【3】 世界に広まる醤油 |
「醤油」は日本の食文化の象徴のひとつとしてあげることができます。「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、ますます世界の注目を集めるようになりました。醤油(ソイソース)は、世界100ヵ国以上で利用されるようになった世界的な調味料です。
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江戸時代から海外へ行っていた醤油 |
日本国外への輸出は1647年(正保4年)にオランダ東インド会社によって開始された。この当時は樽詰めされた物が一般的だった。オランダ船と中国船によって運ばれた醤油は、主に中国本土、東南アジア、インド、スリランカなどで使われていましたが、一部の醤油がオランダ本国まで運ばれ、貴重な極東の調味料として珍重されました。伝承によればルイ14世の宮廷料理でも使われたという。フランスでの日本産醤油に関する記述は、『百科全書』(1765年)に現れる。当時の記録によると腐敗防止のために、一旦沸騰させて陶器に詰めて歴青で密封したという。用いられたビンは「コンプラ瓶」と呼ばれた陶器の瓶であり、多数が現存する。なお、「コンプラ瓶」が使用され始めたのは、1790年(寛政2年)からである。
1737年(元文2年)から1760年(宝暦10年)までの24年間(うち1738年は不明)に、約15,570リットルの醤油がオランダ本国へ運ばれたことが判っています。 これは、年平均で約
707リットルの量です。
昔から日本の醤油の品質が大変優れていたことは、西欧の文献からもわかります。1775年(安永4年)から1年あまり、オランダ・長崎商館の医務員として勤務した、スウェーデンの医師で植物学者でもある、ツンベルクが書いた『ツンベルク日本紀行』には、日本の醤油についての記述があります。
「日本人は非常に上質の醤油をつくる。これはシナ(中国)の醤油に比して遙に上質である。多量の醤油がバタビア(ジャカルタ)、印度(インド)、及び欧羅巴(ヨーロッパ)に運ばれる。」(『ツンベルク日本紀行』
山田珠樹訳)
また、フランスのドン・ディドロが編集した『百科全書』第15巻(1765年刊行)にも、日本の醤油についての解説文が掲載されており、当時ヨーロッパでも一定の評価を受けていたことがうかがい知れます。 |
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明治維新以降は停滞期 |
幕末から明治維新になると安価な中国産醤油やインドネシア産醤油(中国系醤油)に押され、明治から大正および昭和前期の醤油の輸出は、主として海外在留邦人向けの範囲にとどまってしまいました。明治14年当時生産過剰気味となっていた醤油の、需要拡大策の意味もあって、積極的に海外展開しようという機運が生まれてきました。日本の醤油は品質的に優れており、ヨーロッパでの評価は高かったものの(例えばイギリスではソースの原料として引き合いがあった)、価格的な問題や大量輸送に適さない和樽容器の問題などで、新たな販路の開拓が困難な状況にありました。
二度の世界大戦などをなどを挟み、戦後の民間貿易が「連合国軍総司令部」(GHQ)により条件付きながら再開されたのは、1947年(昭和22年)8月15日でした。しかし、国内の供給も不十分なこの時期は、輸出に向ける量的余裕がなかったのです。1948年になると、国内の醤油供給にも若干ながら余裕が出始め、醤油輸出再開について検討され始めました。
醤油輸出が再開されて輸出量もしだいに増え、5年後の1954年(昭和29年)の輸出量は約1,725キロリットルでした。輸出再開後は、全体の80%以上がハワイを含むアメリカ向けで、これは戦前の輸出が中国中心であったのと比べると、大きく変わった点といえます。 |
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世界市場開拓期 |
アメリカの醤油市場は、前述したとおり、戦前と違って非アジア系の人々への市場対応ばかりでなく、在留邦人を含めた日系人市場の変化にも対応しなくてはならず、まったくの新市場開拓と変わらなかったのです。その中で醤油を使ったアメリカ人好みの料理を開発し、その料理を試食してもらって、醤油の味を知ってもらおうということでした。またアメリカ人家庭の家族数や家庭での食事の実態から、アメリカ人家庭に合った容器の開発など新たな展開をしていきました。世代交代によって「日本の醤油=本醸造醤油」の味を忘れてしまった日系人へのアプローチも、重要な活動として展開されました。こうした地道な活動を通じて、醤油が肉にすこぶるよく合う(「デリシャス・オン・ミート」)こと、スープやドレッシングの味つけにも適していることなどを訴えた結果、アメリカ人のキッチンやテーブルにも醤油が置かれるようになりました。同様の展開はヨーロッパ、とくに北欧諸国でも成功し、人々の食生活の中に、醤油が根づいていきました。 |
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海外生産により世界的な調味料醤油へ |
現地生産の第一段階として、1968年(昭和43年)1月、米国カリフォルニア州オークランドで原液を日本から運び、現地で壜詰にするという方式が開始されました。 その後アメリカでの醤油の需要は予想以上に順調に増え続け、年間の販売量は工場建設をも可能にするまでになりました。そして1973年(昭和48年)6月、米国ウィスコンシン州ウォルワースに工場が建設され、原料処理から製品までの現地生産が開始されました。
続いて、1984年(昭和59年)11月には、シンガポール工場が完成しました。2015年では12工場が醤油を生産し、ここを拠点に世界100 カ国以上に輸出されている。2010
年時点の日本からの醤油輸出量が1万8千kl。海外での生産量と合わせると日本全体の消費量のおよそ1/4 に及ぶ醤油が海外で消費されているという。キッコーマン1社で見ると80%が北米、13%が欧州、残り7%がアジア・オセアニアで販売されており、2014
年3 月期には海外での売上が初めて国内を上回るなど海外での醤油の消費量は堅調な伸びを見せている。
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【4】醤油の使い方 |
日常何気なく使っている醤油ですが、醤油の特徴を良く知り、さらにおいしく使い方、新たな醤油の利用方法などをご紹介します。
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料理をひきたてる3つの要素 |
醤油は色・味・香り、3つの要素から成り立つ調味料です。主原料である大豆のたんぱく質と小麦のでんぷんが発酵・熟成し、さまざまな味の成分、色や香りの成分に生まれ変わります。非常に多くの成分が含まれながら、味や香りのバランスが崩れないのは、これらが単に混ざり合っているだけではなく、長い熟成期間中、互いに作用し合って、絶妙な調和がとれているためです。無数の要因が絡み合って自然に生まれる、醤油の色・味・香り。繊細で複雑なその魅力が、さまざまな料理のおいしさをひきたてます。
色 … 食欲をそそる美しい色
醤油の色は、種類の区別にも重要です。例えば、こいくち醤油は、透明感のある鮮やかな赤橙色、素材に食欲をそそる美しい色をつけます。うすくち醤油は黄色みを含んだ淡い赤橙色、素材の色合いを大切に生かします。種類によって異なるこうした醤油の色は、主に小麦から生まれるブドウ糖と、大豆のたんぱく質からつくられるアミノ酸が熟成中に反応してできるメラノイジンという物質によるものです。
味 … 五原味が出す奥深い味
<甘味>醤油の甘味は、小麦のでんぷんが醸造中にブドウ糖に変化して生まれます。全体の味をやわらかくし、丸みを持たせる働きがあります。口に含むと、舌の先にこの甘味をほのかに感じます。
<酸味>醤油の酸味は、乳酸菌の働きによってブドウ糖が変化して生まれます。こうして造られた有機酸類は、塩味を和らげ、味をひきしめる働きをしています。
<塩味>醤油の塩分は、こいくち醤油で15~17%。海水の約5〜6倍にもあたりますが、それほど塩辛く感じないのは、その他の成分が塩味を和らげ、深みのある味をつくりだしているからです。
<苦味>苦味成分も醤油の中には数種類含まれています。苦味を直接感じることはありませんが、「コク」を与える隠し味的存在として、醤油の味をすっきりとひきしめています。
<うま味>醤油のうま味は、大豆と小麦に含まれるたんぱく質が、麹菌の酵素で分解され、約20種類のアミノ酸に変化して生まれます。中でもグルタミン酸は、醤油のうま味の主役です。
香 … 香りの成分は約300種類
私たち日本人は、醤油の芳ばしい香りに敏感に反応します。屋台の餅焼き、トウモロコシやイカ焼きなどつい食種を動かされます。
醤油の香りは非常に複雑で、麹菌、酵母、乳酸菌などの微生物の働きによって生まれます。本醸造醤油に含まれる香りの成分は、りんごやバラやバニラなど、現在発見されているものだけでも約300種類。特定の香りが目立ちすぎることなく、全体に調和して醤油の独特な香りをつくりだしています。魚介類や肉類の生臭さを消すスパイスの働きを持ち、加熱すると芳ばしい香りが生まれます。
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醤油のおいしさと効果効能 |
消臭効果
生臭さを消してくれる:マグロのお刺身を食べる時、醤油なしでそのまま食べることを想像してみてください。ちょっと嫌ですよね。刺身に醤油をつけるのは、味付けのためだけでなく、生臭さを消す目的もあります。醤油はたくさんの成分を有していますが、アミノ酸の一種であるメチオニンが変化したメチオールという成分に魚や肉の生臭みを消す作用があります。
加熱効果
焼き鳥のあの香り:焼き鳥や蒲焼などの食欲をそそるあの香り。その正体は、醤油に含まれるアミノ酸とブドウ糖が加熱されて起こるアミノカルボニル反応によるものです。煮物や照り焼きをするときに醤油にみりんを加えることも、みりんに含まれる糖を加えることでこの反応を促進させることにつながっています。メラノイジンという色素と香りの成分ができ、きれいな照りも出てくるのです。
静菌効果
雑菌から守ってくれる:醤油は適度な塩分やアルコール、有機酸などが含まれているため、大腸菌などの増殖を止めたり、死滅させる効果があります。この効果を利用したものが醤油漬や佃煮などで、生鮮食品も醤油で濃く味付けをすることで保存がきくようになります。
緩衝効果
おいしいpHに保ってくれる:食べ物をおいしく感じるのは、弱酸性(pH4~5)といわれています。醤油自体も弱酸性で、醤油を加えることでおいしく感じる弱酸性に近づける効果があります。アルカリ性であるこんにゃくや納豆、生卵に醤油をかけることで弱酸性に近づけたり、「何をかけたらいいか分からないけど、とにかく醤油をかけておけば大丈夫!」という場面もこの効果の一種だと思われます。
相乗効果
両方のよい部分がひきたつ:出汁をひく時、よく耳にするのが相乗効果。昆布に含まれるグルタミン酸、鰹節に含まれるイノシン酸、椎茸に含まれるグアニル酸。これらが一つだけの時より混ぜ合わせた時のほうが、両方の味がともに強められる現象です。醤油に含まれるうま味成分はグルタミン酸が多く、そばつゆや天つゆがおいしく仕上がるのががよい例だと思います。
対比効果
スイカに塩の原理です:一方の味が強く、他方の味が弱い時、強い味がいっそう強く感じられるのが対比効果です。和菓子のあんこの隠し味に醤油を加えたり、煮豆の仕上げに少量の醤油を加えることで甘味を引き立てる現象です。お汁粉やスイカに塩をひとつまみかけるのも同じ効果で、アイスクリームに醤油をかけるとおいしいのもこの効果だと思われます。
抑制効果
塩辛さをやわらげてくれる:漬かりすぎた漬物や塩鮭など、塩辛いものに醤油をたらすと、塩辛さが抑えられ、まるみのある味わいになることがあります。これは醤油の中に含まれる乳酸や酢酸などの有機酸類に塩味をやわらげる力があるため。すっぱすぎる酢の物などに醤油を加えてマイルドにしたり、チャーハンの油っぽさを減少させるのもこの効果だと思われます。 |
ちょっと醤油の使い方 |
豆腐
絹豆腐:おいしい豆腐には淡口醤油、普通の豆腐には溜醤油がおすすめです。
木綿豆腐:溜醤油が一番安定感あり。溜のしょっぱさはほとんど感じられず、豆腐のうま味と調和するので一番のおすすめ。
お吸い物
かきたま汁:生成り醤油、独特の存在感があり、全体をまるく柔らかくする。口の中で変化を繰り返す後味の余韻が独特で魅力的。
貝のお吸い物:本醸造醤油、だしと具材のじゃまをせず上品に仕上げてくれる。三河しろたまり貝の香りと味を活かしたすっきりとしたお吸い物に仕上がります。かつおだしより貝や昆布だしとの相性よいように感じます。
煮物
雑菌から守ってくれる:醤油は適度な塩分やアルコール、有機酸などが含まれているため、大腸菌などの増殖を止めたり、死滅させる効果があります。この効果を利用したものが醤油漬や佃煮などで、生鮮食品も醤油で濃く味付けをすることで保存がきくようになります。
照り焼き
食欲そそるテリとツヤが食欲をそそる照り焼き、鶏肉、ぶりなど両面が焼けたら漬けだれを回しいれ、火を強めてたれをからめる。
ステーキ
美味しさが引き立つわさび醤油で食べたい!そう思う方は少なくないはず。あっさりキレのある濃口醤油でいただくのもあり。濃厚でうまみたっぷりの再仕込醤油でいただくのもあり。どちらも肉本来のおいしさをお楽しみいただけるはずです。
刺身
刺身は醤油とわさびの組み合わせ、マグロ、青魚、白身魚、貝類など組み合わせはお好み次第です。
卵かけごはん
とっておきの醤油を使う場面として、「卵かけご飯」。美味しい醤油と美味しい卵の組み合わせのシンプルでありながら何事にも替えられない食べ方です。 |
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