【1】認知症とその対策 |
認知症はどのような病気なのでしょうか?
本節では、認知症の症状や種類について概説し、併せてその対策法について簡単に解説しました。
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認知症とは? |
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認知症とは何か? |
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認知症とは、脳や身体の疾患を原因として記憶や判断力などの障害が起こることです。老化に伴う単なる物忘れよりも、急速に脳細胞が消失して、記憶の一部ではなく全てがなくなったりします。また、人格崩壊や妄想・幻覚といった症状を引き起こすこともあり、日常生活に支障を来すことが多いのが認知症です。
脳は私たちの身体活動及び精神活動の殆どをコントロールしている言わば司令塔とも言える重要器官です。それが上手く働かなければ精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなるのは当然のことです。そして認知症とは、色々な原因でこの脳の細胞が死んでしまったり働きが悪くなったために様々な障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。また、認知症を引き起こす病気の中で最も多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでゆく変性疾患と呼ばれる病気で、アルツハイマー病や前頭・側頭型認知症、レビー型小体病などがこの変性疾患に当たります。それに続いて多いのが、脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化などのために神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなって、その結果その部分の神経細胞が死んだり神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。このアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症が認知症の多くを占めています。 |
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認知症とは? |
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認知症とは、脳や身体の疾患を原因として記憶や判断力などの障害が起こることです。老化に伴う単なる物忘れよりも、急速に脳細胞が消失して、記憶の一部ではなく全てがなくなったりします。また、人格崩壊や妄想・幻覚といった症状を引き起こすこともあり、日常生活に支障を来すことが多いのが認知症です。
脳は私たちの身体活動及び精神活動の殆どをコントロールしている言わば司令塔とも言える重要器官です。それが上手く働かなければ精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなるのは当然のことです。そして認知症とは、色々な原因でこの脳の細胞が死んでしまったり働きが悪くなったために様々な障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。また、認知症を引き起こす病気の中で最も多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでゆく変性疾患と呼ばれる病気で、アルツハイマー病や前頭・側頭型認知症、レビー型小体病などがこの変性疾患に当たります。それに続いて多いのが、脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化などのために神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなって、その結果その部分の神経細胞が死んだり神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。このアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症が認知症の多くを占めています。 |
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認知症は治らない? |
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残念ながら現在の医学水準では認知症は治らない、治すことができないと言っても過言ではありません。特にこれからも増え続けると予想されるアルツハイマー型認知症は、症状が徐々に発症してゆき、その進行を止めたり元に戻したりすることは今のところ不可能と言ってもよい状況です。決定打と言える治療法が確立されているわけでもなく、今のところ手探りの状態です。日本では唯一、病気の進行を遅らせる効果がある塩酸ドネペジル(アリセブト)という名前の抗認知症薬がよく用いられてはいますが、その効果にも限界があるのが実情です。一方、動脈硬化が原因の脳血管性認知症の場合は、軽度の場合ならば、血栓の形成を抑制する薬や血圧及び高脂血症の薬などを使用しながら再発を防ぎつつ、認知症の進行を食い止めることはある程度は可能となっています。しかしながら、認知症の症状である記銘力の低下や見当識障害などに直接効果のある有効な薬剤は今のところ存在しないようです。 |
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参考:長生きと認知症 |
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大昔は「人間50年」などと言って人の一生を表わした時代もありました。昔の停年が55歳だったのも、当時の平均寿命(0歳時の平均余命)が大体それぐらいであったことに由来しています。ところが、医学の進歩も相俟って、現在日本人の平均寿命は、女性84歳、男性78歳となって、日本人も世界の中でもかなり長生きな民族になりました。
それでは人間の身体の寿命はどのくらいあるのでしょうか? 最近の遺伝子学の研究によると、人の寿命は本来120歳ないし200歳程度であろうというのが常識となってきているそうです。遺伝子学の急速な進歩によって、次々に生命の神秘が解き明かされているようで、短命遺伝子と名づけられた遺伝子の発見も遺伝子学の進歩の賜物なのでしょう。そしてこの短命遺伝子は、私たちの寿命を縮める方向に働くらしいのです。とすれば、この短命遺伝子の働きを止めてしまう、或は遅らせることができれば、不老長寿とはゆかないまでも、120歳以上の寿命も可能だろうと考えられているのです。120歳以上生きるのがよいか悪いか分からないですが、長生きしてゆく上での最大の壁は、高齢化によって出現してくる老人性認知症(以前は老人性痴呆と呼んでいました)です。
認知症は、地球上のどこの国でも万国共通の問題です。先進国は、生活水準や医療環境が整った分、平均寿命も延びていますので、老人性認知症が最大の懸念であると言えるでしょう。肉体の長寿命化は、神経細胞の寿命との間に大きな差(ギャップ)を生み出してしまいました。人間が平原で生活するようになって20万年とも言われますが、現代は今までにない長生きを経験しています。医療の発達や食料の安定供給、社会構造の安定化などの結果だと言えるでしょう。しかし、太古の昔から人間が望んできた長生きが、今度は皮肉なことに認知症という問題をもたらしてしまいました。誠に残念ながら、現在の医学をもってしても認知症の根本的な解決策は見つかっていないのが現状です。
現在、日本は世界でも稀に見る高齢化社会に向かって突き進んでいますが、それと同時に認知症の問題も最先端を行っていると言えます。認知症が「21世紀の時限爆弾」とまで言われる所以でもあります。「人間50年」どころか、「人間200年」という遺伝子からのメッセージも、認知症を克服することができなければ単に絵に描いた餅にしかすぎません。最初にも触れたように、厚労省の調査では、認知症患者は約150万人、そのうちアルツハイマー型が4割以上とされています。社会の高齢化に伴って今後ますます認知症患者は増え続けてゆくことでしょう。 |
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認知症の種類とその症状 |
認知症の種類 |
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アツルハイマー型認知症 |
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アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞の減少や脳の萎縮、脳への老人斑・神経原線維変化の出現をその特徴とします。アルツハイマー型認知症は、βアミロイド蛋白と呼ばれる異常な蛋白質が脳全般に蓄積することで脳の神経細胞が変性・脱落してしまうことが原因とされており、そのために脳の萎縮が進行し、認知症を発症すると考えられています。CTやMRIといった画像診断では比較的早期から側頭葉内側部(海馬領域)の萎縮が目立ってくると言われています。進行すると脳全体の萎縮が顕著になります。しかしながら、未だにハッキリした原因は分かっていないというのが現状です。
老年期の認知症はアルツハイマー型が最も多いとされています。従って、アルツハイマー病は特別な病気ではなく、年齢を重ねれば誰でも罹る可能性のある脳の老化に関係する病気であるとも言えます。なお、特殊な例ではありますが、家族性のアルツハイマー病も存在するようです。家族性のアルツハイマー病には色々な遺伝子が関与していると言われ、第1染色体、第14染色体、第19染色体、第21染色体上の遺伝子が原因として報告されています。また、非家族性のアルツハイマー病でApo E(アポ・イー)という物質に関する遺伝子異常が多いことが分かっています。なお、アルツハイマー型認知症の発症と進行は比較的緩やかに進行していきますが、しかし、時間の経過と共に確実に悪化してゆくのも事実です。多くの場合、物忘れといった記憶障害から始まり、時間や場所、人の見当がつかなくなるといった見当識障害が現われてきます。そして、この物忘れは、病気の進行と共に「最近のことを忘れる」状態から「昔のことを忘れる」というように変化し、次第に過去の記憶や経験などを失ってゆくのです。
アルツハイマー型認知症の特徴は、大脳の後半部(側頭葉、頭頂葉、後頭葉)の萎縮が次第に進行してゆくことにあります。まず脳の側頭葉と呼ばれる部分の海馬の脳神経細胞が減るところから始まります。海馬は眼や耳から得られた情報を短期に記憶しておく場所ですが、その海馬が損傷を受けるので、病気の初期段階では「今さっきの記憶」が思い出せないといった症状として現われてきます。また、脳組織の変化としては、アミロイドと呼ばれる蛋白質の沈着(アミロイド斑もしくは老人斑という)と非常に溶けにくいタウ蛋白からできる神経原線維が出現します。年配者の場合ですと、アミロイドの沈着は認知症患者でなくてもしばしば見られます。アルツハイマー型認知症では比較的早期から側頭葉を中心に比較的強くこの沈着が認められるようになり、徐々に脳の後半部に高度の萎縮が見られるようになります。そして、こうした変化と共に、正常な神経細胞が徐々に脱落することで認知症障害の状態になっていくわけですが、このような経過を辿る神経組織の変性は実際に認知症の症状が現われるかなり前から始まっており、発病中の全期間の中頃から症状がハッキリしてくる極めて長い経過をとる進行性の病気です。
アルツハイマー型認知症は、実際には70歳を過ぎてから症状が出るのが普通で、女性に多く(男女比はほぼ2:3)、認知症の症状が出てから死亡までの平均罹病期間は5年前後と言われています。いつから症状が出現したのかハッキリせず、その後は徐々に認知症が進み、最後は全身衰弱や肺炎などの感染症で死亡するといった経緯をたどることが殆どです。その間、歩行障害や筋肉が固くなる、失禁などの身体症状を伴うこともあります。そして、それと共に時間や場所を正しく認識する見当識が衰えてゆき、幻覚や妄想が現われたりします。しかし、本人はその認識がなく、無欲状態や鬱状態、もしくは多動、苛つき、不安、攻撃性などの精神症状をしばしば伴います。結果として、社会的行動と個人の習慣も次第に崩壊してゆくことになります。 |
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脳血管性認知症 |
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脳血管性認知症は、脳の血管の病気、脳梗塞や脳出血を根本的な原因として起こるものです。簡単に言うと、脳血管疾患の後遺症です。詰まるか切れるかのどちらかが脳の血管の病気ですが、主として生活習慣病を原因とする動脈硬化が原因として起こることが多いです。原因はともかく、発症すれば酸素や栄養素が脳に行き渡らず脳の神経細胞は死んでしまったり回復不能なダメージを受けたりしてしまいます。その障害の場所がどこかによって認知症の症状はそれぞれ異なりますが、一般的には、その範囲が広ければ広いほど認知症の症状も重いものになります。なお、脳血管性認知症の場合、突然の脳血管障害をキッカケに急激に認知症が発症する場合と、小さな脳梗塞を繰り返して起こしているうちに徐々に認知障害が現われる場合とがあります。
根本的原因は何であるかは別として、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こります。脳血管障害の危険因子として高血圧や動脈硬化、糖尿病、高脂血症などがあります。脳血管障害により脳の血流量や代謝量が減少し、その程度や範囲は認知症の軽重と関係します。
脳卒中を起こすと、破壊された脳の場所によって半身不随や言語が理解できないなど、認知症だけでなく様々な神経症状が併発されますが、この状態を「まだら痴呆」と呼びます。記憶・言語機能・視空間認知能力・人格・気分・認知に関する障害が認知症になると必ずと言ってよいほど現われますが、アルツハイマー型は症状の悪化が全般的に進むのに対し、脳血管性は全く正常な部分が比較的最後まで残っているのが特徴です。記憶障害は殆どの場合、最近の記憶に対して起こります。そして、記憶のハッキリしたところとそうでない部分とが見られます。この症状(まだら痴呆)は、脳血管性認知症に特徴的な症状です。また、アルツハイマー型認知症はいつ始まったのか分からないことが多く、ある程度症状が進んでから気づくことが多いものですが、これに対して脳血管性認知症は脳の血管障害の後に合併して始まることが多いので、いつから始まったのかが分かる場合も多いことが特徴と言えます。ちなみに脳卒中の症状が出てこない無症候性脳梗塞などの場合は、徐々に始まってきたとの印象を持つこともあります。そして、脳血管障害の進行に伴って認知症も進行するので、段階的に症状が悪化するのも特徴となります。なお、共通して現われる症状に徘徊がありますが、
アルツハイマー型では無目的な行き当たりばったりの行動であるのが特徴であるのに対して、脳血管性認知症では自分の場所に対する理解が多少はあるので、目的を持って徘徊するという特徴が見られます。 |
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レビー小体型認知症 |
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レビー小体型認知症は老年期に認知症を呈する病気の一種で、脳の神経細胞が原因不明に減少する病態の認知症ではアルツハイマー型認知症に次いで多い病気です。男性により多く見られ、その割合は女性より約2倍前後だと言われます。レビー小体(Lewy
Body)とは、元々は運動障害を主な症状とするパーキンソン病の脳の中の中脳と言われる部分に溜まった異常な構造物を指す言葉ですが、レビー小体型認知症の患者の脳ではこれが認知機能を司る大脳皮質にも広く見られることからこのように命名されたそうです。なお、これまでは、レビー小体はパーキンソン病に特徴的なものと考えられていましたが、最近ではパーキンソン症状のない患者でも見られることが分かってきました。
レビー小体型認知症の原因は加齢による脳の変性によるものと考えられています。脳神経細胞内にレビー小体と言われる蛋白質の塊が出来ます。レビー小体(Lewy
Body)とは、元々は運動障害を主な症状とするパーキンソン病に罹患した脳の中脳と言われる部分に溜まった異常な構造物を指す言葉ですが、このレビー小体が大脳皮質の広範囲に出来ることでレビー小体型認知症となって現われるのだと考えられています。ただし、なぜこうした物質が出来るのかは今のところ十分に解明されてはいません。 |
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若年性認知症 |
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認知症は一般に高齢者の病気だと考えられていますが、しかしながら、実は働き盛りの年代でも認知症になることがあります。それも決して稀なケースではありません。それが若年性認知症で、18〜64歳で発症する認知症の総称をこう呼んでいます。若年性認知症も原因や症状は高齢者の場合と同じですが、頭部損傷などの事故による後遺症で認知症が発症することもあります。
若年性認知症を発症したとしても、最初は「あれ、何だっけ?」といった一時的な物忘れから始まるケースが多いのですが、時間の経過と共に病状が進行すると、家族や同僚の名前を忘れてしまったり、自分の行き先が分からなくなってしまったりと言った症状が現われるようになり、仕事を続けることもできなくなってしまいます。また、行動障害としての徘徊なども症状に加わってきます。なお、若年性認知症の患者数は、厚労省によれば、患者数は推計で2万7千人から3万5千人はいるとされますが、現実にはその3倍以上に及ぶとも言われ、正確な実態は分かっていません。
一般的には高齢のお年寄りの病気だと考えられているアルツハイマー型認知症ですが、元々は若年性の病気で、これは、その年代には起こらない病変が脳に起きてしまう病気なのです。若年性アルツハイマー型認知症も通常言われている老人性アルツハイマー型認知症と原因は同じで、βアミロイド蛋白と呼ばれる異常な蛋白質が脳全般に蓄積することで脳の神経細胞が変性・脱落し、萎縮てしまうことが原因とされています。なお、未だに発生原因がよく分かっていない若年性アルツハイマー型認知症ですが、遺伝によるケースも見受けられるので、親族でアルツハイマー型認知症の患者がおられる方は注意が必要かも知れません。若年性アルツハイマー型認知症と診断される6〜7年前から色々な初期症状が目立つようになることが多いと言われています。症状としては、初めは頭痛や目眩、不眠が現われます。また、不安感や自発性の低下、抑鬱状態もあります。この段階では本人も気づいていないことが多く、仕事でのストレスや通常の鬱病が原因だろうなどと間違えられやすいので注意が必要です。さらに病状が進行すると、自己中心性が増し、非常に頑固になったり、他人への配慮ができなくなったりといった症状が現われます。また、若年性アルツハイマー型認知症は、脳の萎縮スピードも早く(40歳代患者の場合、高齢者に比べ2倍以上のスピードで病気が進行します)、放っておくと症状がどんどん進行してしまいますので、早期発見と早期対策(治療)が非常に重要であり、それが患者のその後の生活維持にも大きく影響してきます。
また、若年性脳血管型認知症の場合も通常の脳血管型認知症と同じで、脳梗塞による血管の詰まりや血流量の減少などにより脳細胞の働きが低下するために起こります。こちらの型は男性に多く見られます。「物忘れがひどくなった」とか「計算ができなくなった」などの症状が重要な判断ポイントになります。一部の脳の機能が低下してしまうために、あることは忘れたのに、あることは細かく覚えているといった「まだら痴呆」が現われるのも若年性脳血管性認知症の症状の特徴のひとつです。高血圧や脳卒中の経験がある人は特に注意が必要です。 |
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認知症の症状 |
認知症は脳の細胞が壊れてゆくことによって起こると考えられています。そして、その症状には大きく(A)脳障害そのものである「中核症状」と、(B)それに環境変化や身体の具合、介護者などの関わり方も関与する「周辺症状」とに分類されています。また、(B)の周辺症状には、幻覚や妄想(物取られ妄想が典型的)、抑鬱、意欲低下などの(イ)精神症状と、徘徊や興奮などの(ロ)行動異常とがあり、最近ではBPSD(Behavior and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれるようになっています。
■認知症の症状:(A)中核症状 |
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記憶障害 |
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人間の脳には、眼や耳から得られた情報を取捨選択し、関心のあるものを一時的に保存しておく海馬と呼ばれる器官と、重要な情報を長期間保存するための菊の壺とも表わせる機能を持っています。記憶の壺に入れられた情報は長期間保存され、必要な時に必要な情報を取り出せるようになっています。しかしこの便利な機能も、加齢と共に海馬の機能が衰えてゆき、一度にたくさんの情報を掴まえておくことが難しくなってきます。また、掴まえたとしても記憶の壺に移すのに手間取ったりするようになります。逆に記憶の壺の中から必要な情報を取り出す作業もスムーズに行なわれにくくなります。これは、通常は加齢に伴うど忘れとして現われてきます。こうなっても一応は海馬が機能してはいるので、幾度かそれらの作業をしてゆくうちに、大事な情報は何とか記憶の壺に収まってくれます。ところが、これが認知症になると、海馬の機能が極端に衰えてしまうので、掴まえた情報を記憶の壺に収めることができなくなってしまうのです。こうして、新しく入ってきた情報を記憶できなくなり、さっき聞いたことが思い出せないといった状態になります。認知症がさらに進行すると、記憶の壺までが衰えてしまい、これまでに覚えていたはずの記憶まで消滅して行ってしまうのです。 |
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見当識障害 |
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見当識障害とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握することができなくなる状態を指しますが、これも認知症の初期から記憶障害と並行してよく現われる症状です。
まず時間に関する感覚が薄らいでゆきます。時間の感覚が麻痺してくるので、予定に合わせた行動ができなくなるなどの現象が出現します。さらに認知症が進行すると、時間感覚だけでなく日付や年次まであやふやになり、今日は何日かと何度も聞くようになったり、服装に季節感がなくなったり、さらに自分の年齢が分からないなどといったことも起こってきます。こうして場所や方向に関する感覚が薄らいでくると、慣れているはずの場所に行くのにも迷子になるなどの症状が出てきます。初めは方向感覚が薄らいでも、周囲の景色等をヒントにして道を間違えないで歩くことができますが、夜間など暗くてヒントがなくなると迷子になってしまいます。これが進行すると、近所で迷子になったり、夜、自宅のお手洗いの場所が分からなくなったりします。或は距離感も鈍くなるのか、通常では到底歩いてゆけそうにない距離を歩いて出かけようとしたりします。一方、人に関する見当識は、認知症がかなり進んでから出てくる症状です。病状が進行し、記憶の壺まで衰えてしまうと、過去の記憶がなくなってしまうので、自分の年齢や周囲の人との関係が分からなくなります。80才の人が30才以降の記憶を失ったために、50才の娘に対して「姉さん」「叔母さん」などと呼んで家族を混乱させたり、過去に亡くなっている母親が心配しているからと遠く離れた故郷に歩いて帰ろうとしたりします。 |
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理解&判断力の障害 |
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認知症になることで、ものを考えることにも障害が起こってきます。考える速度が遅くなったり、幾つもの情報を並行して処理することができなくなったりします。一度に処理できる情報の量が減ってしまうので、情報が重なると混乱してしまいます。また、些細な事柄やちょっと違う状況に対処できず、混乱するようになります。たとえばお葬式での行動に不自然さが目立ったり、突発的な出来事、夫の入院などで混乱してしまったりで認知症が発覚することがあります。こういった状況では、本人が混乱した時に補助してくれる人がいれば日常生活は継続できることが多いものです。また、観念的な事柄と現実的・具体的な事柄が結びつかなくなるので、たとえば「糖尿病だから食べ過ぎはいけない」ということは分かっているのに、目の前のケーキを食べてよいのかどうか判断できないということが起こります。これは正常人でも日常起こりうることですが、普通の人の「分かっているけど止められない」というのとは違い、そもそもその是非善悪の判断がつかなくなっているところにに大きな差異があるのです。さらに目に見えないメカニズムが理解できなくなるので、自動販売機や交通機関の自動改札などが上手く使えなくなります。 |
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実行機能障害 |
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健康な人は頭の中で計画を立て、予想外の変化にも適切に按配してスムーズに進めることができますが、認知症になると、計画を立てたり按配をしたりすることができなくなり、日常生活が上手く進まなくなります。たとえばスーパーマーケットでニンジンを見て、健康な人ならば「自宅にはゴボウがあるので、きんぴらを作ろう」と考えますが、ところが認知症になると、自宅のゴボウのことはすっかり忘れて、ニンジンと一緒にゴボウも買ってしまいます。さらに夕食の準備ではそれらのこともすっかり忘れて、別の材料で全く別の総菜を作ったりします。後に残るのはニンジンと二つのゴボウです。こういうことが幾度となく起こり、冷蔵庫には同じ食材が並ぶことになります。認知症の人にとっては、ご飯を炊き、同時進行でおかずを作るのはこのように至難の業なのです。 |
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感情表現の変化 |
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認知症になると、その場の状況が読めなくなってきます。通常、自分の感情を表現した場合の周囲のリアクションは想像がつきます。私たちが育ってきた文化や環境、周囲の個性を学習して記憶しているからです。さらに、相手が知っている人なら、かなり確実に予測できます。しかし認知症の人は、記憶障害や見当識障害、理解・判断の障害のため、周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなっているので、時として周囲の人が予測しない思いがけない感情の反応を示すことがあります。 |
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■認知症の症状:(B)周辺症状 |
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抑鬱 |
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鬱状態は一般に認知症が高度になる以前に見られるのが普通です。認知症がはっきりする以前に鬱状態が先行して見られることもしばしば見受けられます。 |
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幻覚&妄想 |
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認知症の初期に目立つことが多い症状です。妄想の主題は現実的なのが特徴で、妄想の対象は身の周りの人が多いという傾向があります。特に「物盗まれ妄想」は老年期に見られる典型的な妄想のタイプです。しかもこれは、認知症の老人が物の置き場所を忘れてしまったために被害妄想が生じるという単純な理由で、説明が可能というわけではありません。妄想対象に対する強い攻撃性が見られ、物が見つかっても自分の誤りを認めようとしません。「嫁が私の財布を隠した」などと言い張るのはそのよい例です。 |
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譫妄 |
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譫妄は急性の脳障害に伴って起こる軽い意識障害で、判断力や理解力が低下し、しばしば幻覚や妄想が現われて興奮状態になります。健康そうに見えても潜在的な脳疾患があるような高齢者に生じやすく、認知症患者ではしばしば認められます。意識障害のために見当識や認知能力の低下が起こり、同様の症状が見られる痴呆との鑑別がしばしば問題となります。譫妄の症状は認知症と違い、時間単位或は分単位での急速な変化、日内変動を伴いやすいのが特徴です。特に夕方から夜間にかけ起こりやすく、しばしば異常な興奮状態を伴います。徘徊したり奇声を上げたりするなどのために介護する人にとって大きな負担になります。 |
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暴言&暴力 |
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自分の中の感情をコントロールできないことによって起こる症状です。介助の時や行動を制限する時に現われる傾向があります。暴言や暴力、大きな声の威嚇などが具体的な症状になります。また、幻覚や妄想から起こる場合もあります。 |
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徘徊&行方不明 |
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一般的に認知症が進行すると、徘徊が顕著になって、帰る道筋が分からなくて行方不明になることが増えてきます。これには譫妄が関係している可能性も考えられます。自分の住んでいる場所が自分の家であることが分からなくなり、生まれた家や転居前の居宅など以前住んでいた家が本当の住まいだと思って探し歩いたり、物を置いた場所を忘れたり、トイレの場所が分からなくて探して歩き回ったりします。一見すると無目的に歩き回っているように見えますが、その実、何らかの理由が存在することが多いと考えられます。 |
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異食 |
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中度から高度の認知症に見られます。紙や土、さらには糞など食物ではないものを食べてしまうことがあります。脳の特定の部位の障害によって現われる手に触れる物は何でも口に入れてしまう傾向(口唇傾向)によると考えられます。異食の前段階においては、廊下や家の中を徘徊している途中で周辺に落ちているものを拾っては集める行為から、それを食べ物と誤認して口に入れる行為に繋がってゆくのではないかと考えられます。 |
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認知症とその対策 |
高齢化が進み、認知症や認知症による徘徊などの症状は社会問題にもなっています。認知症になってしまったら、どのような対策が必要なのでしょうか?
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早期発見と早期受診 |
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認知症は早期に発見することが重要だとされています。早い段階で発見、受診することにより、認知症を改善したたり、進行を遅らせることができる場合があるのめです。また、いざ症状が重くなってしまった場合に対する環境や心の準備を本人や家族が行なうことができます。
認知症は、本人よりも家族が気づくことが多いものです。昔のことはよく覚えているbのだけれど、ついさっきのことを忘れているとか、場所は分かっているのだけれど、時間や日付が曖昧、以前興味があったことに興味がなくなっているなど、「何だかおかしいな」と思うようなことがあれば、なるべく早い段階で家族医療機関を受診させるようにしましょう。 |
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家庭での対策 |
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家庭で認知症の介護をするのは家族にとって大きな負担となることが多いです。そのため、お互いが安全に安心して暮らせるような工夫が必要となります。
認知症では、物忘れや見当識障害などで日付や時間を何度も聞かれることが多くなります。そのため、見やすい場所にメモを残すとか、日付の表示されるデジタル時計を用意する、カレンダーに毎日○を付けてもらうなどの工夫が必要になります。また、徘徊がある場合は、出来るだけ一人にさせないよう、介護保険のサービスを利用しヘルパーさんを頼んだり、玄関やドアにセンサーや鍵を設置するなどすると安心です。担当のケアマネージャーや地域包括センターなどと相談しながら、出来るだけ家族の負担を少なくして介護を行なえる方法を探してゆきましょう。 |
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参考:寝不足や睡眠の浅い人は注意 |
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寝不足の人や、夜中に何度も起きてしまう睡眠の浅い人は注意が必要です。熟睡できない人は、脳髄液によるアミロイドβの排出量が減少し、蓄積しやすい状態にあります。睡眠時無呼吸症候群などの人は医師に相談しましょう。会社にお勤めの方の中でも中間管理職の人は、特にストレスレベルが高く、睡眠の浅い方が多い傾向にあるので注意が必要です。 |
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認知症は予防できるか? |
残念ながら認知症の予防に決定的な方法はありませんが、生活習慣病の予防は認知症予防にも繋がります。
認知症はある日突然発症するわけではありません。脳の小さな変化が少しずつ進行し、かなり進んだところで、疑いようもない認知症の症状が出て来るのです。
最近注目されているのは、明確な認知症の症状が出る一歩手前の段階で、これを「軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)」と言います。この状態は、程度の差こそあれ誰にでもあるとされているのですが、この認知症の予備軍の時期に運動などの対策をとることで、発症を予防したり、遅らせたりすることが可能だとされているのです。近年、盛んに研究が行なわれています。そのためにも、早めの発見と対策が肝腎で、何かおかしいと思ったら、なるべく早く医師の診察を受けることが大切です。
また、認知症の中でも血管性認知症は動脈硬化などによる脳梗塞など血管の病気が原因なので、動脈硬化を防ぐことが認知症の予防にもなります。動脈硬化は生活習慣と関わりが深く、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満、運動不足などが危険因子となります。発病を予防dするためにも、バランスのが取れた食事や適度な運動を心懸けましょう。なお、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満、運動不足といった生活習慣病の危険因子は、アルツハイマー病も生じやすくさせることが疫学調査によって明らかになっています。
今はまだ認知症予防に決定的な治療法はないとしても 、バランスがよい食事や適度な運動は、認知症が生じる可能性を低くするばかりでなく、心筋梗塞や脳梗塞、癌など多くの病気のリスクも減らします。広い意味での健康維持と捉えて、対策に取り組んでゆきましょう。たとえばしりとりをしながらラジオ体操をするなど、運動に脳の活動を加えるデュアルタスクは、特に認知症予防に効果があるとされています。また、食べものの代表格は魚です。青背魚にはDHAとEPAが豊富に含まれており、脳の機能を保つ働きがあります。その他にも脳トレや社会参加など、ストレスを感じないものなら積極的に試してみるといいでしょう。
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認知症予防に大切な要素 |
ひと昔前まは予防できないと言われていた認知症ですが、現在、世界中で様々な研究が行なわれいて、認知症なりにくくなる予防方法は分かってきました。
認知症予防には大きく分けて2通りの方法があります。ひとつは、食生活や運動、生活習慣など日々の生活の中で見直す方法であり、もうひとつは、ゲームやサプリなど能力を補ったり改善させる方法です。
運動習慣 |
様々な研究で有酸素運動が認知症の予防に有効だとされています。特に1日30分以上の運動は生活習慣病の予防にも有効です。少なくとも週に3日以上、1回30分程度の有酸素運動をしていると認知症になりにくいとも言います。ウォーキングやジョギング、水泳などが効果的だとされます。もっとも特に激しい運動は必要はないので、歩くことや日常の作業の中で意識して身体を動かしましょう。
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生活習慣 |
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タバコと認知症 |
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最近の研究で酒やタバコと認知症の関係が明らかになって来ました。タバコは百害あって一利なしです。それというのも、今まではただタバコは認知症に悪いらしいということでしたが、最近の情報でタバコを吸う高齢者は認知症になる危険性が2倍もあるという結果が発表されたのです。タバコは自分のためだけでなく、家族をも健康の害に巻き込む危険性があります。節煙などと言わず禁煙しましょう。 |
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睡眠習慣 |
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睡眠障害がある人は認知症になりやすいと言われています。充分な睡眠時間を確保し、熟睡感を得られるような睡眠の質を確保しましょう。起床後は日光を浴びることも大切です。また、30分以内の昼寝の習慣もあった方が認知症になりにくいとされています。 |
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生活習慣病と認知症 |
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認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は生活習慣病との関連があるとされています。その証拠に、代表的な病気である糖尿病はそうではない人と比べて2〜4倍もアルツハイマー病などのリスクが高くなると言うのです。また、血糖値が高いと脳の神経細胞が損傷を受けやすくなります。更に糖尿病は脳の動脈硬化を促進すると言います。逆に認知症が糖尿病を悪化させることもあると言います。高血圧もそうですが、生活習慣病とは悪い意味で密接な関係があるとされています。要するに生活習慣病によって脳血管に障害が起きたり脳の機能自体が低下することで、認知症が発症しやすくなると考えられているわけです。
- 高血圧症
血圧が高いことで血管に負担がかかり、動脈硬化が起こります。そして、動脈硬化により心臓にも負担がかかります。その結果、血圧が更に高くなり、脳卒中のリスクを高めます。なお、高血圧の定義は診察室血圧値で140/90mmHg、家庭血圧で135/85mmHg以上の場合になります。
- 糖尿病
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があり、2型糖尿病が生活習慣病に当たります。インスリンの分泌が減少することや働きが悪化することでブドウ糖が使われず、血糖値が高くなります。肥満やメタボリックシンドローム、過食や運動不足と加齢が合わさって発症します。
- 肥満、メタボリックシンドローム(内臓脂肪肥満型)
内臓に脂肪が溜まった結果、高血圧や脂質異常症を引き起こし、メタボリックシンドロームとなります。肥満による無呼吸症候群の影響で脳に酸素を送ることができず、脳障害を招く原因になることもあります。
- 脂質異常症
血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)量増加によって血管内にコレステロールが溜まり、血管が狭くなってしまう疾患です。過食や運動不足によって起こる肥満やストレス、過労、喫煙、睡眠不足などが原因とされています。
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生活習慣を見直すチェックポイント |
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- 睡眠:
早寝早起きを心懸け、昼寝は30分以内にしましょう。
- タバコ:
辞めましょう。
- ストレス:
溜め込まず、発散できる場を設けるようにしましょう。
- 会話:
話すことで脳へ刺激を与えることが出来、気分転換にもなります。友人や家族と会話する時間を設けましょう。
- 歯磨き:
毎食後歯磨きを行ない、健康な歯を維持するよう心懸けましょう。
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食習慣 |
近年の研究で、ビタミンEの多い食習慣がアルツハイマー型認知症を予防する効果があることが分かって来たと言います。また、ビタミンB群やビタミンC、βカロテン、カルシウム、亜鉛、鉄などのミネラルが少なかったり、コレステロールなどの脂質の摂取量が多いと認知症になりやすいとされています。更にDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸と呼ばれる栄養素の摂取が認知症予防に効果があるとされています。従って認知症の予防には、野菜や魚、果物を中心とした食事が寛容だと言うことになります。
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対人接触 |
人付き合いが多い人は認知症になりにくいとされます。一人暮らしの高齢者で外出せず閉じこもりがちな人ほど認知症になりやすいと言われます。
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知的行動習慣 |
認知症になると低下しやすい記憶力や注意力、判断力などを刺激するため、チェスやオセロなどのボードゲームやパズル、文章の読み書き、楽器の演奏、ダンスなどを行なうと認知症になりにくいとされています。従って、日頃から頭を使う習慣をつけるように心懸けましょう。
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ゲームで頭を使う |
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頭を使うゲームはとても有効です。将棋や囲碁、麻雀などがあります。一人でできるパズルやクイズなども、ももちろん効果が期待できます。 |
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会話で脳に刺激 |
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会話は意識をしていなくても自然に頭を使います。出来るだけ人と会い、おしゃべりをしましょう。脳に刺激を与えて活性化します。年配者の井戸端会議は最高の脳トレになります。 |
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頭と身体を使う |
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最近注目の園芸療法もそうですが、余り大袈裟に構えなくても、花を育てたり、水やり、草むしりでも充分運動にもなり、目からの刺激で脳にもよい効果が期待できます。 |
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【2】認知症予防と効果的な運動療法 |
認知症の予防には運動療法が効果があることが分かっています。
本節では、認知症予防に効果的な運動療法について取り上げ、解説しました。
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運動で認知症を予防 |
認知症予防と運動療法 |
どんなによいと言われる薬やサプリメントも適度な運動が前提で初めて効果が見込めるとも言われます。それでは、なぜ運動で認知症予防なのでしょうか?
認知症予防に適度な運動が効果的と言われるようになってから、生活の中に運動を取り入れる人が俄に増えて来ました。最近は、運動のみでなく、音楽に合わせた運動の方が、より効果的だと言われるようになり、テレビなどでも音楽のリズムに合わせて行なう認知症予防体操が紹介されています。特にその中でも、認知症予防に向けた運動として昨今注目を集めているのが、国立長寿医療研究センターが開発したコグニサイズです。運動をしながら、しりとりや簡単な計算などの脳トレを一緒に行なうことで認知症の予防と健康促進を目指します。
筋肉への負荷が低く、一定時間行うことが出来る有酸素運動がよいと言われています。20歳を過ぎると人間の脳の神経細胞は1日に10〜20万個減少してゆきます。しかし、細胞が減っても、細胞自体の働きが活発であれば、脳の機能は高まります。有酸素運動は酸素を取り込みながら行なうため、血流をよくし、脳の働きを活発にします。また、心肺機能の改善や脳への刺激、骨の強化、ストレスの緩和・発散などが期待できます。
運動で筋肉を刺激することで血液中の成長ホルモン量が増加します。成長ホルモンは主に脳の海馬(記憶に関係する部分)で脳由来神経栄養因子と言われてる神経系液性蛋白質の分泌を増加させる働きを担っています。脳由来神経栄養因子は脳神経細胞の生存と成長に大きく関わっているため、認知症予防にはとても大切な物質となっています。脳の神経細胞を元気にし、認知症にならない丈夫な脳を作るためにも、毎日30分〜1時間位のウォーキング、または週2〜3日程度(1時間位)の有酸素運動を継続して行うことを心懸けましょう。
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具体的な有酸素運動 |
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- ウォーキング
- ジョギング
- 水泳
- ヨガ
- エアロバイク
- エアロビクス
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運動療法とその種類 |
運動療法は、運動を通して関節機能の改善や筋力の増強、全身耐久性の向上、動作の改善、転倒予防、痛みの緩和などを目的とし、身体機能の改善や生活の質の向上を図ります。認知症の予防や改善に効果があるとことが分かっています。
運動の内容は対象者の状態や目的に合わせて選択されます。運動療法には施術者が対象者の身体を他動的に動かすものと、対象者自身が自ら動く自動的なものとがあります。
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運動療法の種類 |
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- 関節可動域訓練
関節の動きが制限されている部分に動きを加え、関節の動きの改善、関節拘縮の予防を図ります。
- 筋力増強訓練
筋力が低下している筋肉を動かし、筋力の増強を図ります。重錘や徒手で抵抗を加えて行うこともあります。
- ストレッチ
短縮や萎縮を起こしている筋肉を伸張して、柔軟性や粘弾性を促します。
- 持久性・耐久性を促す運動
動作や活動を長時間続けられるための心肺機能や筋持久力、全身の持久性、耐久性を促します。
- 協調性を促す運動
目的の動作を行なうに当たって、力加減や方向、四肢・体幹の連動した動きなどの調整が難しく、拙劣な動きになってしまうことに対して、滑らかで効率のよい動きの獲得を促します。
- 基本動作練習
寝返りや起き上がり、座る、立つ、移乗する、歩行などの日常生活に必要な基本的な動作の練習を行ないます。
- 有酸素運動
ウォーキング、水泳、ラジオ体操など。
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運動療法の効果 |
運動療法で得られる認知症予防の効果 |
加齢や認知症の症状により、徐々に身の回りの動作が行えなくなって来ると、筋力低下や心肺機能の低下、持久性及び耐久性の低下、関節可動域の低下などが起こります。身体機能が低下すると、日常生活動作がますます困難となり、寝たきりへと進行します。転倒のリスクも高くなり、骨折や怪我の原因となることや、関節拘縮を起こすと、介助量も多大となります。運動療法を行ない、身体機能を維持することで、生活の質を保ち、介助量を軽減することが出来ます。運動を行なうことで脳の活性化が促されるわけですが、10分間の軽運動でも実行機能課題成績が向上することや、音楽体操群で視空間認知が有意に改善するなど、認知症で障害される認知機能の改善にも効果があることが分かっています。
また、血液の仕事は脳を活発にするために必要な大量の酸素やブドウ糖を運ぶことですが、運動などによって全身の血行がよくなって脳に充分な血液がゆき渡り、更に脳内の血流もよくなれば、必要な酸素やブドウ糖が細胞にしっかりと届くので、脳の活性化に繋がるのです。
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認知症予防に運動はどのくらい効果があるのか? |
認知症予防における運動の効果は、人を対象にした実験データによると、かなりの効果が既に実証されています。たとえば高齢者の方々に1年間軽い運動を行なってもらったところ、80%の人達に認知機能の改善が見られたと言います。また、アメリカのイリノイ大学の研究で、1週間に10〜15kmのウォーキングを1年間続けた人達は、13年後に認知症になる確率が50%減少しており、週3回のエアロビクスを1年間続けた人達は、記憶力のテストが約3%向上したという結果が出たと言います。またその他の研究では、運動に音楽を組み合わせた音楽体操を1年間高齢者の方々に行なってもらったところ、運動のみの場合よりも、より高い認知機能の改善が見られました。音楽に合わせて運動をすることは、音楽のリズムやテンポを理解し、自分の身体を音楽に合わせて動かし、更に音楽に身体の動きが合ってるかどうかを即時に判断しなければいけないので、複雑な脳の働きを必要とします。このように、運動だけでなく、運動と同時に他の思考回路も使う方がより高い認知機能を得られるとされています。
なお、運動の種類と時間については、10分間ほどの軽いウォーキング(有酸素運動)でも脳の認知機能が高まることが分かっています。ウォーキングの場合、息が少し上がる程度の速さで、しっかりと心拍数が上がることが大切だそうです。
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運動すると何故認知症予防になるのか? |
今まで認知症の原因として一番有力視されていたものがいわゆる老人斑で、これはアミロイドβというタンパク質の一種で、脳の中にできるシミのようなものです。ところが、原因はそれだけではないことがアメリカ・ミネソタ大学の研究で分かってきました。それによると、認知症の人とそうでない人の脳を死後解剖して観察したところ、脳に老人斑がかなりできていても、生前、認知症を発症していなかった人が3人に1人いたと言います。
脳の働きをよくするのに重要なホルモンは幾つか知られていますが、その中でも一番重要とされるものがBDNF(脳由来神経栄養因子)で、このタンパク質の一種であるBDNFが脳内に多いと海馬が大きくなり、老人斑があっても認知症を発症しなかったと言うのです。
通常は、加齢と共にBDNFレベルは下がってゆきます。アルツハイマー病の脳の海馬は、このBDNFレベルが非常に下がってるのが特徴です。BDNFレベルが下がると海馬は萎縮してゆきます。これがアルツハイマー病の引き金となるのです。これと反対に、脳内にBDNFが増えると、神経細胞の破壊が止まり、海馬が大きくなってゆき、記憶の減退やアルツハイマー病の発症を防いでくれます。
このように素晴らしい作用を持つBDNFが運動によって増えることが分かって来たのです。
米国カリフォルニア大学のカール・コットマン教授は、ネズミの籠に車輪を入れて毎晩1週間ネズミを走らせたところ、走ったネズミは走らなかったネズミに比べて記憶力テストで頭がよいことが分かったのです。しかもネズミの海馬を比較すると、運動したネズミはBDNFレベルが上がっていたのです。ネズミは、走る時間が長くなるほどBDNFレベルも上昇していたと言います。このネズミの実験で、運動によってBDNFが増えることが分かり、その後、人での研究も進み、適度の運動(有酸素運動)に加えて頭を使うことを組み合わせて行なう運動(暗算しながらの早歩きや、音楽に合わせての軽い運動)が認知症の予防や改善に効果的であることが分かったのです。
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日常生活で身体を動かすことが認知症予防 |
ウォーキング(早歩き)やジョギング、サイクリングなどの定期的な運動は認知症予防に効果的ですが、日常生活での細々とした動作も、それぞれの小さな動きが積み重ねられることで認知機能が高まるとされています。
米国の80歳代の健常な高齢者500人に腕に特別な装置を10日間付けてもらい、1日の活動量と認知機能テストとの関連性を調べたところ、1日の総活動量が高いほど認知機能テストのスコアが高かったと言うのです。これは年齢や性別、体重などに関係なく、みな同じ結果だったと言います。この結果から、日常生活での小さな動きであっても、それが積み重なれば運動と同じ効果を脳にもたらすということが分かります。
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適度な運動の例 |
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- 運動は軽い運動(有酸素運動)でOK
- 少し息が上がるぐらいの早歩きのウォーキングなどを1日約30分
- 週3〜4回するのが理想的
- 簡単な暗算をしながらの早歩きなど、2つのことを同時にやりながらの運動が効果的
- 音楽に合わせて身体を動かすのも効果的
- その他にも日常生活の中で小まめに身体を動かすことが大切
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運動療法の実践方法 |
認知症の人は他動的に身体を動かされることに不安を感じる人が多く、散歩する、ボールを転がすなどのレクリエーション要素を取り入れた活動の中で自動的に身体を動かせるプログラムを行なうことが多いです。たとえば風船バレーでは、自発性の低い方でも反射的に手を出すことが多く見られます。音楽を流したりリズムをとったりして身体を動かしやすくするキッカケを作ることも有効です。コミュニケーションが取りにくい、指示が入りにくいといった症状が見られる場合には、対象者の身体を直接的に誘導して運動を促すこともあります。寝たきりの人では、他動的に関節を動かして関節拘縮の予防を図ることや、ベッドから起き上がる、座るなど、出来るだけ抗重力姿勢をとることを促します。認知症の予防としては、両手を広げて足は閉じるなど手と足と別々の動作を行う課題や、しりとりをしながらボールを回すなど、頭で考えながら身体を動かすことを行ないます。
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有酸素運動の行い方 |
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最初は有酸素運動を意識するのではなく、気分転換やお散歩がてら、1日10分程度のウォーキングから始めます。慣れてきたところで、週に2〜3日、1回約30分の有酸素運動に切り替えてみます。有酸素運動は少し息が上がる程度の運動なので、息切れしてしまう場合は休憩を取り、息が上がる程度になるよう調整して下さい。 |
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ウォーキングでボケ防止 |
ウォーキングは、近年様々な研究によって脳活性にとって重要であることが次々と明らかになって来ています。
高齢者の方の認知症予防対策には、食生活などの生活習慣、禁煙、或は趣味を楽しむなど認知症防止対策は多くありますが、日常生活に運動習慣を取り入れることで血行をよくし、脳活性効果が高く、痴呆症やアルツハイマー予防することが出来ます。とは言っても激しい運動の必要はありません。呼吸が乱れるほどの強度の高い運動は却って心臓への負担が高く、更に活性酸素の増加を招き、肌や内臓のダメージのリスクが高くなって、糖尿病や動脈硬化の原因となってしまいます。そこでオススメなのは、手軽に出来るウォーキングです。歩くことで身体を動かして脳を刺激し、認知症予防にも優れた効果を発揮します。
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拮抗体操 |
家の中で手軽に出来て、ちょっとした合間に出来るのが認知症予防体操です。その中でもオススメな一つは、座った状態で行なえる拮抗体操です。これは手や足を左右別々に動かす体操で、考えながらの体操なので、脳トレ効果も期待出来るのです。
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コグニサイズ |
コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防体操で、英語のcognition (認知) とexercise (運動) を組み合わせた造語で、記憶の向上を目的とした頭を使う運動を目的としています。
コグニサイズの目的は、運動で身体の健康を促すと同時に脳の活動を活発にする機会を増やし、認知症の発症を遅延させことで、決してコグニサイズの課題自体が上手くなることでが目的ではありません。それというのも、課題が上手く出来るということは脳への負担がそれだけ少ないことを意味しているので、課題に慣れ始めたら、どんどんと創意工夫によって内容を変えてゆく必要があります。その意味では課題を考えることも大事な課題です。
Cognition (認知) は脳に認知的な負荷がかかるような各種の認知課題が該当し、Exercise(運動) は各種の運動課題が該当します。運動の種類によってコグニステップ、コグニダンス、コグニウォーキング、コグニバイクなど多様な類似語があります。コグニサイズはこれらを含んだ総称です。もっとも、コグニサイズは基本的にはどのような運動や認知課題でも構いません。ただし、(1)運動は全身を使った中強度程度の負荷(軽く息が弾む程度)がかかるものであり、脈拍数が上昇する(身体負荷のかかる運動)であること、そして、(2)運動と同時に実施する認知課題(計算、しりとりなど)によって運動の方法や認知課題を偶に間違えてしまう程度の負荷がかかっている(難易度の高い認知課題)であるといった内容が考慮されていることを前提とします。 出来れば運動を行なう皆で一緒にコグニサイズをすることで、間違えて笑って、試行錯誤しながら楽しんで実践できたらよいですね。
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シナプソロジー |
脳を活性化させるには脳に適度な刺激を繰り返し与えることが必要で、楽しく意欲的に行なうことで更に効果的になると言われています。
シナプソロジーは、2つのことを同時に行なう、左右で違う動きをするといった普段慣れない動きで脳を適度に混乱させ、、更に効果的な刺激を与えることで活性化を図ります。複数人で楽しく行なうことで感情や情動に関係した脳も活性化され、認知機能や運動機能の向上と共に、不安感の低下も期待出来ます。このプログラムは、昭和大学脳神経外科の藤本司名誉教授にアドバイスを得て開発されものです。そのプログラムは、じゃんけんやボール回しといった基本動作に対し、五感からの刺激や認知機能への刺激を変化(刺激の変化をスパイスアップと呼びます)させ続け、それに反応することで脳を活性化させてゆきます。刺激に対する反応方法としては必ず動きを伴うように構成されています。笑顔やコミュニケーションが生まれるので、楽しく続けられるのがこのプログラムの魅力です。
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参考:認知症予防のための運動療法に関する参考図書と参考情報 |
◆参考図書:認知症予防のための運動療法に関する参考書 |
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