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日本の安全保障
日本の安全と日米安保体制
新しい脅威〜「更新された脅威」と「新顔の脅威」〜
新しい脅威と日本を取り巻く状況〜北朝鮮と中国を中心に〜
新しい脅威と日本の安全保障政策の複線化

 世界的規模の冷戦は終わって既に久しいが、日本周辺には朝鮮半島や台湾海峡に見るように、冷戦以来の緊張因が現存しています。しかも、そこからの脅威は核・ミサイル、新しい海洋戦力として「更新」されています。他方、日本は国際テロ・大量破壊兵器拡散・失敗国家といった全地球的な「新顔」の脅威にも直面しています。我が国の安全保障政策はこのふたつの「新しい脅威」を直視して「国防」と「海外任務」という複線型を取らなければならない時代を迎えていると言えます。

 北朝鮮のミサイル連射事件があって間もないこの時期に、このような「更新された脅威」と「新顔の脅威」という観点から日本の安全保障の問題を考えて見ました。
スカッドミサイル発射機
日本の安全と日米安保体制

 日本の安全保障政策について考察するに先立って、まず本項では日米安保条約の変遷について概括的に解説しました。
概観:日米安全保障条約の歴史

日米安保体制は、その時期から大きく3つに分けらことが出来ます。


日米安全保障条約体制の歴史
□1 旧安保条約時代(1951〜60):
 只単にアメリカ軍の日本駐留を許したのみで、アメリカの日本防衛義務は疑問符

□2 新安保条約時代(1960〜91):
 アメリカの日本防衛義務を明確化、日米共同防衛体制に。70年代からは日本の防衛担額も増大
  1. 国民の反対と安保闘争:国民が大きく安保体制に反対し、2度の激しい安保闘争が起きた
  2. 安保体制の定着:1970年代後半に日米ガイドラインがつくられ、安保体制が定着

□3 ポスト冷戦後の安保体制(1991〜現代):
 冷戦終結後、安保体制を見直しと再定義
 対ソ連防衛体制から、地域紛争や「テロとの戦い」に対する日米共同行動の強化へ


従来の日米安保体制〜東西冷戦下の安保体制〜


  1. 旧安保条約時代

     第二次大戦においてアメリカはたくさんの犠牲を払って日本の占領の主導権をもぎ取ったわけですから、戦後アメリカは、「このまま日本をアメリカ側陣営につかせてソ連など共産主義国家から日本を守っておきたい」と当然のように考えるようになりました。また、1950年に激しい朝鮮戦争が起こった朝鮮半島や共産化された中国・ソ連の国土などに極めて近い位置にある日本は、アメリカ陣営にとっては当然軍事的にも重要な拠点で、アメリカは日本でいつでも自由に軍事的な行動が取れるようにしておきたかったわけです。そこでアメリカは、占領後も引き続き軍隊を日本に駐留させることが出来るよう日米安全保障条約を締結して日本への軍事的影響力を残すことにしたのです。

     そして日本側、特に当時の総理大臣であった吉田茂首相にも、こんな思惑がありました。つまり、「この冷戦構造の中で日本が軍事的に何か事を起こすのは無理だ。日本は経済大国として発展する道を選ぶ。日本の復興そして経済発展を実現するには出来るだけ軽武装で、軍事費に余りお金をかけないことが重要だ」というわけです。この吉田茂の考えを吉田ドクトリンといいます。そんな日本=吉田政権にとっては、アメリカ軍の日本駐留は渡りに船だったのです。アメリカ軍がいれば、それが侵略への抑止力となり、日本は軽武装で国を守れる、というわけです。こうして1951年、サンフランシスコ平和条約締結の1時間後に、日米安全保障条約が日米両国の間で締結されることになったのです。


  2. 新安保条約時代

     第2次世界大戦直後、日本を占領していた中心であったアメリカは、上にも述べたように日本を非武装化して軍事的に無力な存在にしようとしていました。しかし、事情が変わりました。東西冷戦が始まったのです。ご存知の通り、これはアメリカとソ連という超大国による全世界の覇権争いです。
     1970年代、経済成長を遂げた日本に対して、アメリカは当然のことながら防衛費用や防衛分担の増大を日本に要求するようになります。要するに、「日本はアメリカとの安保体制によって経済力をつけて経済大国になったが、その一方でアメリカの経済力は弱まっている。だから、日本はいつまでもアメリカの軍事力にただ乗りしないで、もっと自分から防衛に力を入れよ」というわけです。

     そこで、日本はその要求に応じて、次のようなことを実行しました。

    ・在日米軍の駐留費用の肩代わり(いわゆる思いやり予算)
    ・日本の防衛力の増強(防衛費用は70年代から90年代までで3兆円も増加)
    ・日米ガイドラインの締結
    ※最後の日米ガイドラインは、正確には「日米防衛協力のための指針」と言われるもので、「日本がここまで日米防衛の分担をしますよ」ということを定めたものです。

     なお、この時代はさらに細かく次の2つの時代に分けることも出来ます。

    1. 国民の反対と安保闘争:国民が大きく安保体制に反対し、2度の激しい安保闘争が起きた
    2. 安保体制の定着:1970年代後半に日米ガイドラインがつくられ、安保体制が定着

今後の安保体制〜ポスト冷戦後の安保体制〜

 上記で見てきたように、このようにして日米共同防衛を軸とする日米安保条約は定着していったのでした。しかし1991年、日米安全保障条約の前提であった東西冷戦構造は崩壊します。それでは、日米安保体制は一体どうなっていったのでしょう? 


  1. 冷戦構造の終結:日米安保条約への「疑問」が浮上

     1990年代始めに冷戦構造はなくなったものの、依然として日本周辺は紛争の種があちこちに残っています。最近の北朝鮮の問題はもちろん、中国と台湾の問題や南シナ海の覇権をめぐる問題、その他各地で頻発するかも知れない日本周辺の地域紛争問題などです。

     「ソ2極構造の冷戦構造の下でつくり出した安保体制はこういう細かな状況に対応出来るのか?」という疑問が各方面から出始めました。「日米二国間安保から、もっと他国的な安保体制へ移行しよう」という意見も出されるようになりました。
     それと同時に、国内においては、沖縄では米軍基地が集中していることに対する抗議運動が次第に盛り上がって来ていました。「冷戦が終わったのだから、沖縄に基地を返せ」というわけです。そしてこの動きは、1995年のアメリカ軍兵士による少女暴行事件でピークを迎えます。当時の太田沖縄県知事が土地を基地に提供する署名を拒否する事態にまで発展したのはまだ記憶に新しいでしょう。沖縄だけではありません。本土でも「安保体制はこのままでいいのか?」という声が上がってきました。


  2. ポスト冷戦を踏まえて行なわれた日米安保体制の「再定義」

     そんな中、それでも日米両政府は「安保体制=日米同盟は維持しなければならない」と考えていました。そこで安保の「再定義」を行なうことになったのです。

     日米安保の再定義は、1996年、東京での橋本首相=クリントン大統領の首脳会談で出された共同宣言で示されました(日米安全保障共同宣言)。それによると、「日米安保体制の21世紀の役割は日本の防衛と『アジア・大平洋地域の安定維持』のための基礎であり、そのために日米の防衛協力は欠かせない」――このようなことが宣言され、日米安保体制のさらなる発展が謳われたのです。

     これをきっかけに、日米防衛協力の強化がさらに図られることになりました。それが、1997年に締結された両国の共同防衛の密接化を規定した「新ガイドライン」であり、そして、それをもとに1999年制定された周辺事態法だったりしたわけです。なお周辺事態法では、「極東」における深刻な事態発生の際、日本がアメリカ軍の後方支援をすることを明文化しました。


  3. 「9・11」後の日米安保体制はどうなるのか?

     さらに9・11、あの同時多発テロの後の世界情勢の急激な変化は、日米安保体制に新たな状況を生み出しました。

     たとえばアフガニスタンでの米軍後方支援を可能にしたテロ対策特別措置法の制定。アメリカの要請を受け、イラクでの自衛隊活動を可能にしたイラク特別措置法の制定……どれも紙一重で共同防衛の枠を越えそうな法律の制定です。9・11の後の日米安保は、日米共同防衛強化からさらに一歩進んだ「共同行動」に踏み出しているのかも知れません。

     果たしてこれからの日米安保体制はどうあるべきなのか? もっとアメリカと共同行動を密にしていくべきなのか? それともここらで一線を引いて防衛協力にとどめるべきなのか? ……
     何れにせよ、日米安保体制が大きな岐路に立たされていることは事実です。今後の日米安保体制はどうすべきなのか、我々国民は真剣に考えなくてはならないことは論を俟ちません。


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新しい脅威〜「更新された脅威」と「新顔の脅威」〜

 現代の日本を取り巻く「新しい脅威」について、「更新された脅威」と「新顔の脅威」のふたつのキーワードでこの問題にアプローチしました。
「新しい脅威」の2義〜「更新」と「新顔」〜

 上の日米安保体制の変遷について触れた箇所で簡単に触れたましたが、今日の日本の安全保障政策は地殻変動期を迎えていると言っても決して過言ではないでしょう。この地殻変動は、下で詳しく触れる日本が直面する2種の「新しい脅威」によってもたらされているということが出来ます。


更新された脅威
従来からその脅威源及び脅威性の存在は認識されていたが、近年の国際環境の変化や脅威源の側の様々な政治・経済的事情変更や軍事技術面での新展開などによって、その脅威の性質が「更新された脅威」

新顔の脅威
従来はその脅威性が認識されていなかったか、或はその認識が弱かったが、近年、とりわけ東西冷戦終結以後になって、いわば「新顔の脅威」として認識レベルに登場してきた脅威

9.11テロと国家安全保障

9.11テロと国際貿易センタービル 9・11、すなわち2001 年9 月11 日に米国で発生した同時多発テロは、高度情報社会化した先進民主主義国の中枢を非国家主体が瞬時に大規模に破壊出来ることを実証しました。安全保障政策は、上でも見てきた通り、長らく「国家対国家の場で相対的に合理的な対応が可能だ」との前提下で組み上げられて来ました。けれども、今やこの前提は揺らぎ、世界は、そのような合理性を無視して無軌道かつ大規模な破壊をも実行する(大量破壊兵器をも用いかねない)「非国家」の行為主体をも脅威の中核のほとつと見做して安全保障政策を再構築しなければならない時代に入ったのです。

 しかし、9.11 後の安全保障論でえてして見落とされがちなのは、旧来の伝統的脅威までもがこの「新顔」の脅威と関わりつつ「更新」され、日本の安全保障に深刻な影響を及ぼしうる可能性です。たとえば現在喧しい北朝鮮の核とミサイルの問題は、それが「新顔」の主体に移転されるリスクを考え合わせると、単に北東アジアでの脅威に止まらず、当然ながらグローバルな脅威としても捉える必要性が出て来ました。また、非対称的な攻撃手法が米国を含む先進国に深刻な動揺をもたらす可能性は、たとえば米軍の地域的関与に対する信頼性にも影響を与えかねません。要するに、2種の「新しい脅威」をこのように相関的に捉えることが、現在の日本の安全保障政策の基軸を設定する上で極めて重要となったわけです。


 近年、9.11 後のアフガニスタン戦争やイラク戦争への対応をめぐって、日本の安全保障論も「更新」されつつあります。それは、「新しい脅威」がかつての日本の法的枠組みをもってしては捉え切れず、我が国の想定した安全保障政策の空間的拡がりを無視する性質を持っているからです。そのため、ご存知の通り、日本はアフガニスタン戦争に際しては「テロ対策特別措置法」を制定、インド洋に海上自衛隊艦艇を派遣し、米英海軍を対象とする洋上給油活動を行ないました。また、イラク戦争後に対しては「イラク復興支援特別措置法」に基づきイラク南部のサマーワに陸上自衛隊を派遣、人道復興支援活動を展開して来ました。さらに2004 年12 月に閣議決定された新防衛大綱では「多機能弾力的防衛力」を中核概念として打ち出し、従来の「基盤的防衛力」に代えて、自前の防衛努力、二国間同盟及び多国間安全保障を柔軟に組み合わせる防衛政策の構築を謳いました。
新しい脅威の種々相


  1. 更新された脅威源〜北朝鮮と中国〜

     具体的に言うと、我が国にとって第一分類の「更新された脅威」に入る主要な脅威源とは、(イ)朝鮮半島上の南北間軍事対峙と、(ロ)台湾海峡両岸の中台間軍事対峙、のふたつです。
     本来、この2つの脅威源は東西冷戦初期に由来する緊張から来ており、その意味では「古顔」ですが、その脅威の性質は近年になって「更新」されたわけです。

     たとえば(イ)に関しては、北朝鮮がノドンやテポドンといったミサイルの保有に加えて、大量破壊兵器(特に核兵器)の保有に到達したか、或はその直前状態にあること、また、我が国に対して武力工作船活動を多用するようになったこと、また(ロ)に関しては、中国が過去15 年強の目覚ましい経済発展を背景に台湾威嚇用の空海軍戦力を増強する傍ら、我が国近海を含む東アジア海域で軍事力を背景に拡張主義的な海洋資源獲得姿勢を示していることなどが特に指摘出来るでしょう。


  2. 新顔の脅威とその種類

     次に第2分類の「新顔の脅威」にどのような種類があるかの判断については、実は論者によって差があるのですが、多くの論者が異論なく挙げるものとして、たとえば(a)国際テロリズム、(b)大量破壊兵器の拡散(特に核の「闇」拡散)、(c)小型兵器(小火器)野放しの広域化、(d)「失敗国家」の増加とその一層の惨状化、(e)組織犯罪の国際的広域化・深刻化、などがあります。


  3. 「新しい脅威」と「紛争」の関わり

     最後に別の議論として、地球温暖化や先進・非先進地域それぞれの人口問題(前者では人口逆ピラミッド、後者では飢餓との相関)、AIDSやSARSといった新型疫病蔓延などの脅威性を説く声もあります。この脅威は近年台頭の著しい「人間の安全保障」論者によって「新しい脅威」として強調されていますが、ここでは「紛争」に関わるもののみを「脅威」として取り上げ、こちらの脅威は今回は考察の対象外とします。

     なお、ここで取り上げる脅威は「紛争」形態をとって発現するタイプの「新しい脅威」ですが、紛争の最も明瞭な形態は国家(政権)間の「武力紛争」です。しかし、ここではより広義の立場に立って、「準武力紛争」や「非対称主体間紛争」「国際秩序撹乱型・潜在紛争要因」等をもそこに含めて考察しています。
     なお、先の第一分類の「更新」された脅威、すなわち、(イ)強引な軍事政策をテコに生き残ろうとする北朝鮮の動向と、(ロ)中国の軍事力強化志向は、将来的に国家間ないし政権間の新しい軍事的手段をもってする紛争として発現する恐れのある「脅威」です。また、第二分類の「新顔」の脅威で挙げた諸脅威は、それ自体が直接・間接的に「紛争」の誘発性の高い「脅威」でもあります。


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新しい脅威と日本を取り巻く状況〜北朝鮮と中国を中心に〜

 本項においては、日本を取り巻く「脅威」に関して、アジア太平洋地域の脅威に関しては北朝鮮と中国の脅威を中心に取り上げます。(※なお、アジア太平洋地域については、当然ながらアフガニスタンやインド・パキスタン、インドネシア・東チモール等の地域の問題についても考察する必要がありますが、今回は省略しました。) 
「9.11」「イラク」以後の新しい現実

 冷戦後の世界ではまず各地での内戦型地域紛争が国際社会の注視を浴び、ついで非通常型脅威のテロリズムが国際犯罪ともども強い関心を集めましたが、それでも、それらは当初、先進国に対する脅威としては比較的軽度のものと捉えられて来ました。しかし、9.11テロで事情が一変し、不安定地域で育つ非国家主体が高度情報社会化した先進民主主義国の中枢を瞬時に大規模に破壊出来ることが衝撃的に実証されました。繰り返しになりますが、「国家対国家の場で相対的に合理的な対応が可能だ」との従来の前提の下に組み上げられてきた安全保障政策が、今やそのような合理性を無視して無軌道かつ大規模な破壊をも実行する(大量破壊兵器をも用いかねない)非国家の行為主体を脅威の中核のひとつとして再構築されなければならない時代を迎えたのです。

 しかし、この「新顔の脅威」が日本の安全保障とどう関係しているかは我が国ではまだ十分に吟味されていないのが現状です。大体、日本のこれまでの防衛=安全保障の政策体系では、「グローバル」(PKO 法等)・「リージョナル」(周辺事態法等)・「ナショナル」(有事法制等)という3つのレベル別ないし3つの空間別で整理・区分され、それぞれの区分毎の施策の費用対効果や国益上の利害得失が論じられて来ました。しかし、「新顔の脅威」がたとえば無差別テロのような発現形態を取ると想定される今日では、従来のような可視的なレベル別ないし空間別の区分に立つ安全保障対応をもってしては時代遅れとなる懸念も出て来たのです。「新顔の新しい脅威」は、サイバー空間をも含めて、その何れにも跨るものだからです。


 このような性格の「新しい脅威」に対応して、我が国の安全保障は当然ながらその何れにも同時に目配りしたものでなければならないことになります。
 たとえば現実に即して言うと、(イ)国際テロ勢力を掃討する必要からのアフガニスタン関与(「テロ対策特措法」下、インド洋での他国艦艇への洋上給油が主体)、(ロ)イラクを国際テロの新たな温床としないための(すなわち、イラクを新たな政治的な「失敗国家」〔※後述参照〕たらしめないための)人道復興支援をもっての多国籍軍活動への協力、(ハ)「失敗国家」や不安定国家中に拠点を持つ国際テロ勢力の手に国際的「闇市場」経由で大量破壊兵器が渡らないようにする国際的監視=阻止体制(PSI等※注)への参加、(ニ)サイバー・テロに対する国際的共同対処への参画などは、それ自体が今や同時的に日本の安全保障政策の重要措置となりつつあると言ってよいでしょう。


※ワンポイント1 拡散に対する安全保障構想(PSI:Proliferation Security Initiative)
 国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器・ミサイル及びそれらの関連物資の拡散を阻止するために、国際法・各国国内法の範囲内で参加国が共同して取りうる移転(transfer)及び輸送(transport)の阻止のための措置を検討・実践する取組。従来は各国が自国の領域内において国内管理、輸出管理等の措置を実施してきたが、PSIの下では、自国の領域内に限らず各国が自国の領域を越える範囲でも他国と連携して大量破壊兵器等の拡散を阻止する。また、国内においても、法執行機関や軍=防衛当局・情報機関等の関係機関の間の連携を重視する。
 現在、日・米・英・伊・オランダ・豪・仏・独・スペイン・ポーランド・ポルトガル・シンガポール・カナダ・ノルウェー・ロシアの15カ国(※注)を始めとする75カ国以上がPSIの活動の基本原則を定めた「阻止原則宣言」を支持し、実質的にPSIの活動に参加・協力している。また現在は、上記15カ国に加え、デンマーク・トルコ・ギリシャ・ニュージーランド・アルゼンチンが専門家会合に参加している。
※注:これら15カ国は、PSI発足後の一定期間、「コア・グループ」としてPSIの発展に中心的な役割を果たした。なお、「コア・グループ」は昨年廃止された。

9.11テロとアジア太平洋地域

 上でも触れたことですが、2001年9月11日の米国における同時多発テロは国際社会全体に対する攻撃であるとの認識が共有され、従来より指摘されてきた脅威の多様化の現実と国際テロ問題が国際社会全体にとって喫緊の課題であることが明確な形で浮き彫りにされました。
 同テロを受けて、国際テロ対策に対する国際的な連携・協力の重要性が国際社会においても幅広く共有され、ここ数年、実際にアメリカを中心に反テロリズムの観点からの協調が進展されてきたことは皆さんもよくご存知の通りです。

 もちろんテロの防止と根絶のための国際的な協調体制が構築・強化されたことは国際関係における前向きな変化であり、アジア太平洋地域においても主要国間関係にポジティブな影響を与え、地域の安全保障環境にも一定の変化をもたらしたということが出来るでしょう。他方アジア太平洋地域においては、残念ながら依然として民族や宗教など複雑で多様な要因を背景とする対立や大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散などの不透明・不確実な要素が多く残されているという状況に変化は見られません。
 日本としては、地域の平和と安定を担保してゆく上で、米国の存在と関与を堅持しつつ域内諸国間の信頼醸成を促進するため、2国間及びARF(ASEAN地域フォーラム※注)等の多国間の様々なレベルでの対話を促進するための努力を継続してゆくことが重要であることは論を俟たないでしょう。


※ワンポイント2 ARF(ASEAN地域フォーラム):25カ国とEUで構成、安全保障が中心課題
 アジア太平洋地域の安全保障問題について議論する唯一の政府間対話の場。1994年7月、東南アジア諸国連合(ASEAN)が拡大外相会議を母体として発足させた。当初はASEANを中心とする17カ国と欧州連合(EU)だったが、次第に参加国が増え、北朝鮮が00年から参加した他、昨年は東ティモール、今年はバングラデシュが新たに参加し、現在は25カ国とEUで構成する。
 毎年夏のASEAN外相会合に合わせて閣僚会議(外相会議)を開催し、その準備のために春に高級事務レベル会議を開く。外交と国防・軍事の両当局の代表が出席し、自由な意見交換を通じて信頼醸成・予防外交・紛争解決の3段階で安全保障環境の向上を目指す。現在は予防外交が中心課題となっている。

朝鮮半島とミサイル防衛〜北朝鮮の脅威〜

北朝鮮のテポドン1号略図 更新された脅威の1 つは、論ずるまでもなく、日本を射程内に置く相当数のミサイルと大量破壊兵器(特に核)とを保有し、放置するとやがては両者を結合(核戦力化)するに至ると見られる北朝鮮の軍事力です。これはまた大量破壊兵器の拡散源ともなり得ますから、北朝鮮問題は単に我が国周辺地域の問題であるだけではなく、今やグローバルな安全保障上の懸念となりつつあります。そのため、6カ国協議を通じて、或は日米共同の外交圧力の下、北朝鮮に核の完全放棄と将来にわたる断念を強いることは、グローバルな安全保障環境を安定させる上でも必要であるということになります。
 ただしそれが奏功しない場合に備えて、当然我が国としても防衛手段を整備する必要があるでしょう。しかし、北朝鮮から直接に飛来するミサイル兵器に対しては、既存の能力や既存措置の改善・強化をもって臨むことは実は不可能です。日本はこの種の脅威に対処するため、自衛能力の「更新」をも図らなければならないのです。

 03 年12 月19 日、日本政府は、現有のイージス艦と地対空誘導弾ペトリオットの活用によるBMD(弾道ミサイル防衛構想※注2)システムが「弾道ミサイル攻撃に対して我が国国民の生命・財産を守るための純粋に防衛的かつ唯一の手段」であるとの理由で同システムの整備を決定しました。しかし、これをもって事足れりではありません。我が国を射程に収める北朝鮮のノドンは既に100基を大きく超えると見積もられていますから、初期型BMDシステムの効果は名目的なものに止まる危険があるのです。
 また、北朝鮮ではありませんが、中国の中距離弾道ミサイル戦力も拡大が進められていると推測されます。これら弾道ミサイルの脅威を無力化するため、これまで逡巡してきた日米共同開発に踏み切り、より高性能な迎撃体の開発に向けた努力を日本は今後とも強化すべきなのかも知れません。


北朝鮮のノドンミサイル飛翔経路略図 ちなみに、弾道ミサイル防衛は100 パーセントの確率を持ち得ません。そのため、北朝鮮のミサイル攻撃着手が確実となった段階では、当然ながらそれを阻止する意志と阻止出来る打撃力とが本来は我が国に備わっていなければならないのです。
 これはポスト冷戦後の安保体制に関して述べたところとも関連しますが、そういう事態での攻撃阻止の意思と能力を持つためには、いわゆる「専守防衛」論の見直し、或は新たに定義される「専守防衛」論の下での策源地(=前線の部隊に対し物資の補給などの兵站〔へいたん〕活動を行なう後方基地)打撃力の保有も真剣に検討してみる必要があるわけです。

 他方、湾岸戦争でも判明したように、米軍の圧倒的な攻撃力をもってさえ弾道ミサイルの移動式発射台を破壊することは困難を極めます。中距離弾道ミサイルの多くが移動式で発射されることを考えると、仮に「専守防衛」を見直して策源地攻撃能力を得たとしても、我が国の持ち得る打撃力の主体的な効果は低く、従って「専守防衛」の見直し効果を誇大視せず、打撃力の必要な局面では米軍に依存する現在の防衛政策をさらに維持強化する方策が賢明でしょう。


※ワンポイント3 弾道ミサイル防衛構想(BMD:Ballistic Missile Defence)
 東西冷戦終結後、第三国に拡散する大量破壊兵器・NBC兵器(核・生物・化学)及びそれらを運搬するミサイル等の拡散による脅威に対処するため、アメリカが同盟国と進めているミサイル防衛構想の総称で、米本土を防衛するための国家ミサイル防衛構想(NMD※注1)と世界各地に展開する米軍及びその基地ならびに同盟国を防衛するための戦域弾道ミサイル防衛構想(TMD※注2)の計画が推進されている。
(※1)国家ミサイル防衛(NMD:National Missile Defence)
(※2)戦域弾道ミサイル防衛(TMD:Theater Missile Defence)

今後発展する中国の軍事力

 中国の国勢は、自国民を飢餓線上に曝しながら軍事偏重路線を突っている北朝鮮とは著しい対照をなしています。
 (イ)まず経済の急拡大が空海軍の着実な増大を可能にしていることが挙げられます。それと同時に、(ロ)経済の拡大が海洋資源確保面での国家関心を刺戟し、特に東シナ海と南シナ海での拡張主義的行動を誘発していることも疑えません。さらに、(ハ)台湾の動向に北京は神経を尖らせています。

 台湾での民主主義の定着はもちろん日本が歓迎するところですが、他面それが台湾の独立志向を助長する可能性も否定出来ません。そのことが北京を警戒させ、その軍拡を促す重大要因ともなっているのです。何れにせよ、中台関係の将来もさることながら、中国の軍事能力の推移そのものが我が国の安全保障環境を大きく左右します。それ故に、当然ながらそれは日本の安全保障政策の恒常的な関心事であり、観察対象でなければならないのです


 次に、中台の軍事力比較ではともかく、日米安保体制との比較で言えば、核戦力・通常戦力の何れでも日米同盟側が遙かに中国に対して優勢にあります。この対中優勢はなお当分の間続くので、現状において日本が中国の脅威を過度に怖れることは余り賢明ではありません。問題は、中国が将来、戦略核戦力面での対米劣勢をかなり挽回することに成功する場合でしょう。

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新しい脅威と日本の安全保障政策の複線化

 最後に本項においては、日本の安全保障政策の「複線化」というキーワードでこの「新しい脅威」の問題にアプローチしました。
国際テロリズムと大量破壊兵器

  1. 国際テロリズムの脅威

     国際テロリズムの脅威への対策は、(a)国内体制、(b)国際体制の両面からの考察が必要ですが、無論のこと両者は密接に関連しています。それは国際体制の中で我が国が「脆弱な環」にならないことが強固な国際体制成立の基本条件だからです。
     しかしながら、現実には我が国の国際テロリズム対策には他の先進主要国と比較して不備が目立っていることも間違いのない事実です。まず第一に、政府全体としてテロ対策の原則がなく、取り締まり対象たるテロ及びテロリスト(テロ組織)については国内法規上の定義すら見当らない有り様です。また、主要国に存在するいわゆる「反テロ法」も日本には欠けています。第二に、そのテロ対策には関係省庁間での「縦割り」の弊が色濃く宿っている事実が挙げられます。要するに「縦割り」の弊害のためにテロ情報の交換が不十分なことを始め、その取り組みは戦略的に統合されていないのです。

     また、それと関連しますが、たとえば米国は2003 年2 月に「対テロの国家戦略」文書を発表しましたが、米国が対テロで何を目標とし、如何なる方法でそれと取り組もうとしているかはそこに一目瞭然です。翻って我が国にはこの種の基本戦略文書がないため、“政府が何を目標としているのか”“どの程度の警戒体制の持続を関連諸機関に要望しているのか”が不明で、内外から戸惑いと疑問の声が出て来る結果となっています。


  2. 大量破壊兵器拡散の脅威

     「新顔の脅威」である大量破壊兵器の拡散は「国際テロリズム」と密接に関連していますが、このことは大量破壊兵器及びその運搬手段がテロ組織に渡ることのないよう立法化を各国に義務づけた2004 年4 月28 日の国連安保理決議(1540)が全会一致で採択された事実に照らして世界共通の認識となっています。特に我が国の場合、我国に対する核・ミサイル脅威となるだけでなく世界の不安定地域に向けての拡散源となりかねない北朝鮮という存在を至近距離に抱えているため、この領域では特段の積極性を発揮し、率先して各国に核テロ防止条約の批准と大量破壊兵器関連の輸出規制強化、「核の闇市場」の解明と一掃を呼びかけるべきでしょう。さらにG8 の枠組みを通してロシアにおける核物質の管理・処分の確保及び生物兵器の廃棄の実現を期すべきであることは論を俟ちません。

     今日、国際条約上の最難題のひとつは、生物毒素兵器禁止条約の査察検証体制の整備です。また、大量破壊兵器拡散防止についても、問題はむしろ我が国のこれまでの国内体制にあると言ってよいでしょう。従来、軍縮=不拡散関連条約は外務省、輸出管理は経済産業省、ロシア原潜の解体支援は外務省、ロシア余剰兵器プルトニウムの管理=処分問題は外務省及び文部科学省が担当し、また、「拡散安全保障イニシアティブ(PSI※ワンポイント1を参照)」では外務省を取りまとめ役として実に11省庁が関わっていて、総合的な戦略的対応は望むべくもありませんでした。国際テロ対策の場合と同様ここでも政府としての総合調整の仕組みが必要であり、そのため内閣官房に閣僚級調整ポストを置くことを検討すべきでしょう。

失敗国家対策と我が国の安全保障

  1. 失敗国家の脅威

     統治機能が失われたいわゆる「失敗国家(failed state)」に発する脅威、すなわちアフガニスタンやスーダンなどで養成されたイスラム過激派の国際テロリストたちが、「空間横断」的に先進諸国や地政学的重要性を持つ中進国(たとえばトルコ)、また途上国(たとえばインドネシア)などでテロ攻撃を繰り返したため、失敗国家の存在とその放置が我が国の安全保障にとって脅威となりうることは、最近日本でも漠然とした形でようやく気づかれるに至りました。とは言え、たとえば核開発志向の露骨な北朝鮮(更新された脅威)などとは違って、ある国家の失敗または政治的な破綻が時として全世界的な「新顔の脅威」源となる構造及び因果関係の理解が十分だとは言うことは到底出来ません。このように国民の理解が不十分である原因の大きな部分は、政府がその旨を不徹底な形でしか説いてこなかった点にあると言ってよいでしょう。


  2. 失敗国家対策と自衛隊の海外派遣

     それはともかく、自衛隊をもってする最近の海外任務は、現実にはその何れもがほぼ失敗国家がらみの案件です。今後も自衛隊が我が国領域外で任務につくのは、シーレーン防衛や周辺事態への対応(それらは大きく言って「国防」関連任務です)以外には失敗国家がらみの案件にほぼ限定されるでしょう。逆に言うと、(後に詳しく触れるように)自衛隊をもってする我が国の安全保障政策が「国防」と「海外任務」の「複線」型に移行した今日、後者の実態は取りも直さず圧倒的に「失敗国家対策」なのです。

     なお、小泉政権による対イラク人道復興支援方針は、日本の世論によって驚くほどの高率で支持されましたが、それが失敗国家対策の意義を理解した上での支持であったかといえば疑問が残ります。それはむしろ、ほぼ同時期に鮮明化した北朝鮮の核脅威の投影の下で生まれた支持であると言ってよいからです。要するに、北朝鮮の動向に鑑みて国民が日米同盟の重要性を改めて認識し、「対テロ・対失敗国家(例:アフガニスタン)・対イラクなど個別案件で緊密な対米協力姿勢を取ることが我が国の『国防』上不可欠な全体としての強固な日米安保体制を担保する」と判断したわけです。
     もちろんそのことの意義は決して小さくありませんが、そうであれば、イラク問題での国民の政府方針支持は一種の目的=手段関係の域を脱しない、といううらみも残ります。これは要するに、「対北朝鮮で日米同盟をより強固にするという目的のためにイラク問題での対米協力をいわば手段として活用する」という関係だと言ってらよいでしょうか。しかし実際には、対テロ・対失敗国家・対イラクなどの個別案件との取り組みは、実は日米同盟の強靭化に役立つ手段的側面をもつだけでなく、それ自体が我が国の安全保障の増進に適う合目的性の行為なのです。


  3. 失敗国家対策と日米安全保障

     2005 年2 月発表の「日米共通戦略目標」において、失敗国家対策をも含む対イラク・アフガニスタン・中東に対する国際的支援の供与についても日米両国のリーダーシップの重要性が謳われました。失敗国家対策を安全保障の見地から実効あるものとするためにも日米対話の一層の深化を図り、今後も米軍=自衛隊それぞれの特性を生かした協力関係の構築を目指さなければならないでしょう。そのためには、我が国の側からは「集団的自衛権行使不可」という解釈を変更することの得失を議論し、場合によってはその変更を検討するなど法的しこりを出来るだけ速やかに解きほぐし、協力の柔軟性を高める努力が必要となるかも知れません。


日本の安全保障政策の「複線化」と日米同盟

  1. 「国防」の「更新」と「海外任務」の問題

     今日の日本の安全保障環境は、世界の他の主要国のそれとは異なる複雑な性格を帯びています。世界的な冷戦は既に終わりましたが、日本の周辺では朝鮮半島や台湾海峡に見られるように、冷戦の初期に由来する緊張源が消滅するどころか「更新された脅威」として存続しています。それ故、国家としての防衛(=国防)は日本の安全保障政策中で依然として中核的意味を持っています。脅威の「更新」につれて、我が国の防衛政策も当然ながら「更新」の必要性に迫られているわけです。
     他方、今日の日本の安全保障政策は狭義の「国防」専念ではすまなくなりました。すなわち、世界はバルカンや東南アジア、或はアフリカで多発した内戦型紛争や人道的緊急事態への対応に追われ、我が国も国際平和協力法や国際緊急援助隊法の枠組みでカンボジアや東チモール・モザンビーク・ルワンダ・ゴラン高原などに自衛隊を派遣する経験を積んだことは皆さんもご存知の通りです。さらに21 世紀に入ると、前記の9.11 テロや03 年3 月のイラク戦争という新しい事態を前に、日本は「テロ対策特措法」や「イラク人道復興支援特措法」の枠組みで自衛隊を相次ぐ海外任務に送り出して来ました。また04 年6 月には、イラクでの暫定政権への主権委譲に伴い、自衛隊は人道復興支援のための国連安保理決議1546 に基づく多国籍軍活動に協力するところまで事態は進んだのです。

     なおこのことは、今日の日本の防衛・安全保障政策が、「『更新された脅威』に対しては自衛隊の「主たる任務」たる我が国の防衛を引き続き担当すると共に、『新顔の脅威』に対して国際協調的に対応してゆく」という「複線」型に移行しつつあることを物語っています。しかしこのこと自体は、実は今日の先進主要国中では実はかなり異例となっているのです。
     世界の先進主要国、たとえばG8 参加国である英・仏・独・伊・露及びカナダについて見ると、ロシアを除く西側主要諸国では、東西冷戦終焉の結果、自国の安全を直接に脅かす外国勢力は見当たらなくなり、安全保障政策中で狭義の「国防」が占める比重は著しく低下しました。そして、各国軍の主任務はむしろ「新顔の脅威」に対処するための国際的共同介入活動の方向へと収斂しつつあるのです。このような事情を知ると、日本の安全保障政策が今日になって「複線」化しつつあることが如何に異例であるかが理解できるでしょう。


  2. 「単線、しかもモノレール型」の今日的障害

     近年、我が国の安全保障政策は国防専念の「単線型」から、自衛隊の海外任務をも重視する「複線型」に移行しましたが、朝鮮半島や台湾海峡での「更新された脅威」が紛争化することなく解消されない限り、この「複線化」は殆ど不可逆のプロセスでしょう。しかし、ほんの10数年前まで、我が国では防衛=安全保障政策の「複線」化は予想されておらず、防衛政策は定義の曖昧な「専守防衛」で説明されて来ました。
     ちなみに、「総合安全保障政策」論の提唱(大平正芳政権時代)では日本は他国に先駆けていましたが、その関心は“複合的手段を駆使して我が国の国民生活と産業活動のためエネルギー・資源・農産物等の安定確保をどう図るか”にほぼ尽きており、軍事的性格の議論としては“そのためのシーレーンを日米共同でどのように守るか”しかありませんでした。つまり、従来の日本の安全保障論は内向きの「単線」型だったわけです。

     さらに、日本の防衛=安保政策は普通の「単線」構造ではありませんでした。具体的に言えば、国連憲章が全ての国家に認める「個別的又は集団的自衛の固有の権利」のうちの「集団的自衛権」は従来より政府の憲法解釈で「憲法上行使不可」とされ、日本は個別的自衛権のみを行使出来るとされて来ましたが、これは「国防任務専任型」という単線構造中でも特殊な「モノレール方式」だと言えます。我が国独特のこの憲法解釈に対する国内からの疑義表明は今日では最早珍しくはありませんが、しかし、近年の日本の防衛安保政策が狭義の「国防」と自衛隊による「海外任務」という「複線」型に移行しても、実は近年制定された防衛=安全保障の諸法制は何れも「個別的自衛権オンリー」のこのモノレール方式に拠っているのです。


  3. 「新しい脅威」と日米同盟の強化

     まずは、「更新された脅威」と「新顔の脅威」の双方について、我が国の「複線型」対応能力の増幅が必要となります。歴史的理由から言っても、また合理性の見地からしても、その最も妥当な道は当然ながら「日米同盟協力」の強化ということになります。

     01年6月に開催された日米首脳会談において、両首脳は日米安全保障関係50周年を歓迎しつつ、日米同盟が引き続きアジア太平洋地域の平和と安定の礎であることを再確認しました。日米安保体制の信頼性を一層高めるためにはたゆみない努力を続けてゆく必要がありますが、その一環として、平素及び緊急事態に際してより効果的かつ信頼性のある日米協力を行なうための堅固な基礎を構築することを目的とする新たな「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の実効性確保が重要となるでしょう。
     先にも述べたことと関連しますが、このように日米安保体制は日本の平和と安全にとって不可欠であるのみならず、アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスを確保する最も重要な支柱として地域の平和と安定に不可欠の重要性を有しています。この意味において、日米安保体制はこの地域のいわば公共財としての役割を果たしていると言っても決して過言ではないのかも知れません。

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