【1】新たないじめの場〜ネットいじめの実態と種類〜 |
非公式のインターネット掲示板である学校裏サイトや、自己紹介などが目的の携帯電話用サイト・プロフでの書き込みなどにまつわるネットいじめをめぐって、子どもたちが自殺や暴力事件といった様々なトラブルに巻き込まれるケースが昨今増えています。実際、学校裏サイトやプロフなどでのネットいじめは増加傾向にあるようで、たとえば文科省の平成19年度全国調査では、ネットいじめは前年度よりも約1,000件増の約5,900件が確認され、それはいじめ全体の約6%を占めていると言います。子どもたちはどうやらインターネットという新たないじめの場を見つけたようです。
本項では、それらネットいじめの特徴や種類、また諸外国時での実態などにつき、以下で取り上げ解説しました。
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ネットいじめとは?〜通常のいじめとの違い〜 |
インターネット上におけるいじめを「ネットいじめ」または「サイバーいじめ(Cyber-bullying)」と言い、過激かつ陰湿なものは「サイバー・リンチ」とか「ネットリンチ」とも呼ばれています。それらは、ウェブサイトやオンライン、或は電子メールや携帯電話などの場で行なわれるいじめで、要するに「インターネットを使った意図的かつ攻撃的な言動で他人を傷つける行為」のことを言います。そして、インターネットという性格上、そのいじめがネットワークを通して全世界にいじめが広がる可能性が識者によって指摘されています。その証拠に近年、世界中でネットいじめが発生して問題になっており、たとえばインターネットの法規制やフィルタリング規制に発展する国や自治体も出てきている状況です。
ネットいじめはいわゆる匿名性があるため、通常のいじめのように相手との物理的な力関係が軽視され、その意味が薄れる傾向が指摘されます。また、ネットは監視に欠け、現実の世界以上にいじめが横行しやすい側面もあります。さらに直接的な対面がないため、相手の気持ちが通常のいじめ以上に分かりにくいという特性も持っています。さらにネットいじめは、一度これが広まると、リアルの交友範囲から離れた他学校の生徒などにも広がる傾向があって問題を深刻化させています。たとえば悪質なケースでは、相手をを誹謗中傷するだけでなく、標的を特定して個人情報をネット上のあちらこちらにばらまき、さらにはネットの世界を飛び出して自宅や職場に直接嫌がらせをする場合まであると言います。なお、ネットいじめは通常のいじめよりも第3者に発覚し難いため、ネットいじめの被害者が突発的に自殺などしてしまった場合、何が原因で彼が自殺したのか遺族等には皆目見当もつかなくなるという危険性が高いことも問題だと言われています。
また、特にネットいじめは中傷等が目に見える形でネット上に記録されてしまうために、いじめ被害者が癒されずに苦しみ続けるという性質を持っていることはネットいじめの特徴的な傾向だと言ってよいでしょう。 特にウィキペディアなどに代表されるようなウィキを使用しているサイトや2ちゃんねるのような掲示板サイトなどは記録を半永久に保存し続けるというシステムを採用しており、管理者であるシステムオペレーターが該当する投稿を削除しない限り、中傷等の記録(ログ)がいつまでも残ってしまうため、それがネットいじめの温床になっているのす。
要するに、これが学校や職場における通常のいじめならば、登校拒否や長期欠席をしたり、或は転校や転職をしたりすることによって、まだしも直接的ないじめの被害から逃れることも可能でしょうが、ネットいじめの場合は、インターネットがこの世に存在し続ける限り、残念ながらそのような退避手段が存在していないわけです。また、検索エンジンで個人名での検索結果にネットいじめが表われるような場合、転校先でもいじめに遭ってしまったり、或は転職活動で不利になったりするというようなケースも存在します(※最近では、採用側が応募者の氏名で検索して、応募者がどのような人物であるか確かめようとする場合もあると言います)。特に日本の場合は改名が簡単ではないため、一度実名がインターネット上に流出すると、いじめの被害者がそれによって長年苦しむことになりかねないのです。
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ネットいじめの特徴 |
いわゆるネットいじめとは、要するに「インターネット上のいじめ」のことで、それは、携帯電話やパソコンを通じてインターネット上のウェブサイトの掲示版などに特定の子どもの悪口や誹謗中傷を書き込んだり、或はメールを送ったりするなどの方法によっていじめを行なうものですが、それらネットいじめには、大体次のような特徴があると指摘されています。
■ネットいじめの特徴 |
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不特定多数の者から絶え間なく誹謗中傷が行なわれ、被害が短期間で極めて深刻なものとなる。 |
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インターネットの持つ匿名性から安易に誹謗・中傷の書き込みが行なわれるため、子どもが簡単に被害者にも一方で加害者にもなる。 |
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インターネット上に掲載された個人情報や画像は、情報の加工が容易に出来ることから誹謗中傷の対象として悪用されやすい。また、インターネット上に一度流出した個人情報は、回収することが困難となると共に不特定多数の他者からアクセスされる危険性がある。 |
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保護者や教師などの身近な大人が子どもの携帯電話等の利用の状況を把握することが難しい。また、子どもの利用している掲示板などを詳細に確認することが困難なため、ネットいじめの実態の把握が難しい。 |
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なお、このようなネットいじめについても、他のいじめと同様決して許されるものではなく、学校においても、ネットいじめの特徴を理解した上で、ネットいじめの早期発見&対応に向けた取組を行なってゆく必要があることは論を俟ちません。 |
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ネットいじめの類型と種類 |
ネットいじめには様々なものがありますが、手段や内容に着目して、これを次のようにり類型化することが出来ます。なお、実際のネットいじめは、これらに分類したそれぞれの要素を複合的に含んでいる場合も多くあります。
■1):掲示板やブログ、プロフでのネットいじめ |
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掲示板・ブログ・プロフへの誹謗中傷の書き込みをする |
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インターネット上の掲示板やブログ、プロフ(=プロフィールサイト)に、特定の子どもの誹謗中傷を書き込み、いじめに繋がっている場合もあります。 |
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掲示板やブログ、プロフへ個人情報を無断で掲載する |
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掲示板やブログ、プロフに本人に無断で実名など個人が特定出来る表現を用いて、その個人の電話番号や写真等の個人情報が掲載され、そのために当該個人に迷惑メールが届くようになったりするケースがあります。また、個人情報に加えて容姿や性格等を誹謗中傷する書き込みをされて、そのためにクラス全体から無視されるなどのいじめに繋がったりしたケースもあります。 |
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特定の子どもになりすましてインターネット上で活動を行なう |
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特定の子どもになりすまして無断でプロフなどを作成し、その特定の子どもの電話番号やメールアドレスなどの個人情報を掲載した上、「暇だから電話して」などと勝手に書き込みをしたことによって、個人情報を掲載された児童生徒に他人から電話がかかって来るなどの被害が生じます。 |
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■2)メールでのネットいじめ |
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メールで特定の子どもに対して誹謗中傷を行なう |
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誹謗中傷のメールを繰り返し特定の子どもに送信するなどしていじめを行なうケースがあります。なお、インターネット上から無料で複数のメールアドレスを取得できるため(サブアドレス)、誰からメールを送信されているのか、いじめられている子どもには分からないこともあります。 |
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チェーンメールで悪口や誹謗中傷の内容を送信する |
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特定の子どもを誹謗中傷する内容のメールを作成し、「複数の人物に対して送信するように促すメール(チェーンメール)」を同一学校の複数の生徒に送信することで、当該生徒への誹謗中傷が学校全体に広まるようなケースがあります。 |
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なりすましメールで誹謗中傷などを行なう |
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第3者になりすまして送られてくるメールのことを一般に「なりすましメール」と呼びます。なりすましメールは子どもたちでも簡単に送信することができるため、クラスの多くの子どもになりすまして「死ね、キモイ(気持ち悪い)」などの嫌がらせメールを特定の子どもに何10通も送信した事例などもあります。 |
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■3)その他 |
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口こみサイトやオンラインゲーム上のチャットでの誹謗中傷の書き込みの事例などがあります。また、最近の事例ではSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用して誹謗中傷の書き込みを行なうことが増加してきています。ネットいじめは、インターネットの使い方の変化や新しいシステムやサービスなどの出現などによって新たな形態のいじめが生じることが考えられます。 |
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ミーンガール症候群〜日本以外の国におけるネットいじめの現状〜 |
ミーンガール症候群とネットいじめ |
アメリカには「ミーンガール (※意地の悪い女子の意) 症候群」という言葉があるそうです。これは、残虐性を孕んだ少女が、「格好良くない」「可愛過ぎる」「賢い」と見なしたり、或は何らかの不快感の捌け口にしようと目をつけた少年や少女に対し、相手を苦しめたり恐怖心を煽ったりイジメたりといった行為を繰り返す状態を指しています。そして、こうした振る舞いのはたやすくWeb
上に場を移すもので、ある調査によると、インターネットを使用するティーンエイジの32%はオンラインで迷惑行為の対象になったことがあると言います。具体的な内容としては、脅迫めいたメッセージを受け取ったり、個人的な
Eメールやテキスト・メッセージが当事者の同意なしに転送されてしまったり、当惑するような写真が許可なく掲載されているのを見たり、或はオンライン上に自分に関する噂が広まった、などというものです。なおその調査では、アメリカでも、ネットいじめで最も一般的な形態は、個人的と思われる情報を使ってネット上で攻撃することだということが明らかになりました。
もちろんミーンガール症候群の子どもたちがネットいじめの首謀者なのか否か軽々しくは断じることは出来ませんが、しかし、ミーンガール症候群がWeb
上でも顕在化していることを示す経験的証拠が多く見つかったことも事実のようです。ちなみに、その調査によると、少女は少年よりも攻撃対象になりやすく、また、自分の個性や考えをオンライン上で開示しているティーンエイジは、オンライン上の活動に積極的ではないティーンエイジよりも攻撃対象になりやすいなどの傾向があると言います。
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アメリカ〜ネットいじめが日常化する米国のティーンエージャー〜 |
アメリカ合衆国では、疾病対策センター(CDC) が若年層(10〜17歳)がネットいじめを受けているケースが急増しているという調査結果を07年に発表しました。また、ちょっと古いデータですが、バーモント州では03年に13歳の少年が数ヶ月に渡って校内とオンラインの両方で「同性愛」と嘲られて自殺した事件があって、それがキッカケとなって、ネットいじめに対する州内での取り組みが盛んとなったと言います。
また、ごく最近では、多くのティーンエージャーがネットでのいじめを経験している実態が最近UCLAのの心理学教授らによる調査で明らかになりました。それによると、米国のティーンエージャー(12〜17歳)の4人に3人が過去12カ月間で少なくとも1度はネットでのいじめを体験しており、その中で親や教師などにその事実を相談しているのは10人中1人だけだと言います。調査によると、ネットでいじめを経験した子どものうち85%は学校でもいじめに遭っていたと言いますし、また、学校でいじめに遭っている場合ネットでもいじめに遭う確率もかなり高かったと言います。そしてアメリカでも、インターネットは子どもたちの学校での友だち付き合いと切り離せないし、その意味でネットでのいじめは学校でのいじめとよく似ていると言います。
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イギリス |
イギリス政府が実施した調査によると、英国の12歳から15歳の34%は何らかのネットいじめを経験したことがあると言います。そのため、07年9月には、その実態に対処するため「ネットいじめ防止キャンペーン」を英政府が立ち上げたと報じられました。
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韓国 |
世界でも早い時期に高速インターネット環境を整えた韓国では、既に国民の重要なインフラとしてインターネットが日常的に利用されていますが、当然ながらそのデメリットとしてネットいじめの問題の根も深く、政治問題に近い様相を呈しており、一部では「サイバー暴力」とも呼ばれています。特にネットいじめを象徴する最初の事件が起きたのは05年で、これはソウル地下鉄で飼い犬の糞を始末せずに下車した女性の行為が発端として、その後お年寄りが始末するまでの顛末を撮影したとされる動画がネット上に公開され、直ぐに実名など個人情報が突き止められて、女性のHPに非難の書き込みが殺到したと言います。また、それと同じ頃にある大手企業勤務の男性が標的にされた事件も起き、07年初めには人気歌手や女優が相次いで自殺したことの背景にこのようなしつこい中傷の書き込みも取り沙汰されました。そんな中で意識改善の試みもあり、悪質な書き込み「アクプル(=悪と英語のリプライを合わせた造語)」の被害を訴え、「ソン(善)プル」を増やそうという運動が国民的俳優アン・ソンギ氏などの連名で若者を中心にモラル向上を呼びかけていると言います。
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参考1:大人のネットいじめ〜もはや子どもの世界だけの話じゃない!?〜 |
10代の約3分の1がネットいじめを受けたことがあると言います。ネットいじめに遭ったという子どもの割合にも驚かされますが、そもそもネットいじめとはどういうものかと言うと、それはインターネットを使った意図的かつ攻撃的な言動で他人を傷つける行為のことで、具体的に言うと、メールやチャットでの誹謗中傷、掲示板などで特定の人の悪口を書く行為のことを言います。最近は携帯電話のカメラで撮った恥ずかしい写真や暴行中の動画がネットで流されるケースもあります。また、たとえば暗証番号で鍵をかけた学校裏掲示板などでいじめの予告や打ち合せを行なうケースもあると言います。このように、加害者の匿名性と、時間や場所に関係なく手軽にいじめが出来る点がネットいじめの大きな特徴だと言ってよいでしょう。
しかも、ネットいじめは何も子どもたちだけのものではないのです。現実には大人の世界でも実はネットいじめが起きているというのです。大人の場合は、不特定多数が見る大型掲示板に企業別のスレッドを立てて、個人情報を書き込んで中傷するケースが多いと言われます。また、仕事中にチャットで特定個人の陰口をみんなで言い合ったり、上司が部下の失敗談を社内の一斉メールで送信するケースもあると言います。また、それ以外に、たとえば上司からの連絡メールが何故か来ない人がいるとか、職場の裏サイトに悪口や中傷がたくさん書いてあって、そのプリントアウトを読むかと言われて断わったところ、職場で様々な嫌な目に遭ったなどと言う体験談もあると言います。何れにせよ、職場でのいじめは、上司がその権限や権力を持って行なうパワーハラスメントが一般的ですが、そのネット版もあるということなのでしょう。
こういったいじめは何も職場だけに限られたものではありません。とにかく、ネットいじめの実態は私たちの想像以上に根深いものがあるのかも知れません。
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参考2:関連用語解説 |
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学校裏サイト: |
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ある特定の学校の話題のみを扱う非公式の匿名掲示板。全国規模の他、学校別や学年別のものもある。在校生や卒業生が立ち上げたものがその大半を占める。(※なお、学校裏サイトに関してさらに詳しいことは「【2】学校裏サイトとプロフ〜ネットいじめの温床」をご参照下さい。) |
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(電子)掲示板: |
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参加者が自由に文章等を投稿することでコミュニケーションを行なうことが出来るウェブサイトで、BBSとも言う。掲示板の管理者がテーマ等を設定し、その内容に沿った書き込みをするものが多い。学校裏サイトもこれら掲示板のひとつ。 |
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プロフ: |
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プロフィールの略で、携帯やパソコンを使って簡単に自己紹介ができるサイト。氏名や連絡先だけではなく、写真を添付し、趣味など詳しい個人情報を掲載するのが一般的。 |
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ブログ: |
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ウェブログの略で、個人や数人のグループで管理運営され、日記のように更新されるウェブサイト。携帯やパソコンから作成できるWEB上の日記のようなもので、その多くにコメント機能があり、不特定多数の者が見たりコメントを書き込んだりすることが出来る。事業者(プロバイダ)が行なっている無料のプロフィール作成用サービスを利用すれば、小・中学生でも簡単に作成することが出来る。なお、携帯電話等を使用して更新するブログは「モブログ(モバイル・ブログの略)」と呼ばれている。 |
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SNS: |
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ソーシャルネットワーキングサービスの略。コミュニティ型の会員制のウェブサイトのこと。既存の会員からの招待がないと会員になれないという形式をとっているものも多く、会員になると自由に書き込みを行なうことが出来、会員以外は閲覧不可になっているものが大半を占める。 |
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口こみサイト: |
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インターネット上で様々な物事の評判を情報交換のためのウェブサイトのこと。利用者が自由に書き込むことができる。 |
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チェーンメール: |
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届いたメールをそのまま複数の人に転送するよう求めるメールのこと。かつて「不幸の手紙」と言われたものの携帯メール版。 |
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なりすましメール: |
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自分のアドレスからではなく、他人のメールアドレスを使って他人になりすまして送るメールのこと。 |
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チャット: |
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掲示板(BBS)などと同様にコンピュータネットワーク上のコミュニケーション手段のひとつで、複数の人がネットワーク上に用意された場所に参加してテキストを入力してリアルタイムに他愛ない会話(雑談)を行なうシステム。なお、インスタントメッセンジャー(IM)など、ある種のソフトを用いて、多くは1対1で会話を行なうシステムもある。 |
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オンラインゲーム: |
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コンピュータネットワークを利用して、別々の場所にいてもオンライン上で同時に同じゲームを行なうことができるサービス。なお、ゲームだけではなくチャット等による書き込みを行なうことでコミュニケーションを行なうことが出来る。 |
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【2】学校裏サイトとプロフ〜ネットいじめの温床〜 |
ネットいじめの温床であると言われる学校裏サイト、そして子どもたちの個人情報が安易に晒されるプロフ。本項では、その学校裏サイトやプロフについて簡単ながら以下で取り上げ解説しました。
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学校裏サイトとは? |
学校裏サイトとは、ある特定の学校の話題のみを扱う非公式の匿名掲示板で、別名「学校勝手サイト」とも呼ばれます。その殆どが部外者が入れないようパスワードを設定されていたり、携帯電話からのアクセスしか出来ない、或は学校名で検索してもヒットしないようになっており、そのため、検索エンジンなどで探し出すのは容易ではありません。08年3月に文部科学省が発表した「青少年が利用する学校非公式サイトに関する調査報告書」では38,260サイトが確認されたと言います。
そして、こうした匿名掲示板には、実名を挙げての誹謗中傷や猥褻画像が大量に書き込まれています。このうち誹謗中傷については、在校生などが標的になるだけでなく、在校生の保護者に関するデマがサイト内で流されて最終的に被害者が転校を余儀無くされるといったケースもあると言います。またそれ以外に、イニシャルや伏字などでの誹謗中傷が行なわれることもあるため、特定の個人ではなく該当のイニシャルを持つ全員が被害に遭うことも考えられます。また、時には児童・生徒以外にも、いわゆるモンスターペアレントなどが批判・攻撃目的で学校裏サイトに書き込むケースもあると言われます。
ちなみに、学校裏サイトの存在が初めて取り上げられたのは07年1月のことで、プロフとともに裏サイトの危険性が識者によって警告され始めたことがキッカケだと言いす。そして、その約3ヵ月後に大阪府警がある中学校の学校裏サイトの管理者を書類送検したことで、各メディアで社会問題として学校裏サイトが徐々に取り上げられるようになりました。また、その年の9月には神戸市須磨区の私立高校のいじめ自殺事件で、被害者の男子生徒に対して誹謗中傷や脅迫紛いの文章を裏サイトに書き込まれていたことがセンセーショナルに取り上げられて、以後いじめ関連の報道の中で学校裏サイトが頻繁に取り上げられるようになってゆきました。なお、上記の事例でも分かるように、学校裏サイトは決して完全な匿名ではなく、警察などの機関が動けば個人の特定は不可能ではありませんし、当然民事上の責任を科される場合もあります。また、この事件でも明らかになったように、学校裏サイトの開設者は現役の在校生に限られるわけではなく、学校の卒業者や保護者、或はそれ以外の第3者による場合もあるのです。
なお、ブラウザ機能付き携帯電話を子どもが持つことが一般的ではない日本以外の国ではこうした匿名掲示板の問題は顕在化していないと言われます。また、携帯電話からの書き込みに関しては携帯電話会社が問い合わせに応じないため、加害者が中々特定されにくいという問題もあります。そのため、携帯電話から利用できる学校裏サイトはいわゆる無法状態になる傾向が強いのです。
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中・高校生たちにとってのプロフとは? |
学校裏サイトと並んで、中・高校生たちが当たり前に知っている・作っている・閲覧している携帯サイトに「プロフ」と呼ばれるものがあります。主に女子中・高生が発信するもので、自分のプロフィールを携帯サイト上で公開しているものを一般にプロフ言います。それは、まず顔写真に始まり、名前や年齢はもちろん、大まかな住所や趣味嗜好も、そのプルフィール・サイトに用意されている質問事項をびっしりと埋めることで自分のデータを一般に開示してゆくのです。子どもたちは、そうして出来上がった自分のプロフを、携帯電話の赤外線通信機能を使って、名刺交換するように友だち同士で交換しているのです。
個人情報を発信することの危険性が叫ばれる中にあって、このように自らデータを開示してゆく子どもたちがたくさん存在しています。その証拠に、PCでも「プロフ」をキーワードにWeb検索してみると、直ぐに色々な携帯プロフィール・サイトにたどりつくことが出来るでしょう。
本人になりすまして援助交際を求める書き込みをされたり、作り上げられた性癖を書き込まれたりするといったようなひどいいじめにプロフが使われたこともあるのも事実で、彼女たちの文化を全て否定するつもりは毛頭はありませんが、何らかの機会に一度、プロフには一体どのような危険性があるのかを親御さんといっしょに考える機会があればよいと思います。
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学校裏サイトへの対策とその難しさ |
現在の法制度では、学校裏サイトに代表されるこうした匿名掲示板の開設者を刑事的に処罰することは出来ず、決定的な対策は存在していません。それにも拘わらず、ブラウザ機能付き携帯電話を安易に子どもに与えている日本の現状がネットいじめをを横行させる最大の原因であると言ってよいでしょう。従ってその対策としては、フィルタリング機能の充実やブラウザ機能付き携帯電話を子どもに与えることのリスクの周知(※ペアレンタルロックはアダルトサイトや出会い系サイトなど成年者対象サイトにしか有効ではありません)や、或はインターネット・リテラシー教育などの対策を組み合わせてゆくしかないでしょう。
学校裏サイト対策の難しさとしては、たとえば携帯電話からの書き込みは、書き込む度にホスト名やIPアドレスが間に介在するプロキシサーバーによって変化するため特定されにくいという要因も指摘されています。また、携帯電話の個別識別情報についても個人情報の範疇に該当する可能性があるため、掲示板サービスを利用している管理者が直接その番号を知ることが出来るケースは殆どなく、実質的には携帯電話からの子どもたちによる書き込みを制止するための手段は現状では存在していません。
さらに、現時点でのインターネットに関する法規制は「プロバイダ責任制限法」以外にないことから、被害者の対応は非常に限られたものとなっていると言わざるを得ません。また、海外のホスティングプロバイダを使った場合は日本の法令が適用されないケースもあることから、違法性の高い掲示板を海外のサーバーに置くことにより管理人の責任を免れようとする者も多く、管理人が誰なのかすら判明しないこともあります。さらに、検索エンジンに対する規制も存在しないことから、検索結果に表示される内容についても、検索エンジン運営会社に対応を求めることは難しいと言ってよいでしょう。なお、YAHOO!を始めとする検索エンジン運営会社の多くは、検索結果に表示される内容についての削除依頼は、依頼内容の正当性や削除権限の有無を確かめることが出来ないとして削除依頼自体を受け付けていない会社も多いのが現状なのです。
その上、管理者#管理人が管理自体を放棄しているケースでは、削除を求めることも困難です。たとえば2ちゃんねる(2ch)などのように管理が放棄されている比較的規模の大きい掲示板において検索エンジンで実名での誹謗中傷が検索出来るケースでは、上でも指摘したように、場合によっては何10年という将来に渡って被害を受け続けることも想定されるわけです。なお、管理者が削除依頼を掲載することも多々あり、削除を依頼するという行為自体が被害を拡大させるケースもあります(たとえば生徒や児童が個人で開設した裏サイトでは、こうしたサイトで誹謗中傷を見つけた教師が安易に削除依頼をして、その仕返しに教師が「お前の奥さん浮気してるぞ」などの事実無根の中傷記事を書き連ねられるなどの嫌がらせを受けて、結果的に休職や退職に追い込まれるようなことすらあると言うのです)。そのため、掲示板サービスを運営する業者については、管理人が削除しない場合には代理で削除するべきではないかという議論も一部では行なわれていますが、利用者自身のプログラムを使って構築した掲示板サイトの場合は、運営するホスティングプロバイダでさえ特定の書き込みのみを削除をすることは技術的に難しいものがあります。従って、投稿を削除する場合はホスティングの利用を停止させるという方法以外に取り得ないと言えるわけです。また、利用者が独自ドメインを使用している場合は、仮に特定のホスティングプロバイダが契約を解除しても、利用者がまた新たなホスティングプロバイダと契約すれば引き続き以前と全く同じ状態でサイトを公開できるため、その実効性の高さには疑問が付いて回わらざるを得ないと言ってよいでしょう。
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参考3:学校裏サイトに関しての参考図書 |
◆参考図書1:学校裏サイトについての参考文献 |
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下田博次・著
(群馬大学社会情報学部大学院研究科教授) |
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『学校裏サイト』 |
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東洋経済新報社・08年3月刊、¥1,575 |
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