年事件において保護処分が適当と認める場合の家庭裁判所への移送決定の裁判をするに当たって、事実の認定や法令の適用、刑の量定について、裁判員は裁判官と共に合議体を構成して裁判をする権限を有しています。そして、評決に当たってはその審理を構成する裁判官及び裁判員の両者を含む過半数の賛成を必要とします。
なお、構成裁判官及び裁判員の両者の過半数を得られない場合は、立証責任(=証明責任または挙証責任とも言い、裁判をするに当たって裁判所または裁判官がある事実の有無について確信を抱けない場合に、その事実の有無を前提とする法律効果の発生ないし不発生が認められることによって被るところの、当事者一方の不利益のこと)を有する者に不利な判断が下されたものとして扱う他はないと考えられています。たとえば裁判官3名と裁判員1名が犯罪は成立する、裁判員5名が犯罪は成立しないと判断した場合、犯罪の成否に関する事実については一部の例外を除いて検察官が立証責任を負うので、この場合、犯罪の証明がないとして無罪として扱うこととなるものと考えられ、英米のように評決不能(hung
jury)として裁判をやり直すわけではありません。
ただし、刑の量定について意見が分かれ、構成裁判官及び裁判員の両者を含む過半数が一致しない時は、その合議体の判断は、構成裁判官及び裁判員の両者の意見を含む合議体の員数の過半数になるまで、被告人にとって最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見によるものとします。なお、法令の解釈に係る判断や訴訟手続に関する判断(※ただし、保護処分が適当な場合への家裁への移送決定をなす場合は除く)、その他裁判員の関与する判断以外の判断は裁判官のみの合議によります。もっとも裁判所は、裁判員の関与する判断以外の判断をするための審理以外の審理についても裁判員及び補充裁判員の立会いを許すことが出来、その評議についても裁判員に傍聴を許し、その判断について裁判員の意見を聴くことができます。
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裁判員が負う義務 |
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出廷義務: |
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先にも触れたように、裁判員及び補充裁判員は、公判期日や証人尋問・検証が行なわれる公判準備の場に出廷しなければなりません。正当な理由なく出廷しない場合は10万円以下の罰金が課されることもあるので注意が必要です。また、裁判員は評議に出席し、自らの意見を述べなければなりません。なお、これは評議参加者全員の意見が必要なためで、議論が進む中で、気付いた範囲で自由に個人の意見を述べればよいので、それほど心配することはありません。 |
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守秘義務: |
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裁判員は、評議の経過やそれぞれの裁判官及び裁判員の意見、また、その多少の数(これを評議の秘密と言います)、その他職務上知り得た秘密を漏らしてはいけないことになっています。そして、この義務は裁判終了後も裁判員が自ら生涯に渡って負うことになります。ただし、公判中に話された傍聴人も知り得る事実については話してもよいとされています。また、裁判員の職務を行なった上での一般的な感想などについては守秘義務には触れることはないので他者に話すことは可能だと考えられています。なお、裁判員が評議の秘密や職務上知り得た秘密を漏らした時は6か月以下の懲役また50万円以下の罰金に処されることもあるので注意が必要です。 |
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参考:裁判員の日当など |
補充裁判員を含む裁判員及び裁判員選任手続の期日に出頭した裁判員候補者に対しては、旅費や日当及、宿泊料が支給されることになっています。
旅費は、鉄道賃や船賃、路程賃及び航空賃の4種で、それぞれ裁判員の参加する刑事裁判に関する規則に定められた計算方法によって算定されます。日当は、出頭または職務、またそれらのための旅行に必要な日数に応じて支給され、裁判員及び補充裁判員については1日当たり1万円以内、裁判員選任手続の期日に出頭した裁判員候補者については1日当たり8千円円以内において裁判所が定めるものとされています。宿泊料は、出頭などに必要な夜の日数に応じて支給され、1夜当たり8,700円ないし7,800円と定められています。なお、裁判員の精神的負担や経済的損失を考慮すると日当が少ないとの批判も多く聞かれます。
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裁判員裁判の流れ |
(1)裁判所から裁判員候補者へ呼出状が届く |
裁判員の候補者とは、いわゆる有権者、すなわち衆議院議員の選挙権を持つ人全員で、裁判員になるために特別な資格は必要ありません。従って、日本国籍を持つ20歳以上の方なら誰でも選ばれる可能性があるわけです。もっとも一部の職業的な理由(例:行政機関の幹部職や法曹関係者)や事件の関係者(被告人や被害者の親族など)、その他不公平な裁判をする恐れがあると判断された人は当然ながら裁判員にはなれません。
まずいわゆる有権者の中から向こう1年間の裁判員候補者を籤で無作為に選び出し、「裁判員候補者名簿」が作成されます。そして、事件毎にその中からさらに籤で無作為に候補者が選ばれます。こうして、裁判所から裁判員候補者へ呼出状が送付され、指定の日時に裁判所に出頭することになります。また、呼出状には質問票が添付されていることもあり、それは返送または裁判所へ持参します。なお、呼出を受けたにも拘わらず、正当な理由がなく裁判所へ出頭しない場合には10万円以下の過料に処される場合があります。
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(2)出頭した候補者の中から裁判員が選任される |
いよいよ裁判員の選任が行なわれることになります。選任手続きは、候補者が事件の被害者や被告との間に何らかの関係がないか、不公平な裁判をする恐れはないか、裁判員になることが出来ない事由がないかを裁判官が質問します。理由があって辞退したい場合はその旨を裁判官に申告することになります。裁判官は、裁判員を辞退の出来る事情であるかを判断します。そして、その質問の結果に基づき、検察官や弁護人は、候補者の中から除外されるべき人を指名(※双方共に理由を示さず4人まで)することが出来ます。こうして、これまでの中で除外されなかった候補者の中からその事件の裁判員が選ばれることになります。
もっとも裁判員候補者として呼出を受けても、様々な事情で辞退を望む人も多いと考えられます。しかし、原則的には裁判員を辞退することは認められません。しかし、裁判員法によって定められた理由に該当する場合は例外として裁判員辞退を申告できます(※なお、単に仕事が忙しいという理由での辞退は認められませんが、その方がいないために事業に対して著しい損害が生じる恐れがある場合は辞退を申し出ることが出来ます)。
ちなみに、裁判員法では、「国民がより容易に裁判員として裁判に参加することができるようにすることが不可欠であることにかんがみ、そのために必要な環境の整備に努めなければならない」と明記されています。そのため、たとえば身体にハンデキャップを持った方や高齢者への配慮として、裁判所のバリアフリー化や託児所の設置など様々な環境を整えることも検討されています。
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(3)裁判員が審理に参加し、実際に証拠を見聞きする |
裁判員に選ばれたら、指定の期日に出頭し、裁判官と一緒に(※裁判官3人、裁判員6人)刑事事件の審理に出席します。公判は出来る限り連日行なわれ、集中した審理となります。
なお、裁判員として審理に参加するに当たっては、自分の都合のよい日だけということは認められません。裁判官3人・裁判員6人で審理しなくてはならないので、一人でも欠席すると裁判が行なえないのです。(※なお、裁判員に選ばれた後に重い病気や傷害によって裁判に出席することが困難になった場合とか、介護又は養育が行なわれなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族の介護または養育をする必要が生じた場合、従事している仕事について自ら処理しなければ著しい損害が生じる恐れのある重要な用務が生じた場合、父母の葬式への出席などのような社会生活上の重要な用務であって他の期日に行なうことが出来ないものが生じた場合などについては辞退することが出来るので、直ちに裁判所へ相談を行なう必要があります。)
また、自分が出席することが出来ないからといって家族などの代理人の出席は認められません。裁判所が裁判員の辞任を認めない限り、裁判員は裁判に出席する義務があるのです。正当な理由がないのに裁判所に出頭しない場合は10万円以下の過料の制裁を受けることがあります。なお、裁判員に選ばれると、法令に従って公平誠実にその職務を行なうことを宣誓する義務を負いますので、正当な理由がなくこの宣誓を拒んだ場合にも10万円以下の過料の制裁を受けることがあります。
まず第1回目の公判は検察官の起訴状朗読から始まります。起訴状というのは検察官が刑事裁判を求め裁判所に提出する書類のことを言い、それには検察官が裁判の中で証明しようとする事件の要点などが書かれています。その後、検察官と弁護人がそれぞれに調べてきた事件の概要や経緯を裁判員に説明し(=冒頭陳述)、証拠の取調べが行なわれます。なお、検察官や弁護人の説明や証拠調べは専門的な文言などは極力避けて、法律の知識を持たない裁判員にも分かり安い方法で行なわれることとなります。証拠調べでは証人から直接話しを聞くことが中心となると考えられます。また、裁判員から直接証人や被告人に質問することも出来ます。また、事件によっては、その事件に関してテレビや新聞、雑誌などで多くの情報を見聞きすることも多いでしょうが、そのような情報に惑わされることなく、実際の公判で見聞きした事のみに基づいて判断することが大切です。なお、事件の証拠として事件現場や死体の写真を見なくてはならないことも発生すると考えられますが、それも、どのような事実があったのか(無かったのか)を判断する上で必要とされるものであることを理解する必要があります。そして、このようにして証拠調べが終わると、検察官の意見陳述(論告)、次に弁護人の意見陳述(=弁論)が行なわれ、審理の終了となります。
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(4)議論して判決の内容を決める(=評議・評決) |
公判の審理が終了したら、裁判官と裁判員によって被告人が有罪か無罪(※合理的な疑問を残さない程度の証明が為されたかどうか)か、また、有罪であればどのような刑罰が妥当であるかなどの議論を行なうことになります。なお、評議の際は「推定無罪の原則」という大原則を常に念頭に置いておかなくてはなりません。「推定無罪の原則」とは、「被告人は裁判で合理的な疑問を残さない程度に有罪と立証されるまでは無罪と推定される(=有罪とされない)」ということです。
次に、量刑も含めどのような刑にするかについては、審理中に検察官や弁護人が自ら適正と思うところを主張しますし、審理を一緒に担当する裁判官から必要に応じて同じような事件で過去にどのような刑が科されているのかが分かる資料などが提供されることも考えられます。これらを参考にした上で、裁判員は自分自身の感覚を前提にしてどのような刑にすべきかという判断を行なうことになります。なお、上記のような判断について裁判員は裁判官と原則として対等ですが、控訴手続や法律の解釈に関する問題は裁判官のみが判断することとなります。
なお、評議においては全員一致の評議を目指して議論が行なわれますが、議論を尽くしても全員一致が得られない場合は多数決による評決を行なうことになります。その際、裁判官と裁判員とは同じ1票を持ち、裁判官と裁判員の1票の重みに差はありません。裁判員法では「構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数で決定すること」としているので、たとえば被告人を有罪とする場合、裁判官だけ、または裁判員だけの意見で被告人を有罪とすることは出来ないということになります。
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(5)判決(※裁判員の立会いで裁判長が行なう) |
評決内容が決まると、裁判員の立会いで裁判官によって判決の宣告をします。そして、裁判員の職務は判決宣告と同時に終了となります。その後、裁判官は判決書に宣告した判決内容をまとめます。
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参考2:公判前整理手続とは? |
「公判前整理手続」とは、裁判員制度の導入を睨み、刑事裁判の充実・迅速化を図るため、05年11月の刑事訴訟法の改正で導入されたもので、刑事裁判で公判前に争点を絞り込む手続きを言います(※なお、類似する手続に、公判と公判との間で行なわれる「期日間整理手続」があります)。そして裁判員制度では、対象となる刑事裁判全てがこの手続に付されることになります。
まず裁判官や検察官、弁護人が初公判前に協議し、証拠や争点を絞り込んで審理計画を立てます(※公開・非公開の規定は特にありませんが、慣例として大半が非公開で行なわれています)。そして、検察官は証明予定事実を明らかにし、証拠を開示しますが、一方の弁護人も争点を明示し、自らの証拠を示さなければなりません。また、手続には被告人も出席できます。採用する証拠や証人、公判日程はこの場で決まり、終了後は新たな証拠請求が制限されることになります。そのため、公判前整理手続の終了後は新たな証拠請求が制限されるため、被告人に不利になる恐れもあると懸念されています。
次に初公判では、検察及び弁護側双方が冒頭陳述を行ない、手続の結果を裁判所が説明します。公判は連日開廷が原則で、公判の途中に同様の作業をする期日間整理手続もあります。
既に多くの事件で行なわれています。実際、裁判に要する期間は、公判前整理手続の実施によってかなり短縮されていると言います。
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参考3:区分審理 |
連続殺人事件や無差別大量殺人事件などのように多数の事件を1人の被告人が起こした場合は審理が長期化する恐れがあり、同じ裁判員が長期に渡って審理に携わることは当然ながら困難だろうと考えられまする。そこで裁判所は、いわゆる併合事件(=複数の事件を一括して審理している事件)について、事件を区分して、その区分した事件毎に合議体を設けて、順次これを審理することができるとされています。ただし、犯罪の証明に支障を生じる恐れがある時は被告人の防御に不利益な場合などは区分審理決定を行なうことは出来ないと定められています。なおこの場合、予め2回目以降に行なわれる区分審理審判または併合事件審判に加わる予定の裁判員または補充裁判員である選任予定裁判員を選任することができることになっています。
このようにして区分審理決定が為されると、その区分された事件についての犯罪の成否が判断され、部分判決が為されることになります。そして、部分判決では犯罪の成否のみ判断が下され、量刑については判断を行ないません。ただし、被告を有罪とする場合において、情状事実については部分判決で示すことが出来るとされています。この手続を「区分審理審判」と言います。そして、全ての区分審理審判が終了した後で、区分審理に付されなかった事件の犯罪の成否と併合事件全体の裁判を行ないます。すなわちここの合議体では、残された事件の犯罪の成否と既に為された部分判決に基づいて量刑を決定することになります。なお、この審判を「併合事件審判」と言います。
なお、裁判員はそれぞれ1つの区分審理審判または併合事件審判にしか加わらないので、裁判員を長期に拘束する必要がなくなり、負担軽減につながると考えられています。もっとも裁判官は原則として事件全体に関与するので、裁判員と裁判官の間の情報格差が審理に影響を及ぼすのではないかと懸念する声も一部にはあります。
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参考4:裁判員裁判を行なう裁判所 |
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裁判員裁判を行なう裁判所 |
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裁判員裁判を行なう裁判所は、原則として地方裁判所の本庁で行なうことになっています。ただし、次に掲げる地裁支部においては裁判員裁判を行なうものとされています。
- 福島地方裁判所郡山支部
- 東京地方裁判所立川支部(※09年4月20日設置予定)
- 横浜地方裁判所小田原支部
- 静岡地方裁判所沼津支部
- 静岡地裁浜松支部
- 長野地方裁判所松本支部
- 名古屋地方裁判所岡崎支部
- 大阪地方裁判所堺支部
- 神戸地方裁判所姫路支部
- 福岡地方裁判所|福岡地裁小倉支部
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■参考:裁判員裁判を行なうために使用される裁判所の施設 |
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裁判員候補者待機室: |
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選任手続期日に裁判所に来所した裁判員候補者をまず最初に案内する裁判員候補者の待機室です。当日はまずここで、被告人の名前や事件の概要、どのような罪に問われているのかなどを担当の裁判所職員が説明します。そして、次に当日用の質問票に記入することになります。質問手続が始まるまで、また、質問手続が終了し、その結果が出るまでの間、裁判員候補者にはこの部屋で待たされることになります。 |
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質問手続室: |
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裁判員候補者待機室で当日用の質問票に記入した後は、今度はこの質問手続室で裁判長が質問をします。裁判長は、それまでに裁判員候補者からご提出された質問票に基づいて質問を行ない、辞退が認められるかどうか、不公平な裁判をされる恐れがないかどうかなどを確認します。質問手続には、裁判官3人と書記官の他、検察官と弁護人が立ち会うことになります。なお、裁判員候補者のプライバシーに配慮してこれらは非公開で行なわれます。 |
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裁判員裁判用法廷: |
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質問手続などを経て最終的に選ばれた裁判員は、いよいよ法廷での審理に参加することになります。法廷では検察官と被告人及び弁護人がそれぞれの主張を述べ、それを裏付けるための証人尋問や証拠物件の取調べが行なわれます。また,評議の結果に基づいて最後に判決宣告がされます。なお、裁判員の方々にとって分かりやすい審理となるように、法廷には画像を映し出すためのモニターを設置するなど様々な工夫が施されています。 |
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評議室: |
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法廷で見聞きしたことに基づいて、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどのような刑にすべきかを、裁判員と裁判官がお互いの考えを述べ合って議論する評議室です。最終的な結論が出たら、裁判官が判決を作成し、その内容を全員で確認します。なお,評議は非公開で行なわれます。 |
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参考5:裁判員制度に関する法律 |
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参考6:裁判員制度に対するQ&A |
◆Q1: |
法律などの専門的な知識が無くても裁判員が務まるでしょうか? |
◆A1: |
実際に裁判員に選任されても、「専門的な知識が必要なのでは?」と考える方も多いと思われますが、しかし、裁判員が持つ権限は「犯罪事実などの認定」「認定した事実の法律へ当て嵌める」「有罪の場合における刑の種類と量の決定」の3点で、法律へ当て嵌める前提となる解釈は裁判官が裁判員に説明します。従って、事実の認定や刑の決定に関しては専門的な知識が必要とされるものではありません。必要なのは、裁判員に選任された1人ひとりの様々な知識や社会経験が判断に反映されることです。そのため、法律に関しての専門知識を持っていなくても、裁判員として充分に職務を行うことは出来るのです。 |
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◆Q2: |
裁判員になって仕事を休んだことを理由に雇用先から解雇される心配はないのでしょうか? |
◆A2: |
現行では初公判から結審まで数年かかることもありますが、裁判員制度での集中審理に対応するために、裁判官・検察官・弁護人は前もって公判前手続きを行ない、検察官の手元の証拠を開示した上で、どの点がポイントになるのかを整理して審理がスムーズに運ぶよう予定を立てます。実際には、犯罪事実に食い違いなどがない場合は1日で終わることもありますが、争いがある場合は2日間以上かかることもあるでしょう。刑事訴訟法の改正により、審理が2日間以上かかるような場合には出来るだけ連日の開廷にて審理を行わなければいけないこととなりました。そして、裁判員が参加する事件に関しては、前にも述べた通り「公判前手続」において争点や証拠を整理し、連日の公判に向けての準備をすることになっているので、裁判員の参加による事件では、事実関係に争いのある事件でも数日で審理が終わることも多いと見込まれています。なお、諸外国では裁判が終わるまで自宅には帰れないとしている国もあるようですが、日本においての裁判員制度ではそのようなことはありません。また、審理に参加することで、裁判員はその間は職場を離れることとなりますが、「そのことを理由に勤務先から解雇されるのでは?」という心配もあるでしょう。しかし、労働基準法に「公の職務を執行するために必要な時間を請求したときには、使用者はこれを拒んではならない」と明記されており、当然ながら裁判員も公の職務に当たるので、そのことを理由に解雇されることはありません。また、裁判員法でも「労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことなどを理由として労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない」ことが明記してあります。裁判員に選任されたことについては裁判所から勤務先に連絡されるものではありませんので、自分で裁判所からの呼出状を見せるなどして
勤務先へ告知する必要があります。 |
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◆Q3: |
裁判の迅速化はよいことだとしても、そのために却って誤審につながる危険性はないのでしょうか? |
◆A3: |
刑事裁判は確かに人権に深く関わるものであり、社会の安定を図るためにも不可欠なものなので、当然ながら適正かつ迅速に行なわなければなりません。そのため、裁判員の参加する裁判でも他の刑事裁判と同様に充実した審理を迅速に行なうことが要請されます。そこで、裁判員の参加する裁判では、全ての事件で「公判前整理手続」を行ない、充実した公判を迅速に行なうための準備をすることになっています。先にも説明したように公判前整理手続では、その事件の争点は何か、その争点を証明するために最も適切な証拠は何か、その証拠をどのような方法で取り調べることが最も分かりやすいかなどについて、裁判所と検察官、弁護人が相談します。その上で審理を行なう日程を調整し、判決までのスケジュールを立てることになっています。こうした準備を充分にした上で審理を行なうので、裁判員として裁判に参加する方々にも審理の内容をよく理解してもらえるだろうと裁判所では判断しています。評議に必要な時間は充分確保されるので、裁判員は議論を充分に尽くした上で判断することが出来ると考えられています。 |
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参考7:裁判員制度に関する案内図書類 |
◆参考図書類1:裁判所制作の裁判員制度広報用パンフレット |
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◆参考図書類2:日弁連制作の裁判員マンガ〜裁判員になりました〜 |
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◆参考図書類3:裁判所作成の裁判員制度広報用映画 |
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裁判所作成の裁判員制度広報用映画案内ページ |
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酒井法子主演『審理』他、映画『裁判員〜選ばれ、そして見えてきたもの〜』や『評議』、アニメーション『ぼくらの裁判員物語』他数編 |
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『審理』はもちろんその他の短編映画・アニメーション等も皆中々に見所のある内容で、パソコンでも見ることが出来ますので、興味のある方は是非ご覧になることをオススメします。 |
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